第七章(2)
帰りの馬車は重苦しい空気に包まれていた。
もちろんエマは側にいてくれるけど、私の心情を読み取ってくれているのだろう。特に何も言わず、ただ寄り添ってくれるだけ。でも、それが心強かったりするのだ。
「アーヴィンに……会いたいかも……」
誰に言うわけでもなくこぼれた本音は、エマの耳にも届いていたようで、彼女ははっとした様子で私を見つめてきた。
「奥様?」
「ごめん、なんでもないの……」
「なんでもなくありません。旦那様にあんな仕打ちをされて。今ではリンダさんが我が物顔で社交の場に立っているという話ではありませんか」
それはシオドアが連れていくからだ。
「奥様はめったに……」
パートナーがいないのに、一人で行ったところでいろんな矢面に立たされるのは目に見えている。それよりも、領地の支出の件でも頭が重く、夜な夜なパーティーとかそういう気分ではなかった。
だけど、そんな私にパーティーのお誘いがあったのは、もちろんアーヴィンから。
彼もシオドアの噂を耳にしているようで「そろそろ俺たちの仲を見せつけてもいいんじゃないか?」と笑っていた。
私としては重い気持ちが半分、そして彼が言うようにそろそろ二人の仲を周知させたい気持ちが半分で、心情はすごく複雑だった。
私とアーヴィンが顔を合わせる場は、何もお茶会だけではない。アーヴィンが変装して町歩きを提案するから、私もそれに従うだけ。途中まではエマたちが同行してくれるけど、アーヴィンが合流すると、彼女たちも気を使って私たちを二人きりにしてくれる。
そしてアーヴィンは、驚くくらいにいろいろな店を知っていた。
今日はパステルカラーのかわいらしいカフェを案内されたが、ここは個室もあって密会にはちょうどいいらしい。アーヴィンとパステルカラーは少し似合わないが、お店の雰囲気は悪くない。
「セリウスの誕生日パーティーだ。俺たちにはちょうどいいデビュー戦だろ?」
セリウス王子の誕生日パーティーとなれば、国内の有力貴族だけでなく、国外からも関係者が駆けつける。ちょうどいいというよりは、派手すぎないだろうか。
「ポーレット公爵家にもロンペル子爵家にも、招待状は送っておく」
義両親は夫婦で参加するにしても、シオドアのパートナーは間違いなくリンダだ。
「もう少し、こぢんまりとしたパーティーからのほうがよくないかしら?」
「君とシオドアの不仲説は、ここ一か月でありとあらゆる場に広まっているんだ。今さらだろ?」
アーヴィンがずばっと言ってしまうほど、ロンペル子爵夫妻の結婚生活は破綻しているという話が広まっていることは否定しない。結婚生活はもって三か月だったとか、半年もよく持ったなとか、結局一年ももたなかったとか、そんな噂だ。
だって一部の人間は、リンダの存在すら知っていたのだから。シオドアが学生時代にリンダと懇意にしていたと知るのは、やはり私たちと同学年の彼らだ。
「イレーヌは我慢したと思うし、結婚してからもロンペル子爵家のために奔走していたんだろ?」
「そうね。だって、領民は悪くないもの。といっても、今まではポーレット公爵のほうで一括で見ていたから。それが本来の形になっただけよね。でも、領主が変わったから生活が苦しくなったって思われたくなかったんだけど……やっぱりダメみたいね。義父から援助を受けることになりそうよ」
「だけど、そこにカラクリがあったとしたらどうする?」
「え?」
どこになんのカラクリがあるというのか。
「本当はもっと速くにポーレット公爵の不正を暴いていれば……」
悔しそうに顔をしかめるアーヴィンに、なんて声をかけたらいいかわからない。
「だが、今は君が公爵家の一員だから。先に君を奪ってから、すべてを明らかにしようと思う」
そんなことを真顔で言われてしまえば、顔が火照ってしまう。
「そのためにも、そろそろ俺と君の仲を周知させるべきだと思ってね。エマたちのためにも」
意味ありげにエマの名を出すアーヴィンの意図はよくわからない。
次は9/12更新予定です




