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第六章(4)

 初めて目にする町の様子に、私は柄にもなくはしゃいでいたのかもしれない。賑やかに人々が行き交い、華やかなテントの露店では呼び込みの声が響き、何を売っているのかなと、ついのぞいてしまう。


「おっと、男前のお兄さん方。連れのお嬢さんの贈り物にどうだい?」


 ふくよかな婦人に声をかけられ、アーヴィンもつられて露店に並ぶものを食い入るように見つめる。


「これは……銀細工か?」

「さすがだね、お兄さん。そうだよ、この辺は銀が安く手に入るからね。ほら、良心的な値段だろ?」


 アーヴィンのこめかみがぴくっと動いたが、銀細工のアクセサリーに真剣な視線を向ける。するとアーヴィンの後ろからマルクスも顔を出し、同じように品物を眺めていた。


「よし、これにしよう」

「お兄さん、お目が高いね!」


 婦人は顔をくしゃくしゃになるほどの笑顔を向け、アーヴィンが選んだ銀細工の耳飾りを手にする。


「君は買わないのか?」


 アーヴィンはマルクスに場所を譲りつつ、婦人にお金を払って銀細工を受け取った。


「イラ」


 慣れない名前を呼ばれると、ドキリと心臓が跳ねて顔が熱くなる。

 アーヴィンが手にしている銀細工は、銀を線状にして花柄に編んだ耳飾り。それを手にした彼の顔が、息も触れ合うくらいに近づいてくる。


 アーヴィンの手が私の帽子をずらし、勝ったばかりの耳飾りをつけてくれた。


「お嬢さん、似合ってるじゃないか。ほら、そっちのお兄さんはどうするんだい?」


 私を褒めた婦人はすぐにマルクスに向き直る。彼の視線は忙しく動いていたが、髪飾りが並んでいる場所で止まった。それは蝶の模様になっている髪飾りだ。


 マルクスも同じように金を払って髪飾りを手にすれば、エマの髪へとそれをつける。


「まぁ、エマ。素敵よ」


 恥ずかしいのか嬉しいのかわからないけれど、エマはほんのりと頬を紅色に染めてマルクスにお礼を言っていた。


「良い買い物をした」


 アーヴィンが婦人にもう一度声をかけ、その場を後にする。


「町中は賑わっているみたいだな」

「そうね。活気もあって、よいところだと思うわ。何よりも、みんなの表情が明るいのがいいわね」


 耳飾りをつけた耳からぽっぽっと、熱が生まれてくるかのよう。でもそれを意識せずに、私は町の様子を見て、アーヴィンと意見を交わす。


「そろそろ、お腹は空かないか?」


 何があるのかと見て回るのに忙しくて、お腹のことなんて頭になかったのに、声をかけられたとたん、一気にお腹が空いてきた。


「そう言われると……そうね。そういえば、おすすめのレストランを聞いたんだけど……」

「店選びは俺にまかせてくれ」


 後ろを振り向いたアーヴィンはそこで立ち止まり、繋いでいた手を離す。何ごとかと思って様子を見ていると、アーヴィンはマルクスにこそっと耳打ちをしている。


 私に聞かれたくない話なのだろうか。


 マルクスは「しかし……」「責任が……」とアーヴィンに向かって反論しているようだが、「わかりました」と彼の口が動いたのを見逃さなかった。


「では、そういうことで。行くぞ、イラ」

「え? えぇ。ちょっと、どういうこと?」


 いきなり私の手を取って、ずんずんと歩き出すアーヴィン。後ろからエマとマルクスがついてくる様子はない。


「どういうことってこういうことだな。気を利かせて二人きりにしろと言ったんだ。あいつらだって、そのほうがいいだろ?」


 アーヴィンはマルクスとエマの関係に気づいている。


「そうかもしれないけど……あの二人、まだそういう関係じゃないのよ? どっちも一歩引いてるっていうか……」

「いいじゃないか。これをきっかけに進展するかもしれないだろ?」

「強引なのね」


 彼が強引なのは今に始まったわけではないけれど。

 さわやかな空の下、アーヴィンは口元に薄く笑みを浮かべていた。


次回は7/18更新予定です。

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