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第五章(8)

「まぁまぁ、みなさん、こんなところに集まってなんのお話かしら?」

「マダムコールのドレスの件ですわ。ミュゲ夫人も楽しみにしてらしたでしょう?」


 アクラー夫人はすぐにミュゲ夫人に向き直り、まるで味方を得たと言わんばかりに、表情を明るくする。


「それは、内緒の話なのよ。みなさん、シーですわ」


 ミュゲ夫人が唇の前に人差し指を立てると、アクラー夫人も眉をひそめる。


「子爵は驚かせたいのよ。だから、私たちがここで話題にする話ではないのです」


 ミュゲ夫人がそう言ったところで、この話題は終わり。


「申し訳ないけれど、少し飲み過ぎてしまったみたいだわ」


 急に弱々しい声をあげた義母は、頭を押さえる。


「お義母様? 少し休憩なさいますか?」

「ポーレット公爵夫人、休憩室に案内しますわ」


 私も味方を得たと言わんばかりの笑顔をアクラー夫人に向けて「失礼いたします」と頭を下げる。


 しかし、その余裕の笑顔は偽りのもの。心の中では「とうとう始まった」と、冷静に判断している自分がいる。


 ここから「シオドアが愛人のリンダに熱を上げ始めた」「やはり結婚生活も三か月過ぎれば、夫婦生活は破綻する」と、そんな噂が広がっていくにちがいない。


 根も葉もない噂だと割り切れればいいが、事実なだけにどう対処すべきか、それは私の技量が問われるところかもしれない。


 ミュゲ夫人に案内された休憩室で、義母はソファに上半身を預けた。このパーティーの主役ともいえるミュゲ夫人は、「必要なものがあれば使用人に命じてくださいな」と言い残して、会場へと戻っていった。


「お義母様、葡萄水を用意していただきました」


 テーブルの上にはグラスとポットが並んでおり、ポットの中身は、さわやかな葡萄水が入っている。


「えぇ、ありがとう。それよりもイレーヌ、あなた、シオドアからドレスを贈ってもらったの?」


 ここでも話題はマダムコールのドレスだ。


「いいえ、残念ながら。ミュゲ夫人は、シオドアが私を驚かせるために内緒にしているのだろうと思ってくださったようですが……」

「やっぱり、あの噂は本当なのね」


 ため息と共に言葉を吐き出す。


「噂……? どういった?」


 トクンと私の心臓が震える。くるべきときがきたと、覚悟を決めるときなのかもしれない。


「あなたたちの不仲説……とまではいかないけれど、シオドアはあなた以外にも女性がいるのでしょう?」


 私から顔を背けた義母の表情を探ることはできないが、その声には呆れと諦めが入り交じっていた。

 なんて答えたらいいか、一瞬、迷ったものの、ここまでバレているなら今さら取り繕っても意味はないだろう。


「……はい」

「そう」


 はぁ……と、わざとらしいくらいのため息をついた義母は、そのまま黙り込んでしまった。


 三か月の倦怠期、三年目の浮気とはよく言うけれど、そもそも私とシオドアの結婚は形だけのもので、そこにお互いの気持ちは皆無。となれば、倦怠期でも浮気でもなく、互いに新婚夫婦を演じるのに疲れてしまっただけ。いや、シオドアにいたっては私の顔を見るのさえ嫌なはず。いくら表面上は仲の良い夫婦を演じるという誓約書があったとしても、嫌なものは嫌で、そこに理屈など存在しない。


 もう一度大きく息を吐いた義母は、ぽつぽつと言葉を続ける。


「あなたも公爵家に嫁いだのならば、覚えておきなさい」


 何を言われるのかと、つい身構えてしまう。


「公爵家の名に泥を塗るような行為は慎むように。浮気をしようが他に愛人を持とうがかまわないわ。だけど、それを醜聞のネタにされることなく、周囲には悟られないように振る舞いなさい。シオドアにもそう伝えるよう、あの人にも言っておくわ。だけど、夫の手綱を握るのは妻の役目よ」


 義母の言葉をかみ砕きながらも、私は「はい」と消え入るような声で返事をした。


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