破滅の槍
東の果ての国ボドリウス共和国、もっともその奥には島国が存在しているのだが、その島国は他国との交流はあまりなく事実上の果ての国としてボドリウス共和国は扱われている。
ボドリウス共和国は二つの半島によって成り立っている国であり、それぞれの半島は陸では繋がっていない。よって必然的に海上交通が発展し、ネオドランド内海での海上貿易によって莫大な富を稼いでいる。だがザナドゥス教国が建国されてからは武器の生産量、輸出量ともに減っており鍛治師の腕が全体的に落ちているという噂も流れていた。
そしてニルス達が向かったのは二つの半島のうちの北の半島、ザナドゥス教国も位置している大陸であるネオドランド大陸の巨大な内海と外界どちらにも面している。
ニルス達は数日かけてボドリウス共和国の首都ダルに到着していた。
「あれ?ソキウスは?」
アリアは少し顔を赤らめながら俯いて言った。
「借りた馬車を返しに行きました。ついでに世界の美女を堪能するとか……」
「あいつの武器を探しに来たってのに……」
ボドリウス共和国の首都ダルは内海と外界どちらにも面している半海上都市であり、全てが貿易のために整えられた都市でもある。
ダルに行けば世界の言語の七割は聞くことができると言われているほど多数の国の商人がこの都市を訪れる。
そしてそんな都市には当然世界中の美しい女が集まってくるのだ。
「しょうがないから、先に皇帝のところに挨拶に行こう」
「そうですね、勇者が突然やってきたとなれば条約締結国だろうと困惑するでしょうし」
魔王を封印するための神の使いである勇者に対して協力を惜しまないという条約が世界各国で結ばれており、その条約での盟主に位置しているのが教国である。
現在、ボドリウス共和国は伝統的な共和制を廃止しており、数年前に国民投票によりカリスマ性あふれる一人の将校がボドリウス共和国史上初めての皇帝に選ばれていた。なのでボドリウス共和国の政治体制は共和制ではなく帝政へと舵を切っていた。
交易で栄えている国のトップの座についている者の邸宅が豪華絢爛であるのは当然のことだろう。邸宅は白い壁に囲われており邸宅の内部には所々に亜熱帯樹が植えられており、中心に位置する中庭には人魚をかたどった大理石の噴水、そして涼しげな雰囲気を出している小ぶりな池がある。
他にも様々な彫刻や鮮やかな花々の数々が壁の中にはあり、昼も夜も蒸し暑いダルに存在している大統領府はまるで砂漠に存在するただ一つのオアシスのようであった。
門に待機している兵士に一度引き留められたが事情を説明したら、すぐに大統領に案内をしてもらえた。それほどまでに世界にとって勇者というのは重要なのである。
「それでどちらが勇者なのだ?女の勇者というのは聞いたことがないが」
鮮やかな赤色のクッションと黄金で作られた玉座に座り、ニルスとアリアを見下ろしている男が1人。肌は日焼けのせいなのか褐色で、目は燃え盛るような赤、年齢は見る限りは若そうで20代前半といったところであろうか。
身につけている白い絹の服には黄金の刺繍がところどころに施されている。
中央のカーペットロードの横には鋼で全身を固めた騎士達が一列に並び、謁見を行なっているニルス達の一挙手一投足を見逃さんと監視している。
「僕が勇者のニルスです、こちらは仲間のアリア、今回は入国の許可を頂きたく」
「既に入国してから許可を申請とはな……」
「ザナドゥス教徒の証である、黒翡翠のプレートさえあれば国境は誰でも超えれますから」
「まぁ、その件についてはいい、入国を歓迎しよう」
ニルスが感謝の言葉を伝えようとしたその瞬間、ニルスも謁見の間に入る時に使った巨大な白い扉が礼儀など知ったものかと言うかのように勢いよく開かれた。
「報告です! あ......申し訳ございません! 客人がいらしているとは」
突然入ってきた男は自分が礼儀を欠いた行いをしたということに気づいたのか深々と頭を下げた。
「よい、申せ」
「は、はい。シス一家より通達破滅の槍大戦の遺物が。金貨五万枚を渡すならば大戦の遺物を返還すると……」
「あんの、コソ泥めが!!」
「大戦の遺物?」
ニルスは思わず呟いた。
金貨五万枚、毎年豪遊に豪遊を重ねても死ぬまで金には困らないほどの額だ。そもそも一般的な市民は金貨など見たこともない者がほとんどだろう。それほどの額を要求できる大戦の遺物というのはどれほどの価値があるものなのか。
いや、どうやら金貨五万枚には余裕で相当する物らしい。先ほどまで余裕綽々で玉座に君臨していた皇帝の顔には明らかな焦りと燃え滾るような怒りが見える。
先ほど、シス一家と言っていたが確かダルの市で噂しているのを聞いた気がする。
金持ちから盗み貧しい人に分け与えることもするということで市民の評判は悪くなかった。
状況から察するにおそらく大戦の遺物というのはシス一家が皇帝から盗み出したものなのだろう。
皇帝が頭を抱え悩んでいるうちに横にいるアリアをつつく。
「大戦の遺物って?」
つつかれたことに反応し一瞬びくりと体が上下に動いた。恥ずかしさを隠すためなのか一度咳ばらいを行ってから話始めた。
「大戦の遺物を知らないのですか?勇者様は大修道院で教育を受けたのでは?」
「あんまりそういうことに興味がなくて、しかも大修道院にいた期間も短いし」
「一般常識ですけどね……」
アリアは少し呆れたような顔をしながら渋々説明を始めた。
「大戦の遺物は過去におこった神と邪神の争いで神を信仰する者たちのために神が直接鍛え上げたと言われている武具の事です。全部で十種類ほどあると言われておりまだ見つかっていない物もあります、ですが大多数はザナドゥス教国が管理しておりボドリウス共和国にあるなど聞いたことも……」
「その大戦の遺物っていうのは金貨五万枚ほどの価値があるのか?」
「伝承によれば一振りで千の軍勢が死に絶えるとか、ですが使えるものは限られているという噂です」
「それが本当ならすさまじい代物だが……」
皇帝は腕を玉座に置き、手で頭を支えている。いわゆる「考える人」のような姿である。「考える人」では地獄の苦悩に対して思索を巡らせていたらしいが、今の皇帝は地獄のことではなく現実に対して思索を巡らせなければならなかった。
周りにいる臣下たちは皇帝自ら選んだ信頼に足る有能な人物である。だがそんないつもは有能な臣下たちも今はただあわただしく話し合っているだけで解決の案は出てきそうにない。
そんな状況を打破するためニルスが口を開く。
「皇帝陛下よ、その盗まれた大戦の遺物というのはどのようなものなのでしょう?」
「ん? まあよいか教えてやろう」
皇帝は教えるべきか少し悩んだようだったがすぐに教えてくれた。
「此度盗まれた大戦の遺物は破滅の槍という絶大な破壊力を秘めた伝説の代物だ」
「破滅の槍?」
「そうだ。その名前の通り敵はもちろん、ふさわしくない者が槍を持てば持ち主さえも破滅させるという危険な代物でもある」
「それでは、私たちがその破滅の槍を取り返して見せましょう」
ニルスは自分を見つめる皇帝の目には疑惑と驚愕、そして期待の意思が込められているように感じた。




