第3話 名乗るほどのものでもない
入学式が終わって、この後新入生は自分のクラスで説明会が行われる。だけど私は転入だから、そういうのがなくて担任の先生に挨拶に行かなきゃいけない。エーテルとは別れて、先生がいるって言う教員室へ急ぐ。
…急いでる。はず。
また迷子なんて、そんなわけない。否定する心とは裏腹に早足になっていく。
「きゃっ」
角を曲がった瞬間誰かとぶつかった。ごめんなさい、すぐそう言ったけど、相手は虫の居所が悪かったのか舌打ちを返してくる。
猫獣人、なのかな。近くで見ると、艶のある毛並みが目を引いた。
「あ゛ぁ?」
睨むように私を見下ろしてくる彼は、鋭い眼差しとは反対にそこまで怒ってないように見えた。
…聞こうかな。でもまだ迷子と決まったわけじゃないし。
私がうんうん悩んでると、彼は踵をかえして去ろうとする。だから
「教員室ってこっちであってますか!」
思わず聞いてしまった。迷子ではない、けど。聞くのは大事だよねって、そう自分に言い聞かせて彼の返答を待つ。
「……誰のだ」
!そっか。教員室だけじゃ分かるはずもない。私が用がある先生以外にも先生はたくさんいるんだから。
「サイラス先生って言うらしいんですけど…」
「はぁ?」
深くため息をつかれた。なんだろう、すごく負けた気がする。
「サイラスのとこは教員棟の中でもこことは正反対の場所だぞ」
飽きれた声でそう言われた。まさかそんなわけと思っていたら、持っていた案内図をくるりと逆さにされる。
「あんたが見てる向きならこっちの方が正しい」
めんどくさそうに言う猫獣人さんは、意外と優しいのかもしれない。だって、だって今、頼んでもいないのに案内しようとしてくれている。
「あ?行かねぇのか」
口は少し悪いけど。
「ううん。ありがとう!」
ちょっとだるそうだけど。
「さっさと行くぞ」
「優しいのね」
心からそう思う。けど、なんだか嫌そうに、そしてしかめっ面になってしまった。
あんまり好きじゃなかったのかな?
「私アイリス。あなたは?」
早足になっている彼に話しかける。
「…。」
でも答えてもらえない。名乗るほどのものでもない、ってやつなのかな。
「ついたぞ。さっさと行け」
不愛想に突き放すようなことを言うけど、私が教員室に入るまで見守っていてくれそうな彼に
「ありがとう。」
と、そう残して、私は教員室の戸をノックした。




