第五章(6)
医師が言うには「疲労」とのことで、その日は一日寝て過ごした。エマが献身的に看病をしてくれたおかげで、熱は一日ですっかり下がったが、シオドアはそれから三日間、姿を見せることはなかった。
アーヴィンからは見舞いの手紙と花が届き、それにどれだけ励まされたかはわからない。
熱が下がってすぐに執務に取りかかろうとすれば、エマとヘルナントに止められてしまう。
「奥様。医師は、三日はゆっくり休むようにと言っておりました。熱が下がったからって、すぐに仕事をするのはダメです」
エマが両手を腰に当ててぷりぷりと言うものだから、その言葉に素直に従った。
自室でのんびり過ごし、読みたかった本を読み、アーヴィンにお礼の手紙を書いた。
その後、すぐに体力を取り戻した私は、シオドアに代わってロンペル子爵家をきりもりをし、領地の管理も行い始めた。もちろん、ヘルナントに聞きながらであるが。
ただ、まだ領地に足を運んだことはなく、提出される書類と数値を確認しているだけで、落ち着いたら領地に行かなければという思いはくすぶっている。
行くのはいい。だがシオドアと一緒に赴く必要があるのに、そのシオドア本人がいい顔をしない。
理由は単純明快。リンダがいるからだ。リンダを連れていくにしても、おいていくにしても、今のところ問題があると考えているようだ。
私からすれば、リンダを離れに住まわせている時点で問題しかないと思いつつも、互いの愛人との関係に口を出してはいけない約束だから、その気持ちをぐっと呑み込む。
だから、そういったこともあって、結局は子爵領へと行く目途がたたない。
どうしたものかしらと、尖らせた上唇の上に指を当て、策を練る。
「奥様、本日の手紙でございます」
エマが、手紙を持って執務室へとやってきた。
「ありがとう、そこに置いてくれる?」
「はい」
返事をしつつもエマはにまにまと笑っている。
「何かあった?」
「ふふふ……王弟殿下からお手紙が届いておりますよ。旦那様宛てですけど」
アーヴィンは必ずシオドア宛てに手紙を出す。だからって、本当にシオドアに宛てているわけでなく、もちろん私宛てのものである。シオドアへの手紙は、一度、私を経由するという点を利用していた。
アーヴィンとはこうやって手紙のやりとりはするけれど、残念ながら、先日の茶会以降、顔を合わせてはいない。私が寝込んでしまったというのも理由の一つだが、なかなか会うきっかけが掴めずにいた。
もしかして私も、リンダのようにアーヴィンを離れに住まわせればいいのだろうか、なんて考えもよぎったことはあるが、その案はすぐに丸めて思考のゴミ捨て場に捨てた。
「わかったわ。シオドア宛ての手紙は、先に私が確認することになっているから」
まるで言い訳のようにエマに告げると、アーヴィンの手紙をすぐに探して、手に取る。
シオドア宛てになっていたとしても、流れるようなこの字は確かにアーヴィンのもの。
「奥様、私はお茶の用意をして参りますね」
一人でアーヴィンからの手紙を読めるよう、エマが気遣ってくれる。
「ええ、お願い。今日は、トリアスのお茶が飲みたいのだけれど、まだ茶葉は残っていたかしら?」
「もちろんでございます」
笑顔のエマを見届けた私は、早速アーヴィンからの手紙を読み始めた。時候の挨拶から始まった手紙だが、要約すれば「また会えないか」という内容だった。
もちろん、私もアーヴィンに会いたい。ロンペル子爵の過去の収支についても伝えたいし、シオドアとのことも相談したい。だけど何よりも、アーヴィンと他愛のない話をしながら、トリアスのお茶を飲みたかった。
なんてことはない。そこにアーヴィンがいてくれればいい。
でもそれを素直にアーヴィンに伝えるのは悔しく、どうしたものかと悩み始める。アーヴィンはデートを所望しているみたいだけれど、二人で外を出歩くのはいろんな意味で危険ではないだろうか。
デートは時期尚早と判断し、また茶会に誘ってほしいとだけ返事をしよう。
アーヴィンの手紙を机の中にしまうと、次の手紙を確認し始めた。




