暗闇と恐怖
暗い
いや、暗いのかどうかも分からない。とりあえず何も見ることができない。どうやら音は聞こえるようだ。右の方から水の滴り落ちる音が継続的に聞こえる。おそらく自分は座っているのだということはわかる。暗闇に対する恐怖の念がだんだんと押し寄せてくる。
そんな念を押し払うように右手に魔力を込め、手の先に錬成陣を作り出す。錬成陣にさらに魔力を込めると青白い光とともに、赤く周囲を照らすランタンが生成された。それを右手でつかみ取り周囲を何度も見渡す。
周囲の壁や地面は岩石でできており、天井も岩石によって完全に塞がれており、風の流れなどもない。どうやら洞窟のようだ。
ニルスはとりあえず立ち上がろうと足に力を入れるが、中腰ぐらいの態勢の時に後ろからの凄まじい力に引っ張られ、しりもちをついてしまった。
なんだと思い後ろを振り返るとそこには小さく丸まるように地面に座り、腕をつかんで離さないアリアの姿があった。
目の前にいるアリアはいつもの堂々とした様子とは違い息は荒く、目を瞑り下を向いており、腕をつかんでいる手は震えている。震えていることにより鎧がカチャカチャと音を立てている。
「どうした? どこか痛いか?」
返事は返ってこない。
「おい、大丈夫か?」
「………」
少し時間をおいて、ゆっくりと顔をあげニルスの方を見上げながら口を開き始めた。
「す、すいません………大丈夫です………」
その声は非常に小さく、そして震えており、静かな洞窟でなくては聞き取ることはできなかっただろう。
「とりあえず、この兜取るぞ?」
ニルスは返事を待たずにアリアがかぶっていた兜と面頬を外した。
ニルスの方を向いていた顔は真っ青で、汗もかいている。通常の運動程度では汗一滴も流さないアリアが汗を流すところをニルスは初めて見たかもしれない。
「大丈夫なわけないだろ! どうした! どこを怪我した?」
「怪我は………していません………」
「? じゃあどうした? 言ってくれないとわからないぞ」
ニルスには理解できなかった。確かに鎧も傷ついていないアリアが怪我をすること自体がない気はしていたが、こんなにどこかが悪そうな様子を見せられると疑わずにはいられなかった。だがアリアは怪我はしていないと言う。
「実は………」
「どうした? 言ってくれ!」
アリアが口ごもりながらも話す。
「じ、実は………暗闇に対しての恐怖が………」
「………は?」
つい口から出てしまった。アリアの顔が青から赤へと変わる。
「いえ、その………騎士として恥ずかしい限りなのですが………暗闇が………」
「暗闇が怖いのか………?」
ニルスが口を少し開いたままの顔でアリアを見つめる。
「………はい」
アリアがまた目をずらし、顔を地面へと向ける。
ニルスはやはり口を少し開けたまま目をパチクリさせている。
ニルスは今まで騎士として完成されているアリアしか見たことがなかった。そんな中で暗闇を怖がるアリアなど想像したことすらなかった。
呆然としている間にニルスは周りにソキウスがいないことに気づいていたが一旦無視することにした。
ランタン一つで照らされている空間で、ニルスは無限とも思える時が過ぎたように感じた。
空気が変な感じだった。
そんな空気を破ったのはアリアの方だった。
「せ、正確に言えば暗闇そのものというより閉所での暗闇と言った方が正しいでしょうか」
アリアが台本を素早く読み上げる読み手のように、早口で話した。
閉所と言ってもそこそこ広い洞窟だがとニルスは疑問に思ったが、おそらく狭いことにではなく閉じられていることに反応しているんだろうと感じた。
「そ、そうか。とりあえず立てるか? 早く出れる場所を探そう」
そう言いながらアリアにランタンを持っていない左手を差し出す。
魔術で上をぶち抜くことも考えたが今、地下のどの程度の高さにいるかもわからないのにぶち抜くのは非効率、崩落する可能性なども考えると素直に出口を探した方がいいと判断した。もっとも出口が存在しない可能性は十二分にあるが遺跡の何かを起動してここまで来たのだ、入り口があるのならば出口がある可能性は高いだろう。
アリアがニルスの左手を両手でがっしりと掴みヨロヨロと立ち上がる。
「あーそのー………歩けるか?」
「はい、大丈夫です。迷惑をかけて申し訳ない………」
だがアリアはニルスの手を放そうとしない。
「………このままいくか?」
アリアの返事を待たずに、ニルスはアリアの手を引き歩き始めた。
二つの方向があったが、どちらも同じような光景が続いているだけだったので行く方向は勘で決めた。




