第9話 大事な人
クロノの大きな声がきっかけで私達の傍にはそれなりに人が寄ってきていた。
司書っぽい女性の方がクロノをそっと見て、休憩室を貸してくれる。本当は職員が休憩に入るときに使う、職員専用室らしい。人の目がなくなって、クロノと二人っきりになった瞬間、クロノは静かに涙を流し続けた。
どうしたらいいのか分からなくて、一人にした方がいいのかなって扉の方を見る。だけどクロノの手は私の制服をぎゅっと握ったままで。せめて司書さんが呼んでくださった先生が来るまでは一緒に居ようと思い直した。
どうしてそんなに苦しそうに泣くんだろう。どうしてそんなに私を気にかけてくれるんだろう。どうして?は尽きないけど、それを気軽に聞けるような雰囲気でもないし、聞いていいとも思わない。
私が知らない何かがあって、彼は何かにひどくおびえていて。私が近くにいれば少し顔が和らぐ。そんな簡単な事実だけで側にいる理由は十分だと思う。
カチッ。カチッ。と時計のすすむ音だけが静寂を支配する。
「こめん、ね…」
ポツリ、とクロノが呟くように言った。
「上手く、言えないんだけど…」
気にしてない、そんな思いを込めて首を振る。
「大事な、すごく大事な人がいて」
クロノはひねってしまった私の足を心配そうに見つめる。
「…その人は亡くなっちゃって」
辛かったはずなのに、私に説明しようとしてくれる。
「アイリスに、よく似てて、それで…」
言い淀む彼に、無理に言わなくていいと、もう十分だと、心の底から思った。上手く言葉が出てこなくて、私は小さく丸まった彼をそっと抱きしめる。
見ないふりをした涙を、今だけは拭って。それから
「頑張ったね」
と、できる限り優しく、頭を撫でながらそう言った。




