第8話 図書館
「ごめんっ!うちお昼は別の子と食べる約束があんねん」
授業が終わるなりララちゃんはそう言った。よく考えてみれば今の今まで一緒にいてくれたのは、転入生の私を気遣ってくれていたんだと気づく。こんなに明るくて、側にいるだけで元気をもらえるような子がひとりぼっちなはずないんだから。
「ううん。いいの、私もこれから図書館行ってみようかなって思ってたから」
無意識にララちゃんに案内してもらうつもりだった事は伏せて、気にしていないことだけを伝える。
ほんまごめんな、と去っていくララちゃんの背中を見守りつつ、どうしようかと悩む。図書館はだいたいの場所までは先生に教えてもらっているけど詳細は知らない。今日は諦めて、エーテルにでも会いに行こうかな、そう思って立ち上がった時だった。
「…図書館、案内しようか?」
クロノと目が合って、おずおずと言った様子で提案される。ここで断るのも違う気がして、ありがたくお願いすることにした。
「クロノは小説とか読むの?」
道中暇だったから、何となく質問を投げかける。
「あんまり、読まない…デス。嫌いでは、ない…んデスガ」
今朝も何か読んでるみたいだったから、てっきり好きなのかと。でも、小説よりも論文とかを読んでる方が似合う、気がする?
勝手に納得しつつ、無理やり敬語を付け足しているような言葉遣いに少し気まずさを覚える。
…まだ知り合ったばかりだから気を使ってくれたのかな。
どうしても気になってしまった私は
「クラスメイトなんだし、ため口でいいよ?」
そう言った。私の言葉がそんなに意外だったのか、それ以外の理由があったのかは分からないけど、目を見開いた後のクロノは、カタコト感がなくなっていて。
「アイリス、は、小説好きなの?」
「もちろんっ!最近流行ってる、愛する人の呪いを解くために何度も時を遡る王子様の話なんかは特に好きだなぁ」
流行っている悪役令嬢モノも好きだし、英雄譚も好きだし、歴史小説だって面白いと思う。
でも何よりクロノから聞いてくれたのが嬉しくて、つい語りすぎてしまった。気がつけば私達は図書館の前にいて、クロノは苦笑いを浮かべていた。
「ごめんね…」
図書館の中だから小さな声でクロノに謝罪する。さっきも伝えたけど、あまりにも一人で語りすぎてしまったから。
クロノは特に用事がないと言って、旅人について書かれた歴史書を探したい私を手伝ってくれた。用事がないのに案内させてしまったのか、と思いつつ、後悔はしない。クロノの優しさを否定したいわけじゃないから。
「あっ、あれかな?」
少し高い位置にあるけど、本のタイトルはドンピシャそうで。背伸びしたら届くかな、と無理に引き出そうとしたのがいけなかった。
ぐねっ、と足をひねったような感覚がして、掴みかけていた本をぎゅっと捕まえる。
「アイリスっ!」
クロノが叫んで、図書館では静かにしなきゃダメなのになんて考える。無理やり引っ張られた本から順番に前へ飛び出してきて、一瞬のことなのにスローモーションのように自分の現状を理解できた。
落ちてくる、と反射的に目を瞑って衝撃に備える。すぐにドサドサドサッと音がした。けれど1秒、2秒と数えても本は降ってこなくて、ゆっくりと目を開くとそこにはクロノがいた。少し離れた場所にいたはずなのにどうして。疑問は浮かぶけど
「助けてくれてありがとう、クロノ」
私に覆いかぶさるようにして守ってくれたクロノは、今にも泣きそうな顔をしていた。
昨日より、ずっとひどい苦しそうな顔で。




