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治安維持活動

「え?」


エウレカ博士の間抜けな声が店中に響き渡る。

博士の顔が一気に青ざめてきて、呼吸も荒くなっている。ニルスが声を掛けようと、肩に手を乗せた瞬間に逃げるように店の外に走り出した。

ニルスも博士を追い外へと向かう。

扉を開けると、広がっていたのは混沌そのものであった。


確かに少し離れたところから火が上がっている。そしてその場所からできるだけ遠ざかろうと逃げている人々が大勢いる。怒号に怒号が響き渡り、人々の恐怖を表した叫び声が道中から聞こえてくる。


「一体何が……」


そう呟いた次の瞬間、先ほどの轟音とはまた違う耳を破壊するような音が響いた。

先程とは違い、地ならしのような音ではなく何かの生物の鳴き声のようだった。

もっとも生物の声にしてはあまりにも大きすぎる気がするが。


左隣では博士が絶望的な顔をし、右隣では先程までも隣にいた鎧がそれぞれ炎の方を向き、立ち尽くしていた。


「この鳴き声にこの炎……竜か……だがなぜこんな場所に」


博士の悲痛な声にもならないような声が霞みながらも発せられる。


隣 にいた鎧の大きさはニルスよりも一回り小さい程度、鎧は全身を隙がないように覆っていて中にいるのが誰なのか、そもそも人間なのかすら判断することはできない。頭の部分には赤色の毛の装飾がつけられてる。

そして胸当ての中心部には2本の足で立ちながら大きく口を開け威嚇している竜が描かれている。


ガチャという金属の音がした。

そう思った時には鎧は咆哮の発せられた元に走り出していた。驚異的な身体能力だ。とても人間のものとは思えない。


「あいつが行ってしまったならば俺も行ってくるとしよう」


「行くって……何をしに?」


「もちろん竜を倒しに」


そう言いニルスは鎧を追って、人をかき分けながら走り出した。前にいるはずの鎧の姿は全く見えない。もう竜の元へ着いたのだろうか。


「少し心配だが、あいつなら大丈夫だろう」


竜の方に近づけば近づくほど音は大きくなり、心なしか温度も上昇している気がした。汗が頬をつたり垂れ落ちていくのを感じていた。

ニルスは魔術師だ。体力には自信がない。


やっとの思いで竜が暴れ、火の手が上がっている場所に着いたが、周りの建物は竜によって焼き払われ、尽く破壊されていて、少し大きめな公園ほどのスペースが出来上がっていた。


竜は飛んでいなく地上で鎧と激しい剣戟を繰り返していた。もっとも片方は剣なのに対してもう片方は硬い鱗だが。


竜には大きく分けて2種類存在していて。片方は翼がついている飛行が可能な種である飛竜、そして翼がついていなく、地上戦特化な四足歩行のトカゲのような見た目をしている地竜。

地竜は飛竜に比べて鱗が圧倒的に硬くそして厚い、飛ぶために重量を削る必要がないからだ。


そして今回の竜は地竜、厄介なのは超高温のブレスと何より、鱗だろう。並大抵の武器では鱗に傷をつけることすら叶わない。

実際、鎧の剣戟では、鱗にごく僅かな傷しかついておらず、竜には全くと言っていいほど効いていないだろう。


「こういう時は俺の出番だ」


ニルスはそう言うとおもむろに両手を広げた。

意識を手の先に集中させ、魔力を循環させる。

魔力が形を成し、インクのようになり放出される。

両手から空中に放出された魔力は空中で次第に円形になり、そして一般的な人の背より一回り小さいほどの錬成陣を作り出した。


錬成陣を作り出すまでに掛かった時間は一瞬。さらにその錬成陣から魔力のインクが錬成陣の上や横に伸び、伸びた先にはもう一つの錬成陣が追加で作られている。これが繰り返され、錬成陣が20個ほど作られ、その全ての錬成陣から光と共に槍や剣が生成されていた。


ニルスは生成した武器を竜へ向け一斉に発射させる。

人が作る鎧ならば簡単に貫けたであろう、だが竜の鱗は人が作った鎧とは比べ物にならないほどの硬さである。ニルスが放った武器が竜の体内に突き刺さることはなく、周りに武器が散らばっただけにすぎなかった。


「いくらなんでも硬すぎる! クソッ! 考えろ!俺は何をすればいい?」


そう言いながらも武器を生成しては飛ばす、生成しては飛ばすを繰り返していた。だが竜はニルスの方へ頭を向けもせず、自身の体の周りでうろちょろしている鎧を捕食しようと、尻尾や頭を振り回し、炎をその巨大な口から吹き出していた。


鎧の動きも若干鈍くなっている気がする。早めに決め切らないとやばそうだ。


「やるしかないか……大丈夫! 俺は勇者だ! きっとできるさ……」


ニルスは小声で自分に言い聞かせると竜の顔の正面に向かって走り出した。


竜はまだ鎧を狙うのに夢中であり、こちらのことは見る素振りすらない。

竜の目の前、竜が口を開け炎を鎧めがけて吐きだそうとした瞬間、ちょうど口の前まで回り込み右手を伸ばし、竜の口の中に突っ込む、そして魔力を操り錬成陣を口の中の手の目の前に作り出す。


「外からがダメなら中からならどうだ?」


錬成陣が一瞬の光に包まれる、その瞬間竜の鋭い眼光が遂にニルスの方へと向いた。その瞬間竜が凄まじい勢いで口を閉ざす。恐ろしいほどに巨大な上下の牙が交差し、ニルスの伸ばしていた右腕を一瞬で噛み砕いた。


「グアァァァアーー!」


腕が噛み砕かれた後の数秒は痛みも何も感じていなかった。だがその麻痺が解けた瞬間体が焼けた。

焼け付くような鋭く荒々しい痛みがニルスの全身を一瞬のうちに駆け巡る。


「……だが……魔術式はもうすでに発動している……俺の腕を嚙み取った代償はきっちりと払ってもらうぞ!」


腕を千切られ血液が大量に噴出している。人生で感 じたことがないほどの痛みに耐え残っている左腕を竜に突き出した。

その瞬間、竜はブドウがつぶれるように体の内側からはじけ飛んだ。四方に血や肉片が飛び散りニルスのローブにベチャリという音を立てながらへばりつく。


「い、一体なにが……というかニルス君、君腕は大丈夫なのかね!?」


どこからともなくエウレカ博士が現れ、驚愕のあまり口を開いたままニルスの方に走ってくる。おそらく隠れて様子をうかがっていたのだろう。


ニルスは少し笑顔で皮肉りつつ言った。


「ええまあ、なんとか、というか見てたんだったら援護ぐらいしたらどうです?」


「冗談を言うでない、吾輩は研究者なのだぞ」


「そんなことより、さっきのはなんだったのだ?竜が体内からはじけ飛んだように見えたが」


ニルスは先ほどから続いている腕の痛みに歯をくいしばって耐えつつも何とか答える。


「水蒸気爆発ですよ、竜の特徴といえばなんといっても口から吐き出す炎、ではその炎はどこで生み出しているのか、それは簡単、もちろん体内でしょう」


「ここまでくれば後は簡単、竜が炎を吐きだそうとしたその瞬間に体内に水を流し込んでやるだけです。そうすれば水は熱によって水蒸気になり一気に体積が膨張することで体の内側からボン!!ですよ」


一方その頃近くの二階建ての家屋の屋根に一人、ニルス達が竜と戦っている間ずっと戦いの様子を見下ろしていた者がいた。

白いローブで身を隠しており、顔などはわからなく膝を抱えて屋根の上に座っている。


白いローブを身に着けたその者が指を鳴らしたその瞬間、唐突に白いローブの者の右肩の横のあたりを中心に魔法陣が構築され、人一人が簡単に通れるほどの黒い穴ができた。それは文字通りその穴の部分のみを暗闇に置き換えたようになっており、その暗闇から足、手、そして頭と体が順々に現れた。


突如としてあらわれた者が元々いた白いローブの者に問う。


「どうだ? 罰は完了したか?」


「ああ途中で器に倒されてしまったけど、目標は達成できたから問題ないよ」


「ほお、器はもうこの街に来ていたのか、なかなか早いことだ」


「結構頑張ってるみたいだよ? 見守り役の伝言しっかり聞いてる?」


「あまり聞いていないが、まあ大丈夫だろう、あの体質ではよっぽどのことが起きない限り死にはしないさ」


「そりゃそうだけど、にしてもあの体質人間味がなくて可哀想」


「しょうがないだろう、そういうものなんだから、それにあまり情をかけるなよ、あいつはあくまで”器”なんだからな」


「何回やってきたと思ってるのさ分かってるよ、あとそろそろ戻ろう、あんまり長居してばれたら笑い話にもならないよ」


そう言った直後、その二人はすでにその場にいなかった。


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