第五章(7)
三のつく日は節目だなんて、誰が言ったのだろう。三日天下とか三日で飽きるとかは、学園の授業でも聞いた話である。
それが三か月が倦怠期とか、三年目の浮気とかを耳にするようになったのは、社交の場で夫人たちと言葉を交わすようになってからだ。
「あら? マダムコールの新作ではないのね?」
母と同年代のミュゲ伯爵夫人が、私のドレスをまじまじと見つつ、残念そうにそう言った。今日はミュゲ伯爵家主催のパーティーに出席している。
「本日は、おめでとうございます」
今日のパーティーは伯爵夫人の誕生日を祝うものである。ポーレット公爵家とは付き合いが長いようで、私たち夫婦も、そして義両親も招待を受けていた。
「ええ、ありがとう。でも、てっきりマダムコールの新作を着てくるものだと思っていたから……」
ふと夫人が顔を曇らせたのは、自分の誕生日パーティーに新作ドレスを着てくるまでもないと、私が判断したととらえたからだろう。
「ミュゲ夫人。申し訳ありませんが……その、マダムコールの新作というのは?」
まぁ、と大げさに夫人は口元に手を当てた。
「もしかして……お聞きになっていない? あっ……内緒だったのかしら……」
ぼそぼそと言葉を発する彼女に、私はまるで心当たりがないとでも言うように、少しだけ首を傾ける。
「ごめんなさい。悪気があったわけではないのよ。マダムコールが、新作ドレスをロンペル子爵が頼んだと言っていたのよ? だからてっきりあなたのためにと思っていて……サプライズなのね! 今、言ったことは聞かなかったことにしてちょうだい。そして新作ドレスを送られたときには、是非、着てきてちょうだいね。あのドレスを着こなせるのはあなたしかいないと思っているの」
ころころと表情を変えるミュゲ夫人の言葉は心からのもので、嫌みでもなんでもない。
ただ今の会話から察するに、シオドアは新作のドレスを買っており、そしてミュゲ夫人はそれが私への贈り物だと思っている。
しかし、残念ながらシオドアからドレスなど届かないだろう。私がマダムコールの新作ドレスを着る機会はないため、ミュゲ夫人の希望を叶えることはできない。
と、わざわざ口にする必要もない。
「はい。聞かなかったことにしておきます。楽しみにしておりますわね」
薄く笑みを浮かべた私は、当たり障りない言葉を並べ立ててから、義母のところへと戻った。
シオドアは誘われ撞球場へと行っており、この場に姿は見当たらない。もちろん撞球場には、義父もいるはずだ。
「男の人は、すぐに玉突きに行ってしまうのよ?」
グラス片手に不満げな様子の義母は、酒に酔っているようにも見える。義母は酒にはあまり強くなく、普段であれば義父がそばにいて酒の量を見張っていたはずなのに、こういうときに限って撞球場へ行ってしまうとは。
「お義母様、飲み過ぎではありませんか? お義父様の目がないからって、羽目を外してはダメですよ」
おどけた口調で言い、義母が手にしているグラスを取り上げ、代わりに葡萄水のグラスを持たせた。
「うるさいのがいなくなったと思っていたのに」
義母の言ううるさいのとは、間違いなくポーレット公爵のことである。
「ロンペル子爵夫人」
声をかけられ、私が振り返ると、同じように義母も顔を向ける。
「あら、アクラー公爵夫人ではなくて?」
相手を確認したところで、義母の顔が引きつった。義母はアクラー夫人と仲が悪いわけではないのだが、何かと張り合ってくるため疲れるとぼやいていた相手である。
「てっきり、マダムコールの新作ドレスだと思って期待していたのに」
アクラー夫人は、私の姿を値踏みするかのようにねっとりと視線を這わせてきた。
「マダムコールの新作? いったいどういうことかしら?」
お酒で酔っていたはずの義母の表情が引き締まり、声色も冷え冷えとする。
「あら? ポーレット公爵夫人は、ご子息のことを知りませんの? 噂のマダムコールの新作ドレスを愛する女性のために仕立てたそうですよ?」
ここでもシオドアとマダムコールだ。それだけシオドアも、マダムコールも注目されている人物である。
「それなのに、今日は……」
そこでアクラー夫人は私に向かってにっこり微笑み、何か言いかけようと口を開きかけたとき、ミュゲ夫人の明るい声が響いた。




