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第五章(3)

 別れ際、アーヴィンは「シオドアに見舞いの品だ」と言って、茶葉を手渡してきた。これは私が美味しいと言った隣国トリアスのお茶である。


「本日は、お招きいただきありがとうございました」

「あぁ、シオドアにはよろしく伝えてくれ」


 この場にいる他の人たちに、私たちの特別な関係を気取られないように振る舞うが、心の中ではお互いの芝居に笑いたくなってしまった。もしかしたら、私もアーヴィンも、意外と舞台役者に向いているのかもしれない。


 屋敷に着いたらすぐにシオドアとリンダのいる離れへと向かった。アーヴィンがシオドアを気遣って用意してくれた茶葉は、きちんと彼に渡すべきだろう。


 部屋の扉をノックすると、リンダが扉を少しだけ開け、その隙間から顔をのぞかせてきた。


「ただいま、リンダさん。王弟殿下からお見舞いの品をいただいたの。それをシオドアに渡したくて」

「あ、はい……」


 小動物のような動きで扉を大きく開けたリンダに「ありがとう」と声をかけて、部屋の中へと入る。


「ただいま帰りました、旦那様。体調のほうはいかがでしょうか?」

「ふん、相変わらずわざとらしい」

「その言葉は褒め言葉として受け取っておきます。こちら、アーヴィンからのお見舞いの品です。次は旦那様も是非と言っておりましたが……こればかりはわかりませんよね? また、体調を崩すかもしれませんし」


 シオドアは小さく舌打ちしたが、それを無視して、今度はリンダに向き直る。


「リンダさん。王弟殿下から茶葉をいただきましたの。シオドアと二人でお飲みください。それでは、私はこれで。ごきげんよう」


 スカートの裾を持ち上げ、二人に挨拶をした私は、さっさと主屋にある自室へと戻った。


「あぁ~、疲れたわ」


 エマしかいないのをいいことに、着替えを終えた後は、だらしなくソファに身体を預ける。

 疲れたというのはアーヴィンとの茶会ではなく、たった今、離れでシオドアとリンダに挨拶をしてきたこと。せっかくアーヴィンと楽しい時間を過ごしたというのに、それがすべてシオドアと話をして吹っ飛んでしまった。後にすればよかったと思ったものの、いいやなことをずるずると後回しにしたらずっと気になってしまうから、すぱっと終えたかった。


「そういえばエマは、何をして待っていたの?」

「え?」

「私がアーヴィンを話をしていたときよ。私たちが二人きりにならないようにと、近くにいてくれたわけでしょ? アーヴィンはエマにもお茶とお菓子を用意したとは言っていたけれど……」


 私とアーヴィンのテーブルから少し離れた場所にもテーブルが用意してあり、エマはそこから私たちの様子を見守ってくれていた。だけど、そのテーブルにはエマ以外の人物もいて、ポーレット公爵家の騎士も同じようにそこで待っていたわけで。


「はい、王弟殿下が用意してくださったようで……お菓子とお茶をたっぷり堪能させていただきました。とっても美味しかったです」


 答えるエマの頬が、ほんのり赤くなっているのを見逃さない。


「それだけ?」

「ええ、それだけです」

「本当に?」

「な、なんですか……」


 私が疑いの目を向ければ、エマは焦ったように視線を逸らした。


 ポーレット公爵には疑うところがあるかもしれないが、公爵家やここで働く者たちは、真摯な人が多い。だから()なら、エマを任せてもいいだろうという気持ちはあったが、互いにその気持ちがないのであれば、無理強いするつもりもない。

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