空を駆るコタリト
魔術は世間でなんでもできる便利な力だとか魔法だとか言われたりするが全くの別物である。
魔術は錬金術における代償を魔力によって肩代わりさせるという法則に従って行使しなくてはいけない。逆に言えば法則にさえ則っていればどんなことでもできるというわけである。
「つまり、こんなことだってできる」
ニルスが足で地面を軽く叩いた時、3人の足元に青白く輝く錬成陣が出現し、3人の足下の地面が隆起する。
「なんだ?」
隆起は止まることがなく、やがて3人を乗せたまま三本の柱となり、空中にある「黒い何か」へと向かって伸びていった。
「これはすごい」
ソキウスはほとんど驚くこともなく感心の意を示した。
高度は上がり続け、段々寒くなってきていた。
「黒い何か」へ近づくにつれて、どんな姿なのか見えてきた。
人工物なのは明らかだろう、ぱっと見だと海上を航行する大型の船のように見えなくもない。
だが船と決定的に違うのは、甲板が存在していないことであろう。上半分は船の下半分をそのまま追加でくっつけたようになっており、船が二つ重なっているようでもある。
全てが何かの金属でできているようで、同じ金属で作られたであろう黒い煙突のようなものが側面部や正面部、下部に至るまでに大量に設置されており、小型のものから大型のものまで様々である。
色は黒に加えて、白、そして灰色がところどころに組み込まれている。
「これはすごいな」
ニルスが感嘆の声を漏らしたと同時にアリアが疑問の声を漏らした。
「一体どうやって浮いて……」
3人が空に浮かぶ黒い船を見上げていた時、船から何かが飛び出した。
「何か出たぞ!」
遠目に見ると鳥や凧、もしくは飛竜のように見える。色は青と水色そして紺色が合わさっており、青と白しかない空においてはなかなか見つけづらそうだ。
「こっちに向かってきてます!」
青い凧がなんの音も鳴らさずに超高速で近づいてきた。飛竜や鳥とは比べ物にならない速さだ。かなり距離があったはずなのに、気づいた時にはもう目の前まで迫っていた。青い凧は速度を緩める気はないらしく、そのまま突っ込んでくる。
「ぶつかる!!」
3人が全く同じことを考え、人間の本能で目を閉じた。だがその衝突の瞬間は永遠に訪れなかった。
恐る恐る目を開けた時には青い凧は既にニルスの目と鼻の先で停止していた。
先程までは遠すぎたのと速すぎて見えなかったが、青い凧は思ったよりも小さく上に人が一人乗っているだけで、大きさは凧よりも少し大きい程度の大きさだった。
上に乗っている人は金の髭が大量に木の生い茂る葉のように生えている、体は縦にも横にもでかいが、太っているというよりは筋肉質という方が正しいだろう。その男が頭につけているゴーグル付きの帽子を取り外した。
当たり前だが、中から髭と全く同じ色の金の長髪が現れた。顔は男らしく、何かで切られたような跡が目の下に残っている。
「お前ら何しにきた? 理由によっては消えてもらわなくちゃならねぇ」
「お前は盗賊か?」
「質問に質問で返すな! それと俺らは盗賊じゃあねぇ! 空賊だ!」
その屈強な男は大声で叱り上げた後もブツクサと文句を言っている。
「俺たちは大戦の遺物を返してもらいにきた、首領に会わせてほしい!」
「ほぅ、ならば約束の金貨五万枚は用意できたんだろうな!?」
「それはできていない、だが代わりのものを差し出せる! だから首領に会わせてほしい」
「どうするの?こんな奴らが金を出せるとは到底……うん、うん……わかった」
どこの誰に向かって言ったのだろうか、周りにはニルス達3人と男の他には誰もいないのにまるで存在しない人間と会話をしているかのように見える。
「よし、会わせてやる。くれぐれも首領をがっかりさせないことだな」
「ほら、早く乗れ」
そう言うと男は凧を近づけ翼を少し上下に振った。
男も含めた4人全員が乗り込み、男以外の乗員全員が心内でこんなものが本当に飛ぶのかという不安を抱えていた時、男が声を上げた。
「よし、乗ったな? 行くぞ」
高速で移動しているはずなのに空気の重さも寒さも感じなかった。むしろ過ごしやすいとさえニルスは感じた。流石に4人乗りはきついとも思ったが。
地上が草原の緑と海の青しか見えなくなった頃、凧が黒い巨大な船の船尾の下の部分で止まった。凧は小さな風が靡くような音を鳴らしながらその場で浮いている。
「こちらコタリト一番機、ハッチを開けてくれ」
どうやらこの凧のようなものはコタリトというらしい。
ニルスはコタリトという言葉を自分の脳内で探してみたが自分の脳内にはコタリトなんてものは存在しないということが分かったのみだった。
「こいつが俺らの本拠地ペルーンだ」
男は後ろにしがみついているニルス達の方を向き、自慢げに船に指を向けていた。
数呼吸する間に船尾のハッチが開いた。この世のものとは思えない動きでハッチの内部に入っていく。
ハッチの内部の上部には金属で作れらているであろう蟹の鋏と腕が合わさったようなものが設置されており、その腕が左右に広がり、男がコタリトと言っていた凧の左右の翼をガッシリと掴んだ。
掴まれたコタリトはそのまま内部の奥へと腕によって動かされ、目の前の他のコタリトにぶつかる直前にピタリと止まった。
男がコタリトから下の床へと飛び降りる。
「お前らも早く降りろ」
男の言葉に従い、ニルス達もコタリトに掴まりながら恐る恐る床へと降りる。
周りの壁や床などは全て金属質であり、浮いている方法がなおさら謎だとニルスは周りを見渡しながら
思った。
「こっちだ」
ニルスは男に案内され歩き始めた。コタリトを格納している部屋から無数の部屋を通り、何度か階段を登り降りし、ようやく目的の場所に着いたようだ。かなりの時間がかかったように感じた。
男が「こっちだ」と言うかのように首で奥の部屋を指し示した。
「なんなんだかなぁ……途中ですれ違うのはむさ苦しい男ばかり、しかも全員睨んできやがった。女の子はいないし全くとんだ場所に来ちまったな」
ソキウスはこんな状況になっても変わらず軽口を叩いている。
アリアはソキウスの軽口に対していつもは無視か、辛辣な一撃を食らわせているのだが今回は少し微笑み、ニルスの耳に口を近づかせ話しかけた。
「勇者様、何か賊と交渉できる材料があるのですか?」
「ああもちろん、材料はここにある」
コタリトは上に乗るタイプのハンググライダーみたいな感じで素材は謎。
基本の飛行能力に加え完全に空中で停止したり、真上に浮上することなどができます。
シス一家が開発したわけではありません。




