第七章(1)
シオドアの件を相談しようと、私はポーレット公爵家へと向かった。
「やぁ、イレーヌ。久しぶりだね、元気にしていたかい?」
「ご無沙汰しております、お義父様」
通された応接室で、挨拶を交わした後、私は早速本題に入った。
「実は……お義父様に折り入って、ご相談がございます」
「どうした? あらたまって」
義父は笑みを浮かべているが、目の奥は私を観察するかのような鋭さを感じた。
「シオドアのことです」
私がシオドアの名を出せば、ポーレット公爵も身体を折って、身を寄せてくる。
「離れに愛人のリンダさんを住まわせているのですが……」
私が切り出したところで「あぁ、そんなことか」と、公爵はソファの背もたれに身体を預けた。
「愛人の一人や二人で、文句を言うものではないよ」
まるで私を宥めるような穏やかな声。やはり義両親も、シオドアが愛人を住まわせているのを知っていたのだ。
まあ、あれだけ使用人たちも噂しているのだから、どこから漏れてもおかしくない。
「はい。彼が愛人を住まわせていることは問題ないのですが……ただ、お金の使い方が荒くて……」
そこでポーレット公爵は、私がなんのためにここへ来たのかを理解したらしい。
「そうか……それは困ったな。もしかして、利益が出ないのか?」
答えるのも恥ずかしく、小さく顎を引いて「はい」と返事をする。
「シオドアは税率を上げればいいと簡単にいいますが……シオドアが子爵領を継いですぐにそのような施策を行えば、領民からの反発も目に見えています」
「あぁ、そうだな」
義父は顎を撫でながら、何やら思案している。
「今年度は昨年よりも利益が出ておらず、公爵領にお支払いできる税が減りそうなのです」
税は、利益に対して何パーセントと割合で決まっている。だから、利益があるときは多くの税金を支払うし、利益がなければ払う税金も少なくなる。
「それのご報告でした。お義父様から引き継いだとたん、このような結果になってしまい申し訳ありません」
「いやいや、イレーヌはよくやってくれている。それよりも問題はシオドアだな。愛人にどれだけ貢いでいるのか知らないが……よければそちらの支払いを援助しようか?」
「え?」
それは思ってもいない提案であった。むしろシオドアは「金がないなら、父さんからもらってくればいいだろ」と言っていたが。
「まぁ、愚息がしでかしたことだ。親として責任を取る必要があるだろ?」
「そうですけれど……」
いくらシオドアがそれを望んでいたとはいえ、こうもやすやすと援助を受けていいのだろうか。
「なに、遠慮する必要はない。私たちは親子なのだから」
目を細めて笑うポーレット公爵だが、やはりその目の奥には恐ろしい何かが潜んでいるようにも見える。
ここまで言われて断るのもおかしいだろう。
私は公爵の援助に手を伸ばした。
「そういえば……以前、ドレスを贈ってくださったのはお義父様でしたのね? ありがとうございます」
「ん? なんのことだ?」
義父は顔をしかめ、片眉をひくりとあげる。
「シオドアがリンダさんに新作のドレスを贈ったという話を耳にされたのですよね? それで私が恥をかかないようにと……」
「あぁ、そんなこともあったかな」
どこか遠い目をする義父だが、そのしぐさはどこかわざとらしい。
「だけど、お義父様のご厚意も、無駄になったかもしれませんね。シオドアはこれから、社交にはリンダさんを連れていかれるようです。それもお義父様たちにお伝えしておいたほうがよろしいかと思って……」
「そうか、息子夫婦のことだからな。私からは何も口を出せないが……だが、イレーヌ。しょせん、愛人は愛人だ。立場の違いを意識しておくように」
私の両親は夫婦仲がよく、浮気だの愛人だの、そういった話が聞こえてくることはなかった。
だからきっと、シオドアが愛人を連れて歩いていたら、私の両親が激怒するのが目に見えているが、義理の両親にいたっては非常に落ち着いている。つまり、これは珍しい話ではないということだ。
「はい、お気遣いいただきありがとうございます」
「……だが、ドレスについてはシオドアが私費を使ったとは考えなかったのか?」
義父は、少し意地悪そうに私に問いかけた。
「そうですね。ですが、シオドアは私費もほとんど賭け事で使ってしまっているのです」
呆れて物が言えないといった感じで、公爵はぽかんと口を開けてしまった。
「愚息が、迷惑をかけているようだな」
「いえ」
そうです、とも言い返せない私は、当たり障りない返事しかできない。
「どうか見捨てずに、末永く頼むよ。援助はしておくからな」
それに「はい」と答える気にはなれず、私は頭を下げ「本日は、お時間をとっていただき、ありがとうございました」とだけ、口にその場を辞した。
次は9/5更新予定です




