第11話 サイラス先生
「ありません」
あの後クロノは起きて、選択授業へ飛ぶように向かった。
そして私は今、何があったのか改めて説明を求められている。
「そこをなんとかできないですか?」
相変わらず困ったような顔で先生は言う。それもそうだ。女性の司書さんからは、重々気を付けるように注意しなさい、と言われていたし、保険医の先生からは、クロノがなにかやったのを先生が隠しているんじゃないかって疑いの眼差しで見られてた。今後の面倒を考えると、私から全部を聞いて、誤解を解くのが一番楽だと思う。でも
「クロノと一緒に図書館に行来ました。そのあとクロノが、私の不注意で落ちてきた本から守ってくれただけなんです」
本当にそれだけだから困る。クロノの事情を除けば私の話せることは全部言ったけれど、やっぱりクロノの顔が問題らしくて。
「そうですよねぇ」
先生は私の言葉を疑ってはいないみたいで、場違いながらどうしてだろう?と疑問に思った。
「まぁここで押し問答してもあまり意味はないですからね」
パッと表情を変えた先生は、本当に気にしてなさそうで、あっけにとられる。
「えっ?それでいいんですか…?」
生徒の意志は尊重したいですから、なんて言われたけど、わけが分からない。私だったら気にしないなんて絶対にムリだと思う。
かすかに「あまり興味ないですし」と言う言葉が聞こえて余計に混乱する。
優しい笑顔と突き放すような言葉の落差が少し怖い。
「そういえばっ!先生は旅人だって聞きました!」
それでも私に都合がいいことは事実で、無理にでも話題を変えるために、ララちゃんが教えてくれた話を口にする。
「ん?あぁ…じゃあ今日は旅人について勉強しましょうか」
どこまで知っていますか?と先生に問われる。
「こことは異なる世界から旅をしてきた人達…ですよね?星渡の伝承なんかは小さい頃から聞かされて育ちました。後は…魔術に頼らない道具を発明したとしか」
ドライヤーやレインコート。お化粧品なんかも昔の旅人さんがこだわった結果、生活水準があがった例もあるらしい。
「そうだねぇ。かくいう僕も旅人だけど…歴史に残るような偉業は成し遂げてない。つまり歴史に残っている人以上に旅人はたくさんいた可能性があるんだよ」
それにね、くるりと背中を向けて先生は続けた。
「あまり知られていないけど、旅人には2種類あるんだ。」
黒板にチョークで書き込まれ、大人と赤子の図が描かれる。
「転移と転生。僕は、どっちだと思う?」
先生はそう言うけれど、私には分からない。
伝承の中の旅人はすごい人ばかりだ。
突如として現れ、世界のために魔王と闘った人。幼いころから商人として名をはせて、世界一の商会を作り上げた人。奴隷からお姫様になった人だっていた。
どの旅人も、いつだって優しくて、人のために行動して、仲間と友情を育んで、それで、世界を変えるようなすごい人ばかりだった。
でもサイラス先生は、草まみれでも気にしないし、大事な鍵はなくしちゃうし、説明もちょっぴり足りてない。私にとっては優しい先生だけど、絵本に出てくるような英雄には見えなかった。
「て、転生?」
とりあえず無視はよくないかなと言ってみる。先生がにっこりと笑うから正解なんだと思ったけど。
「かもしれませんね!」
あまりにもにこにこして言うから、それ以上は聞けなくて。
答えはわからないまま、授業は進んでいった。




