第10話 変化
しばらくして、誰かが近づいてくる音がした。
「大丈夫?」
ノックの後入ってきたのはサイラス先生。クロノの方をチラッと見た先生は私にたずねる。
「何かあったのかな?」
相変わらずのんびりとした声ではあったけれど、表情は笑っていないように見えた。
クロノの目元には分かりにくいけど隈があって、それ以上に分かりやすく泣いた跡があった。私が何かした、とまではいかなくても、私と何かあったと考えるのは当然だと思う。
担任の先生とはいえクロノの個人的な話だから、どこまで話していいのか悩む。困ったように眉を下げる私に、先生は私から聞くのを諦めたのか、クロノの診察をしているようだった。
「怪我はないみたいだね」
ほっ、と一息つくのが分かった。
突然呼び出されて、クロノが大変そうで、近くには転入生がいて、先生もすごくびっくりしたと思う。
…でも、クロノに怪我がなくてよかった。
先生は私の足の怪我に気づいたみたいで、氷嚢を用意しながら、話を続ける。
「アイリス。午後の授業は僕とだったね」
午前は皆に混じって授業を受けていたけど、転入だから話がわからないことも多くて。学園長先生の計らいで選択教科の日は一年の内容を教えてもらえることになっていた。そしてその担当は担任のサイラス先生だ。
「そう、ですね…」
きっと根掘り葉掘り聞かれるんだろうけど、私に答えられることは正直そんなにない。
苦しい空気を変えるかのように先生はクロノに視線を向ける。
「去年のクロノは、自分から話しかけること、ほとんどなかったからね」
私の足の手当てをしながら先生は言った。
「笑わない。泣かない。喜ばない。授業は真面目に受けてたけどね」
先生の語るクロノが分からない。少なくとも私が見てきたクロノは、笑うし、泣くし、喜ぶ。
「印象がカラっと変わったのは今日なんだよ?」
えっ?と声がもれる。わけが分からない。
「いい刺激かは、まだ分からなさそうだね…」
先生はそう言うけれど、実感はない。
クロノに今日訪れた一つの変化。私の転入。まさか、とは思うけど、違う、とも思う。
だって私とクロノは初対面だ。いくら故人に似ていても、それがクロノの性格が変わる原因だとは思えない。
答えを持っているクロノは静かに眠っていて。
鐘が鳴るまで私も、サイラス先生も、ただその姿をじっと見つめた。




