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第六章(1)

 シオドアから贈られたドレスを目にした私は、驚くしかない。


「次の夜会にはそれを着ていけ」


 彼は冷たく言い放つと、すぐに私の前から姿を消した。


「奥様……これ、噂のマダムコールのドレスですよ」


 エマも目を丸くしつつ、興奮で声を震わせた。


「そうなの?」


 マダムコールと言えば、つい先日、顔を出したミュゲ伯爵夫人の誕生日パーティーで話題になったドレスである。


 シオドアがマダムコールの店で、ドレスを仕立てたという話を聞いたのはそのとき。私にとっては寝耳に水で、なんのことかさっぱりわからなかったし、てっきりリンダへ贈るものだと思っていたのだ。


 やはりミュゲ夫人が言っていたように、シオドアは私に内緒でドレスを仕立てていたのだろうか。


 どのような気持ちでこのドレスを受け取っていいのかがわからない。彼の気持ちは間違いなくリンダにあり、私はお飾りの妻にすぎないのだから。


 まさか噂の件を気にして? と、また次から次へと疑問が湧いてくる。


「奥様。ここは素直に受け取っておきましょう。旦那様がこれを着るようにおっしゃったのであれば、そのようにいたしましょう」


 私の戸惑いを読んだかのようなエマの声かけに、「そうね」と呟くように答えた。

 私が、マダムコールのドレスを身につけて夜会に出席すれば、先日まで耳に届いたシオドアとの不仲説が一気に消え去った。


 きっとこれがシオドアの狙いだったにちがいないと、そう思うことにした。

 さらにシオドアが、あれだけ行き渋っていたロンペル子爵領にも行ってもいいと言い出したときには、さらに驚いた。


 どういう風の吹き回しだろうと思いつつも、彼の気が変わらぬうちに計画を立てるべきだと思った私は、早速、アーヴィンに手紙を書いた。





 そんなこんなでロンペル子爵領に足を踏み入れることができたのは、シオドアと結婚して五か月ほど過ぎた頃。エマと護衛の騎士も同行してくれたけれど、そこにはリンダの姿もあった。


 何もおかしな話ではない。シオドアが彼女と離れたくないと思ったのだろう。だからって、堂々と「愛人」を同行させるわけでなく、私の侍女として連れていくというのだから、少しは賢くなったのだろうか。


 それとも誓約書の「仲睦まじい夫婦を演じる」というのを思い出したのか。


 いろいろ思うところはあるが、細かいところを気にしていたら、ロンペル子爵夫人として生活できない。シオドアに寄り添った結婚生活を送れたらいいな、なんて思っていたあのときの私はもういない。


 とにかく今は、子爵領を見て回るのが最優先事項だ。


 ロンペル子爵領にはコメルという小さな町があり、普段は代表と呼ばれる男が、コメルの町を取りまとめている。


 領地に着いた日の夜は、代表の屋敷に招待されて食事をし、領地の様子をざっくりと聞き出した。シオドアは黙って相づちを打つだけだが、私はここぞとばかりに帳簿や報告書を見て疑問に思った内容を、次から次へと口にした。


 代表は嫌な顔を一つせず、むしろこの場所に興味を持ってもらって喜ぶかのように、始終笑顔で答えてくれた。


「よろしければ、明日。案内いたしますが」

「ありがとう。でも、普段と変わらぬ様子を見てみたいの。だから明日はこっそり、こちらの町を見させてもらうわ」

「こっそりですか?」


 私が少し顔を伏せてからシオドアに視線を向けると、代表も納得したのかにっこり微笑んだ。


「そういうことでしたら、ぜひ、お二人でゆっくり見ていただければ。おすすめのレストランもございますので」

「あら、それは早速教えてほしいわ」


 もう一度シオドアを見やると、彼も泰然と受け入れる。

 代表の緊張も解れてきたのか、言葉数も多くなり、食事の場が少しだけ賑やかになった。


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