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戦いの火蓋

ニルスたちのいるボドリウス共和国や教会が位置している南大陸に対して広大な内海をはさんで存在している北大陸。北大陸と南大陸は西の彼方でつながっており、正確に言えばボドリウス大陸というさらに巨大な大陸に属しているのだが、その名前で呼ぶ者は考古学者か生粋の地形学マニアだけだろう。




北大陸の西方部を支配し、千年続いている歴史ある大国カルサージュを中心に発足された北大陸同盟。

そしてカルサージュ王国の西方に位置しており、北大陸と南大陸をつなぐ陸路の要で西方公路を支配しているパルシア王国を中心に発足された西方公路同盟。


今、二つの巨大な同盟間がここ、カンナエ平原で世界最大規模の戦乱の火蓋を切って落とそうとしていた。


カルサージュ王国の国王ニバルカは豪傑でありながら政治にも精通しており、カルサージュの国民の間では名君とのもっぱらの噂だった。


そんな豪傑の王は今、平原に陳列しているカルサージュ軍の中心に位置している豪華な絹のテントの中で自身が信頼している臣下たちと頭を突き合わせて来たるべき決戦の時について話し合っていた。


ニバルカ王は国民に名君などと言われているがその実は臣下たちの助言あってのことだということは確と自覚していた。


自らの力不足は自分自身が最もよくわかることであろう。だがそのことを自覚し、改善するのは王としての無駄なプライドが邪魔をし、なかなか叶わないものだ。そんな中、臣下たちの言葉に耳を傾け、改善を図る姿は正に名君の姿であっただろう。


だがそんな名君も今回の戦争が初陣である。緊張のせいなのか、二バルカ王の頬はいつもよりもいっそう引き締まっていた。


「此度の戦争でザナドゥス教国を完膚なきまでに叩き潰し、新秩序を築き上げる!!」


「ですが陛下、本当に教国相手に勝てるでしょうか? 私としては不安が残ります」


ニバルカ王の意思表明に対し一人疑問を呈する男がいた。

ニバルカ王ほどではないが屈強、そして胸まで届きそうな顎髭を左右に分け、右手で握っては常人では到底扱えなそうな巨大な剣をおさえており、剣先を地面に突き刺している。


名はホスロー。カルサージュ王国を代表する屈強な将ではあるが賊の掃討などしか経験がなくニバルカ王と同じく今回が初陣である。


「奴らとて一つの国であることは変わらない。それに今まで長き時をこの瞬間のために捧げてきたのだ。勝てるはずだ……きっと」


ホスローのそばに座っていた小柄な男が声を上げた。鎧や剣は身に着けておらず、代わりに手には古臭い本を携えている。



「教国の動員できる兵力は多く見積もって約百五十万、対してこちらの連合軍は約百八十万程度。しかし、今教国では魔王軍の方へも戦力を傾けなければならない、もちろん周辺国からの侵攻に対しても警戒をしなくてはならないので実際はかなりの兵が本国に残されるでしょう……」


そこまで一気に捲し立てると小柄な男は首を横に振り大きく息を吐き出し、吐いた。


「なんていう、甘い考えは教国には通用しません。魔王軍への相手に少しは数を割いてくれるでしょうが、そんなのはごく一部、教国の兵力のほとんどが参戦してくるはずです。そして教国の兵と我々連合軍の兵では質が違います。教国の兵は実戦で鍛えられていますが、我ら連合軍の兵は、ほとんどが初陣すらまだなのです。残念なことに勝敗は良くて五分五分かと」


「あの教国相手に五分か……決して高い確率とは言えないがやるしかないだろう」






あたり一面に広がる草原を槍先と兜が埋め尽くしている。天高くから降り注ぐ陽光が金属の鎧や武具に反射し光り輝いており、その様子はまさに「鉄の海」と表すにふさわしかっただろう。


ニバルカ王の天幕は平原の中では目立つ小高い丘に置かれており、敵からも味方からもよく見える。


ニバルカ王はそんな天幕を出て陣頭へと馬を進めはじめた。


初陣の者が多いのも相まって兵同士の話し声や恐怖に駆られている声などが所々から聞こえてくる。


ニバルカ王がそんな軍の陣頭に着き馬の脚を止めた時、兵士たちが騒めき始めた。騒めいている兵士たちは皆同じ方角を向き、例外なく顔が恐怖に支配されていた。


兵士たちの向く方角は、対面している西方公路同盟から見て右の方角、つまり北大陸同盟から見て左の方角だった。


ニバルカ王が左の方角を見つめると、大きく砂煙がたっており、何も視認することはできなかった。


だがその終十秒後、その砂煙の中から重苦しそうな白銀の重厚な鎧で全身を固めている兵士と白銀の鎧を装着している馬に乗っている兵士たちが姿を現した。後ろにはさらに人馬の影が確認できた。


騎兵も歩兵もほとんどが重厚な鎧を着ており、その威圧感はすさまじく、ニバルカ王のもとへもビリビリと届いていた。


白銀の兵たちが掲げる旗には教国の紋章である、「鉄で造られた竜」が描かれている。


「奴らが教国の誇る重装甲騎兵と重装甲歩兵か、実際には見たことがなかったが噂以上の迫力だな……」


白銀の兵たちは砂煙の中から出ては前に進み、出ては前に進みを繰り返し隊列を組み始めた。

騎兵は戦列の中央に固めており、その左右を重装甲歩兵で固めている。


白銀の兵の数はどんどん増えていき、最終的には北大陸同盟、そして西方公路同盟、二つの同盟の兵士を足してやっと張り合える程までに膨れ上がっていた。


白銀の兵たちが移動をやめ、砂埃が止んだ時、白銀の兵たちの陣頭から十歩ほど前に出た場所に一人の男が馬に乗り腕を組んでいた。


顔まで鎧で覆っているため顔は見えないが、背には大小二本の剣が提げられている。

双刀の男が草原一体に響き渡るほどの大声を上げた。


「我こそは双刀のデラニア!! 貴様らは今自分たちが何をしでかそうとしているのかが分かっていないようだな!!」


「戦争はザナドゥス教の教えの最大の禁忌である!! もしこの先、戦闘行為を実行しようとした場合には、我ら教国が神に代わり神罰を与える!! だが、我らとて無駄な犠牲を望んでいるわけではない!! 我らが神は寛大である!! 各国の軍は速やかに本国に戻られたし!!」


ふっ、何が神だ。ニバルカ王は内心でそう思いながら周囲にいる部下たちに命令を出す。


「全軍に通達!! 出撃するぞ!! 作戦の周知をもう一度行え!!」


兵数が現実的じゃないって? 確かに……

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