起床
なんだろうか、音が聞こえる。
周りで誰かが話をしている。とても真剣に熱心に僕のことを思って話をしている。
それはすぐそこで話しているようにも感じるし、分厚い何かで阻まれているようにも感じる。
少なくとも同じ「ところ」にはいない。
今、僕はどこにいるんだろうか。
体は動かない、周りは暗くて、狭い。海の底に沈んでいくような、それとも浮かんでいるような。でもどっちにしろ明るい方向には行けなくて、どこであろうと暗いまま。
でも、きっと「僕」は一人じゃない。
ベッドの上で目を閉じ、時々うなされながらも横になって寝ているニルスのすぐ横をアリアが不安そうに眼を床に向け、ブツブツ独り言を言いながら、部屋の端から端を行ったり来たり、繰り返している。
ソキウスが少し苦笑しつつ優しく声をかける。
「少しは落ち着いたらどうだ、アリア」
ソキウスに背を向けていたアリアは、そんなソキウスの言葉に対し、風切音がしそうな程の速度で首を声の方へ向け、ほぼ反射的に声を少し荒げて答えた。
「落ち着いています!!」
ソキウスにはとても落ち着いているとは思えなかったが(また徘徊始めているし)さすがに丸々二日、ニルスのそばで看病しているのをそのまま三日目に突入させるわけにはいかなかった。
「勇者様のことは俺に任せて、アリアお前は寝てな」
「なぜで……」「言いたいことは言わなくても分かるが、お前にまで倒れられたりすると正直迷惑だ」
アリアに反論を許さないようにソキウスが高速で言葉をねじ込んだ。
「ですが……」
「それともあれか? 聖騎士様はいるだけで人が起き上がる速度まで速められるのか?」
ソキウスはわざと嫌味ったらしく、呆れたような表情でアリアに問い詰める。いつもの陽気なソキウスからは想像できないような低い声だった。
「それはできないですが……」
「ならいるだけ邪魔だ、おとなしく寝てな」
「……はい」
少し顔をソキウスの方へ向けもう一度反抗しようとしていたが諦めて、扉を開け廊下へと、トボトボと歩いて出て行っていった。
アリアは教国の誉れ高き聖騎士であり、いつもは正論で語るからこそ、こういう正論パンチには弱いのだ。
アリアが部屋を出て行って数時間たったころ、部屋は静寂に包まれていた。
ベッドの傍に、もたれ掛かっているソキウスと眠りについているニルス以外には誰もいない。
「うわああああああ!!」
ニルスは絶叫しながらベッドから飛び起きた。何故か息が上がっており、汗で体はベタベタしている。
そんなニルスの憔悴しきった様子を見てすぐそばにいたソキウスが声をかける。
「悪夢でも見たか? 勇者様」
「ああ、酷い夢を見……あれ? どんな夢だった?」
ニルスは自身の頭を右手で押さえつけながら、何とか夢の内容を思いだそうとするも、欠片も思いだせなかった。
「まあいいか……ところでここはどこで、アリアはどこに?」
悪夢のことを思い出すよりも今の状況を知るべきだとニルスの頭は判断した。
「ここはまだ、盗賊どもの空飛ぶ本拠地。ペルーンとかいう飛行戦艦?の空き部屋だそうだ。アリアは多分自室で寝てる。起こさないでやってくれよ。勇者様のことを心配して丸々二日も看病してたんだからな」
俺は盗賊どもの頭領のシスを呼んでくるから、と言ってソキウスはニルスをおいて出て行ってしまった。
ソキウスがシスを呼びに行っている間に先ほどまで見ていたであろう「悪夢」を思いだそうと努力してみたが、なんの成果も得ることはできずに時間だけが経ち、何も思いだせないうちにドアが豪快に開けられた。
「どうだ、いいお目覚めかい? 勇者様」
ドアを豪快に開けた犯人であるシスが堂々と入ってき、その後にはニルスたちが来るときに案内してもらったガタイのいい男とソキウスが後ろから少し顔をのぞかせている。
「なかなか……いやかなり最悪だ」
シスが鼻で笑い、ニルスの目を見つめながら声をかけた。
「お前が勇者なのは先の件でよくわかった。だがそれはあくまで前提条件、これからあたし達からの要望を叶えてもらう。大戦の遺物の話はそっからだ」
「わかった、要望を聞こう」
「あたしらの願いはただ一つ、ある遺跡の謎を解いてくれ」
「遺跡?」
「ああそうだ、あたしらじゃどうすることもできなくてね、だが中には必ず何かがある。あたしの勘がそう言っているのさ」
「なぜ俺なんだ? 謎解きなら学者にやらせるほうがいい」
「だから、あたしの勘が勇者なら解けると言ってるんだよ」
ニルスはシスのその言葉を疑わざるを得なかったが、他の手段がないため結局はシスの提案を受け入れることに決めた。
「……わかった、契約は成立だ、これからよろしく頼む」
「こちらこそ頼むよ、勇者様」
二人は目を見つめあったままガッシリと握手をしたが、その二人が相手の事を心から信じていないことなどは当たり前だろう。




