3話:浮気を許すなユニコーン
波乱の席決めの末、なんとか俺の隣の席は死守された。
だがピンクのユニコーンはあきらめてはいなかった、恐るべき計略を仕掛けて来たのだ。
「君の事...、ずっとずぅ~とぉ、見ててあげるからね♡」
甘ったるくて気味の悪いボイスが聞こえてくる...、真後ろから。
そう、隣の席の強奪に失敗した奴は小生意気にも俺の"真後ろの席"を交渉によって手に入れたのだった。
相手の姿が見えているのであれば"視覚的に監視できる"と言う点では安心できる。
しかし、真後ろに陣取られてしまったらどうだろうか。
自分だけが一方的に監視され、気味の悪い声を浴びせ続けられる恐怖を想像してみてほしい。
「視覚的には認識できないのであれば存在していないも同然」と気休めのような考えが浮かんだが、同時に「視覚的に認識できないのでより恐怖感が増す」という現実を認識してげんなりした。
まさか横の席を守ったことによって状況がより悪くなるとは思わなかった。
このまま一方的に視線を浴びせられるのものしゃくなので、せめてもの抵抗として振り返ってみる。
「やっと見つめ合えたね、ダーリン♡」
より状況が悪化した、なるほどこれが"生き地獄"というのだろう。
誰かに助けを求めようにも「道端で出会ったピンクのユニコーンが人間の姿になって転校して来た」という意味不明な事態をどう説明すればいいのか。
◇
お昼時の休憩の時間、昼食を食べ終えた生徒たちは各々自由に過ごしていた。
ある者は校庭へ繰り出しては運動をし、あるものは図書館に行っては知識をつけ、そして俺は自分の席にてスマホで競馬を見ていた。
高校生にしては不健全な趣味と思われるかもしれないが、賭けをしているのではなく単にスポーツとして見ているのだ。
俺の大好きな馬は「ミスターAB」であり、この馬はもうすでに引退しているが過去のレース映像は動画投稿サイトで見れた。
競馬における3つの大きな賞をとった三冠馬と呼ばれる偉大な名馬であり、常識破りの派手なレースをしてきたことで今なお根強い人気を誇る。
その雄姿に魅せられた俺は、気分が落ち込んだ時にはこの馬の名勝負をみることで自分を奮い立たせていた。
幸いにもあの厄介なユニコーンは転校生特有の"学校案内イベント"によってクラスメイトにより連れ出されていた。
おかげで俺は一人でレースを堪能できるわけだが。
最後尾を走り続け、終盤になってから一気に加速して前の馬をすべて抜き去る。
この「追い込み」と呼ばれる戦い方を得意とする馬であった。
そんなミスターABの映像を見て、俺はうっとりとしていたのだが...、
グギィ
突如肩に激痛が走る、後ろを見ると鬼のような形相をしたユニコーンがいた。
レースに夢中で気が付かなかったが、結構前から戻ってきていたのかもしれない。
「何を見てるの...?、それ...何?。」
ものすごく怒っているようだが、何か気に障るようなことがあったのだろうか。
人間の姿に化けているとはいえ、こいつの正体はユニコーンだ。
ユニコーンの考えることなど人間の俺には想像もつかない。
「...っ、ひどいよ。こんな映像を見てニヤニヤしちゃってさ、僕に対する"当てつけ"なんでしょ!。だからわざと見せつけているんだよねぇ?、そんなにこの馬がいいの!?。僕なんかよりもこの馬が大好きだって言いたいんでしょ、はっきりいって浮気だよ!!。」
ああ、ようやく理解できた。
いや理解したくなかった、こいつはとんでもない勘違いをしている。
俺はそういう目で馬を見ていないし、別に当てつけでもないし、当て馬でもない。
まあ確かにユニコーン視点では馬も恋のライバルとなるのかな...、いや、こんなの普通わからんって。
なお、そもそも転校生の正体がユニコーンであるとは知らないクラスメイト達はもっと勘違いをしていた。
「...聞いたか。あいつ自分の恋人より、馬の方がイイらしいぜ。」
「やばい変態だな。やはりあいつはこの教室に居てはいけない。合法的に排除するべきだ。」
「いやあああああ!、獣よ!、獣に欲情する獣よ!!。」
この俺にとっての地獄はさらに深みを増すのであった。




