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アイリスの日常  作者: 紫悠
第一章 新生活と出会い
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第3話 名乗るほどのものでもない

 入学式が終わって、この後新入生は自分のクラスで説明会が行われる。だけど私は転入だから、そういうのがなくて担任の先生に挨拶に行かなきゃいけない。エーテルとは別れて、先生がいるって言う教員室へ急ぐ。


…急いでる。はず。

また迷子なんて、そんなわけない。否定する心とは裏腹に早足になっていく。


「きゃっ」


角を曲がった瞬間誰かとぶつかった。ごめんなさい、すぐそう言ったけど、相手は虫の居所が悪かったのか舌打ちを返してくる。

猫獣人、なのかな。近くで見ると、艶のある毛並みが目を引いた。

「あ゛ぁ?」

睨むように私を見下ろしてくる彼は、鋭い眼差しとは反対にそこまで怒ってないように見えた。


…聞こうかな。でもまだ迷子と決まったわけじゃないし。

私がうんうん悩んでると、彼は踵をかえして去ろうとする。だから

「教員室ってこっちであってますか!」

思わず聞いてしまった。迷子ではない、けど。聞くのは大事だよねって、そう自分に言い聞かせて彼の返答を待つ。


「……誰のだ」


!そっか。教員室だけじゃ分かるはずもない。私が用がある先生以外にも先生はたくさんいるんだから。

「サイラス先生って言うらしいんですけど…」

「はぁ?」

深くため息をつかれた。なんだろう、すごく負けた気がする。


「サイラスのとこは教員棟の中でもこことは正反対の場所だぞ」

飽きれた声でそう言われた。まさかそんなわけと思っていたら、持っていた案内図をくるりと逆さにされる。


「あんたが見てる向きならこっちの方が正しい」


めんどくさそうに言う猫獣人さんは、意外と優しいのかもしれない。だって、だって今、頼んでもいないのに案内しようとしてくれている。

「あ?行かねぇのか」

口は少し悪いけど。

「ううん。ありがとう!」

ちょっとだるそうだけど。

「さっさと行くぞ」

「優しいのね」

心からそう思う。けど、なんだか嫌そうに、そしてしかめっ面になってしまった。

あんまり好きじゃなかったのかな?


「私アイリス。あなたは?」


早足になっている彼に話しかける。

「…。」

でも答えてもらえない。名乗るほどのものでもない、ってやつなのかな。


「ついたぞ。さっさと行け」

不愛想に突き放すようなことを言うけど、私が教員室に入るまで見守っていてくれそうな彼に

「ありがとう。」

と、そう残して、私は教員室の戸をノックした。


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