暗澹たる野の遺跡
「にしても、暗澹たる野の中央に遺跡があるとはな」
周囲一帯に木や草が一本も生えておらず、動くものもニルスたち以外にはいない。まさに不毛の土地と言わんばかりな場所だった。
ニルスは数日前の桟橋の出来事など憶えていないような自然な声でソキウスに話しかけた。
いつもはこういうことに対してアリアがどこで仕入れてきたのか分からない情報で解説を始めるのだが、今日はそれがない。それどころか首都ダルを出てから最低限の会話以外は一言も声をあげていなかった。明らかに不機嫌なのが伝わる雰囲気だった。もっとも顔まで黄金の鎧で覆っているため表情を読み取ることはできない。
ソキウスは情報などを集めたりするタイプでは決してないのだが、旅先のある程度の情報はなぜか知っている。ソキウスに言わせれば女の口は水門のように固く閉ざされているが一度開けられ水が流れ出せば止まりはしないとのことらしい。
「確かに聞かないな、俺もダルの街で初めて知った。南大陸の間では、暗澹たる野自体は有名なんだがな~」
暗澹たる野は首都ダルから南方の内陸部に向かって数日歩いた場所にある。
この野が暗澹たる野と言われる所以は中央にある遺跡を中心に草木が一本たりとも生えておらず、人はもってのほか野生動物すらも生息していないからである。
太古の昔から暗澹たる野は同じ風景で全く変わることはなかったと記録には残っている。
様々な時代の様々な学者が調査に赴いたが特に目立った発見はなかった。
そんな暗澹たる野は南大陸全体で、悪魔が住む場所と言われ恐れられているが中央にある遺跡の存在は知らない者が多い。
そんな遺跡に空賊団シス一家の要望を叶えるため、ニルスたちはやってきた。
さらに数時間気まずい時が過ぎ去った。嫌な時間はなぜこうも長く感じるものかとソキウスは思いながらもひたすら歩き続けた。
ソキウスが水を飲もうとしたその時にニルスが急に大地の果てを指さした。
「ん? あれか?」
ニルスの指さす方向を見ると、永遠と続く不毛の大地の果てに岩石のような色をした何かがあった。おそらくあれが遺跡なのだろうと思ったソキウスは陰鬱だった気分が少し上がり、歩みのスピードを少し速め始めた。
近づくにつれて、岩のようだと思っていたものはどちらかと言えば金属に近いことに気づき始めた。形は屋根のない壊れた神殿のようで、巨大な柱と土台だけがある。そこには太陽の光が反射し輝いている。
ニルスたちは遺跡の内部に到着した。内部と言っても屋根はなく床と周囲の柱しかないが。
遺跡の柱や床はやはり金属でできており、空賊たちが本拠地として使っていた飛行船艦ペルーン号の外部の装甲にそっくりだった。
柱に囲まれている遺跡内部の中央には一つの小さな台座がおいてあり、その台座は丁度ニルスの腹部あたりで斜めに切れており、その切断面には人の手の模様が描かれている。まるでそこに掌をかざせと言わんばかりに。
ニルスは思った通りに掌を模様に重ねるようにしてかざしてみるが何も起こらない。
不思議に思いもう一度やってみるもダメ。納得できずに追加で数回再挑戦したところでさすがに無理だと判断し、掌をかざすのをやめた。
「シスは勇者が鍵、みたいなこと言ってたよな? 一体どういうことだ」
周囲の柱に何かがあるのかと思い、ニルスは柱に手を触れて調べ始めた。
だが柱を調べても何もなかった。ニルスはシスが言っていたことを元々大して信用していなかったがなぜか嘘ではなかった気がしていた。
ニルスがソキウスを台座の比較的近くに呼び考えを聞こうとした。
「これ、何だと思う? あきらかに人の掌なんだが………」
「うーん………」
自身を色々な知識がある方だと自負しているソキウスにも流石に存在したかもわからない発展した古代文明のことは分からなかった。
ソキウスが答えられずに考えている間に一人で何かを考えていたアリアが台座に近づいていく。
それを視界に入れたソキウスはこのクソみたいな雰囲気を打開する絶好の好機と思い、ニルスを台座の方へと軽く押し出した。それによってニルスが少しよろけながらも数歩分前へと進む。
前へと進んだ直後のことだった。アリアが先ほどはうんともすんとも言わなかった台座に掌を重ねた瞬間周囲が眩いばかりの光に包まれ始め、アリアとニルスの真下の床に巨大な錬成陣の様なものが出現した。
ソキウスは後ろに飛びのき、まぶしさのあまり目を閉じた。ソキウスがゆっくりと目を開けた時には既に目の前には誰もいなかった。




