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閑話:ポーレット公爵(2)

 我が子ながらシオドアは真面目すぎて、融通が利かないのが問題だ。これといったらそれに集中してしまい、周囲の状況が見えなくなる。


「まぁ、イレーヌも知っていますから」


 その分、息子の嫁となったイレーヌは、状況判断に優れており、見て見ぬ振りができる。

 結婚当初からシオドアが愛人を離れに住まわせていても、文句ひとつ言わず、自分の話し相手兼侍女としているようだが、それを台なしにしているのがシオドアなのだ。


 詰めが甘いというか、なんというか。


「女にドレスを贈ったのだろう? だったらイレーヌにも同じように贈れ」

「父さん?」


 意味がわからないというように目を瞬く息子を見れば、ポーレット公爵も頭が痛くなってくる。


「イレーヌはおまえが愛人を持とうが何も言わないのだろう? だから離れに住まわせていることもうるさく言わない。だがな、周囲の目はそうではない。おまえが浮気しようがどうしようとかまわないが、公爵家の名を貶めるような行為だけは慎め」

「それとドレスがどう関係するのですか?」

「おまえが有名店でドレスを仕立てたというのが噂になっている。それなのにイレーヌはそのドレスを身につけていない。それがどういうことか、勘のいい者はすぐに気づく。だから、同じ店でドレスを二枚仕立て、店主には金を包んで口止めをする」


 シオドアが硬く唇を噛みしめる様子を見れば、そんなことも考えつかなかったのだろう。だから、詰めが甘いというのだ。


「まあ、いい。私のほうで用意しておこう」

「何をですか?」

「イレーヌのドレスだ。おまえからということで、私から手配しておく。だが、おまえに手を貸すのはこれっきりだ。あとは自分でうまいことやれ」


 息子に手を貸すのは、息子かわいさゆえと思われるかもしれないが、ポーレット公爵の思惑は別のところにある。


 もちろん、イレーヌがシオドアと別れないようにするためだ。彼女の実家のロイル侯爵家は、国内でも有数の鉱山を所有しており、あれをうまく利用すれば多額の資産が転がり込んでくる。いつかはその鉱山を公爵家側に取り込もうと、虎視眈々と狙っていた。


 だからそれが叶うまではイレーヌをこちら側にとどめておく必要があるのだ。


「イレーヌと仲良くしろとまでは言わないが、彼女に愛想を尽かされるようなことはするな」

「あぁ……そのイレーヌのことで父さんに相談があったんです」


 そう話を切り出したシオドアの顔は、先ほどよりも赤らんでいる。お酒も身体中に回って、気分も高揚しているにちがいない。


「イレーヌがロンペル子爵領に足を運びたいそうです。領主となったのであれば、一度くらいは領民に顔を見せるべきだと」

「その言い分は間違いではないな」


 ポーレット公爵だって、年に一度はその地に足を向けていた。面倒だとは思いながらも、地道な活動はこれからの未来へと生きていくものなのだ。


「ですが、僕は行きたくないんですよね……」


 シオドアは、アルコールを孕む息を吐き出した。

 この後に及んで何を言うのか、我が息子ながら情けない。呆然としつつも、怒りも静かに込み上げてきた。


「行きたくない理由はなんだ?」

「リンダがいるからです」


 つまり愛人がいるから領地に行けないと言っている。


「だったら、彼女も連れていけばいい。イレーヌの侍女として住まわせているのだろう? そのまま侍女として領地に連れていけ。おまえが領民のために顔を出した。その事実が重要なんだ」


 これでは先が思いやられると、ポーレット公爵はグラスの残りを一気に口へ含み、空にした。


 シオドアはまだお酒をちびちびと飲んでいるが、もう息子に用はない。


 言いたいことはすべて伝えたつもりだし、長子だからという理由で公爵を継がせるつもりもない。他に息子は二人いる。


 シオドアが使えないと分かれば、切り捨てればいいだけなのだが、そうなるとイレーヌも扱いにも問題が出る。彼女だけは、他にも使い道があるから手元に置いておきたい。


 グラスをテーブルの上に戻すと、舌の上には燻したにおいのする酒の味が残った。


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