閑話:ヴェリオン(1)
幼い頃は、病弱でよく熱を出して寝込んでいた。
そう言われるヴェリオンだが、本当に身体が弱かったわけではない。ヴェリオンの立場を考えると、目立てばすぐにその芽を摘まれるのはわかりきっていた。
記憶のある限り、それはおそらく四歳のときに毒によって倒れたのが最初である。行動範囲も広くなって接する人間が増えた時期であり、ヴェリオンの世話をしていた侍女の一人が、飲み物に毒を入れた。
幸いなことに味がおかしいと気づいたヴェリオンは、それをすぐに吐き出したが、小さな身体には多すぎる毒を取り込んでしまったらしい。赤ん坊のときから毒に慣らされているとはいえ、それだって完全なものではない。
五日ほど高熱にうなされ、生死の境目を彷徨い続けたものの、なんとか命だけは助かった。
だが、この件は公にされなかった。
毒を盛った侍女は極秘裏に処刑され、ヴェリオンは体調を崩して寝込んだことになっていた。
王子が毒によって倒れたという事実は、相手に隙を与える材料になりかねないというのが、当時の国王、すなわちヴェリオンの父親の判断である。
そこでヴェリオンは考えた。
病弱で寝込んでばかりいるような王子であれば、敵も呆れて手を出さないのでは。
それからヴェリオンは、季節の変わり目にはよく熱を出すようになった。いや、本当は発熱などしていない。頭が痛い、お腹が痛い、気持ち悪いと言うと、まずは侍女が額に手を当て、熱を確認する。
するとすぐに侍医が呼ばれるから、その隙に掛布を頭からかぶって、身体の中に熱をためこんだ。ちょっと汗ばみ、荒い息づかいのうえに涙目で訴えれば、誰もがころっと騙された。
いや、両親だけは気づいていたのかもしれない。それでも何も言わずこの茶番劇に付き合ってくれたのだから、ヴェリオンの狙いをわかっていたのだろう。
ただ、これによって弊害が一つだけあった。
周囲が両親に向かって、ヴェリオン以外にも子をと望むようになったのだ。
それでも二人は、やはりヴェリオンの親であった。その言葉を最初から無視するわけでなく、耳を傾ける振りをして適当にあしらっていた。
ヴェリオン以外に子を望めば、ヴェリオンの立場が危うくなると共に、その弟妹を狙っての派閥争いが起こる。
だから、弟のアーヴィンが生まれたのは、ヴェリオンが十八歳になったとき。
恐らくヴェリオンが学園で学ぶようになり、学友という名の味方を作り始めたのが理由だろう。
両親はアーヴィンをたいそうかわいがっていたし、周囲もヴェリオンに何かあってもこれで安心だと、こそこそ話をしていたのは知っている。知っていても知らないふりをするのも必要なのだ。
弟のアーヴィンは、ヴェリオンから見たらかわいそうな子であった。何よりも彼は、周囲からはヴェリオンの予備として扱われている。
そしてヴェリオンが結婚して子が生まれると、アーヴィンの存在はかすんでいく。それでも持ち前の明るさと素直さで、周囲の人間を惹きつけていた。
ヴェリオンが王位についたのは三十歳になったとき。父が王位をヴェリオンに譲り、離宮へと下がった。
幼いヴェリオンが毒に倒れたときから、彼らは気が休まる暇もなかったのだろう。
ヴェリオンも、セリウスの親になったからこそ、そう感じるようになっていた。
だが、そうなると今度はアーヴィンの立場に期待が寄せられる。学生であっても王弟という肩書があり、娘に王弟妃をと望む者も増えた。あわよくば学園卒業と同時にと、早い段階での結婚を期待する者さえ。
しかし弟はその話に興味を示さず、静かに断り続けるだけ。
まだ縁談に興味がないのだろうと思っていたが、そうではなかった。
彼には、気になる女性がいたのだ。
次は8/22更新予定です。




