2話:殺伐狂気のユニコーン
空前絶後の美形転校生による俺への「恋人宣言」。
その威力は絶大であり、一瞬にしてクラスメイトの嫉妬と憎悪による注目を俺は集めた。
普段はいないものとして扱われているが、ようやく存在を認識してもらえたのだ、涙が止まらない。
男女共にほれ込む転校生の美貌は、今や凶器となって俺を追い詰めていた。
「違う!、こいつは恋人なんかじゃない!。」
何とか反論をこころみたが、
「...じゃあ愛人でもいいよ、いけずさん♡。」
さらなる問題発言で上書きされてしまった。
なんと邪悪で狡猾なユニコーンだろうか、俺をエゴと言う名の祭壇で生贄に捧げるつもりだろう。
異常事態の中で俺は担任に目をやった、この事態を収拾できるのはもはや彼女しかいないと思ったからだ。
俺と目があった担任は少し考え込むようなそぶりを見せると口を開いた。
「昨日までのクラスの幽霊が、今日からは魔女になったというわけか...、おおっ、怖いねぇ~。くわばらくわばら。」
「私はお前を見捨てる、もう知らん」を極めてオブラートに包んで表現したのだろう。
こんなことでよく教師が務まったものだ、もっとも面倒事を避けるのは大人としての美徳なのかもしれないが。
担任にさえ見捨てられた俺はクラスメイトからの罵声を一身に浴びる。
「ありえないわ!、こんなどこの馬の骨ともしらない男が転校生様の恋人だなんて!!」
「そうだ、転校生ちゃんは騙されているんだ!。俺が目を覚ましてあげるから付き合おう!、いや婚約してくれ!!」
「いますぐ奴を拷問し自白を引き出せ!!。転校生に何をしたんだ!!。」
暴言の荒らしが吹き荒れる中、人間に化けたピンクのユニコーンが悠然と俺の方へ歩いて来る。
俺の近くに立つなり、耳元に唇を寄せ、魅惑のウィスパーボイスでこうささやいた...。
「君の生殺与奪の権利は僕がもらったよ☆、ダーリン♡」
耳にゾクゾクとする感覚を味わい、俺は悶絶した。
心臓がバクバクとはね、興奮が止まらない。
脚は激しく左右に振動を繰り返し、やがては自重を支えきれずにへたり込んだ。
その様子を確認するとピンクのユニコーンは高らかに宣言した。
「皆!、この人は僕の運命の相手だから手出ししないでね。約束だよ☆。」
◇
「桃馬 愛」
黒板に書き出された文字、それが奴の人間としての名前のようだ。
ズボンをはいているところを見ると、一応男性に分類されるようだ...、ユニコーンの性別なので確信はないが。
「さ~て、転校生の席は...、あそこが空いてるな。あそこに座りなさい。」
担任は教室の隅を指した。幸いなことに窓際に座っている俺の席とは"真反対"の場所にある席だった。
「いやです。ダーリンの隣に座らせてください。」
さも当然のごとく理不尽な要求をしだすユニコーン。
黙っていればかわいいのに、余計なことを言うのが本当にかわいくない。
いずれ奴のお口をふさぐ手段を考える必要がありそうだ。
「ふむ...なるほど、面白いからやってみなさい。私は生徒の自主性は重んじるからねぇ。生徒同士の交渉で同意が得られればOKだよ~。」
担任は担任で「私は理解のある素敵な先生です!」みたいな態度をとっているが、単に面倒事を避けただけだろう。
生徒同士で話がつけばいいというのは、逆にいえば「自分の知ったことではない。勝手にしてくれ。」という意思の表明だ。
そして肝心の俺の隣の席は、唯一の友である陽太が座っていた。
俺は窓際の席なので、そこが唯一隣の席である。
彼は今朝からずっと机に突っ伏しており、今もなお顔を上げる様子がない。
激推ししていたVtuberが異性コラボしたことがよっぽどショックだったのだろう、行き過ぎたガチ恋勢の悲しき姿であった。
そんな陽太の事情など何も知らないユニコーンは、陽太のもとに歩み寄ると肩に手を置きこうささやいた...、
「ねえ君、僕のために席を譲ってくれないかな?。いいよね、この僕からのお願いなんだから☆。」
自分の可愛さを自覚しているが故の雑な"お願い"。
だが彼の愛したVtuber「馬野ルル」にも引けをとらぬ美貌の持ち主が、リアル世界に君臨していた。
自称「三次元には興味がない男」である陽太と言えども、あっさりと篭絡されてしまうかもしれない。
そんな俺の心配をよそに、彼は顔を上げるなり叫んだ。
「お 前 は ル ル ち ゃ ん じ ゃ な い !」
彼の魂の叫びを聞き、俺は感動の涙を流していた。




