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勇者ではなく  作者: 滉希ふる
第2部 Assassin Works
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宿命編22-魔女の秘密-


 学院長室での話し合いが終わり、それぞれが出発の用意に取り掛かった。


 「七日は保つ」とクロノアは断言した物の、一刻を争う状況自体は変わらない。

 迅速な行動が要求された結果、当日夕刻には正門前に集合を終えた。

 魔法師団一個小隊(32名)、騎士団二個小隊(81名)の合計120名弱。

 やや少ないがギリギリ目標の中隊規模の部隊が完成していた。


「あ、あのぉ〜、マリア先輩?」

「なにか聞きたい事でもお有りですか?イルミナさん?」


 騎士団と魔法師団が用意した大量の馬車に物資の積み込み作業が行われている中。

 魔法師団を取りまとめていた『イルミナ・クリステイン』へ粗方の状況説明が行われた後、彼女は瞳をキョロキョロと逸らし、オドオドしながら、学院長へと質問を投げかけようとしていた訳だが……


 その様子を見ていたクロノアはその姿に魔王軍時代に聞いていた人物像と全く違う事に驚きを隠せないでいた。情報では雷魔法の使い手である事と、派手な大魔法や功績は無い物の、冷静かつ迅速な判断に定評のある人物であると。

 だが、その実態はというと……


「いえ、あの、その……魔王軍が攻めてきたのでは?」

「違いますよ。これから国境付近でドンパチするんです。

 説明聞いていなかったんですか?相変わらずの鳥頭ですね?」

「聞いてないんですけどッ!?それ、実質こっちから攻めてますよねッ!?

 私、部隊長権限で緊急呼集命令かけちゃったんですけどォッ!?」

「そのつもりで連絡したんですが?」

「どうしようっ!?これで何もありませんでしたなんてっ!?

 打首になったらどうするんですかッ!?」

「だ・か・ら。これから幹部の首でも持って帰れば良い話でしょう?

 もうるしかないのだから腹括りなさいな?」

「張本人が悪びれずに言わないでくださいよッ!?」


 この様に、冷静さなど全く持ち合わせていなかった。

 学院長の前だけでなのだろうが、魔王軍の情報が間違っている事は珍しいのでクロノアは面食らってしまっていた。


「そういえば、貴女?評議会の時、私が反対票を出しているのに棄権してましたよね?どうして反対に入れなかったんです?叛逆ですか?私に喧嘩売ってるんですか?買いましょうか?そこに直りなさい?」

「あ、圧かけるの止めてくださいよぉ……

 私だって、十賢のメンバーなんですから、公平に判断しただけで……」

「なら、賛成にすれば良かったでしょう?貴女関係無かったんですから?」

「……でも、賛成票出してたら、すぐにボコボコにしてましたよね?」

「当たり前でしょう?貴女一体誰のおかげで今の立場につけたと思ってるんです?

 言ってみなさいな?はい、3、2、1……」

「マリア先輩ですぅっ……! 

 マリア先輩に前大戦時、文字通り死ぬのほどお世話になりましたぁッ!!」

「ですよね?べそ掻いて、失禁した貴女を誰が戦場から引きずって帰ったのか?」

「いやっ、それ言わない約束ぅうッ!?」

「では、言わなくてはならない事がありますね?」

「是非、お手伝いさせて頂きますッ!

 させてくださいお願いしますッ!」


 学院長の足に縋りつきながら、半べそで懇願するイルミナ。

 その光景を少し離れた馬車の近くで見ていたクロノア、シルヴィア、エルビー、そしてディーオント。


「……やけくそですね?」

「ちょっと、可哀想……かな?」

「あの分だと、まだまだ弱み握られてるんだろうな?」

「クリステイン様って、知的で凛々しいイメージで憧れてたんだけど……」


 四人は複雑な表情でその光景をただ見守る事しか出来ないのであった。


「それにしても……」


 一度解散して再集合した訳だが……

 それぞれ旅支度をしてきたが、エルビーとディーオントは元々着用していた騎士団と魔法師団の制服をそのまま着ていた。クロノアは、全身黒色の戦闘用の装束を纏っていた。魔王具時代の物と酷似しているが、王国で新調したルークと同様の代物であり、特別な仕様は無い。 

 ここまでは別段触れるべき部分は無い。問題はシルヴィアだった。


「……あの、シルヴィアさん、その衣装は?」

「これ凄いんだよ!魔鉱を繊維状に加工して編み込んであるから、魔法耐性が強いし、物理的にも耐久力高いんだよ!」

「派手だよね〜」


 自信満々に受け答えるシルヴィア。

 その衣装は武具というよりはオートクチュール。確かに胸や肩などには多少プレートはついているが、全体的に白を基調にした姫騎士っぽい装いだった。その姿はどう見ても『戦場に行く者』というより、よく言っても『戦場視察にゆく貴族の令嬢』だろう。


 クロノアは「この姿で戦場に行くつもりなのか……」と頭を抱えた。


「派手なのもそうですが……

 そもそも魔王軍は魔法主体では無く、近接戦闘を得意としていて……武具も魔鉱製の物が多いので、繊維状では耐久力が……

 ……シルヴィアさんはあまり前に出ないでくださいね?」


 あまりにも冷め切った反応をするクロノア。

 そして流石に自分が場違いな格好している事に気がついたシルヴィア。

 一瞬の静寂。そして。


「……私、着替えてくる」

「いやいや。もうそんな時間ないって」

「そうそう。それにシルヴィーはまだマシな方だって。

 エイマンなんか、もっと派手なフルプレートメイルでくるぞ?」


 別に個人戦闘であれば、どんな装備で来ようが関係ないが、集団戦闘をするのであれば、それに見合った装備を身につけて欲しい。特にクロノアの魔法は隠蔽に特化している為、派手な装いは困るのだ。


「すまない。諸々、話をつけるのに時間がかかった」

「おっ、噂をすれば……」


 そこで丁度、噂の張本人の声が聞こえてきた。

 クロノアはやや躊躇いつつ、振り返ってエイマンの方へと視線を向ける。

 「まぁ、この人達は色々理由つけて後方に下げるつもりだから別に良いか」と考えつつ、エイマンを視界を視界に捉えるが……前評判とは違い、割と軽装だった。胸の腕には鎧をつけているものの、ほぼ騎士団の団服姿。むしろ、他の団員より軽装まで言える姿だった。


「……思ってたより軽装だな?」

「ああ。魔王軍は素早い近接戦を得意とする者が多い様だから、重く動きの制限されるフルプレートでは戦いづらい。必要最低限だけの軽装で来たつもりなのだが……間違っていただろうか?」

「いえ、その通りで間違いありません」

「……おい、クロノア?それシルヴィーに刺さってるぞ?」

「だね?」

「……着替えてくるッ!!」

「ちょっと!?だから、時間ないって!?」


 一度、着替えに戻ろうとするシルヴィアを全力で引き止めるエルビー。


 クロノアは「別に帰ってくれてもいいですけどね…」と冷ややかに思いつつ、そのやり取りを眺める。

 更には「この人達、これから戦場に向かおうとしている事を理解出来ているのか?」とも。

 とはいえ、騎士団の動向はエイマンの人脈による所。そしてその条件が彼らの同行でもある事。

 正直な所、着いてくるのは「エイマンとシルヴィアだけ」と考えていた。それが「二人が行くなら」と残りの二人も同行する事になった。

 ……正直不安しかない。だが、あくまで作戦は揺動だけで、敵部隊の殲滅では無い。

 自分が敵部隊のヘイトを管理し、彼らを前へ出さなければ良いだけの話。

 そう。それだけなら何とか……



「学院長」


 殿下がいつもの護衛三人を伴って、激励の為に来ていた。


「本来なら私も直接赴きたい所なのですが……」

「流石にそれはお気持ちだけでご遠慮頂きたいですね」

「だと思ったので、『こちら』を」

「これは……」


 護衛の一人、巨漢のダリアスが背負っていた箱を地面に下ろす。それは見るからに意匠の凝った頑丈そうな鉄製の縦長の箱だった。

 もちろん彼らが渡したいのは『中の物』な訳だが、学院長はそれを見ずとも何が入っているのかを察した。

 南京錠が外され蓋が開かれると、それは杖だった。

 人丈ほどの白く、先端が砲筒のようにやや太く膨らんみ、そこから蔓のような装飾が巻き付いた様な形状をした。傷ひとつない美しい杖。


 『宝杖ほうじょう-セレスティアル-』

 かつて神から授けられたとされる王家伝来の杖。

 劣化も欠損もしない事から、そう言われている。


 実は前大戦事、この杖は学院長が使っていた。

 その為、この杖の事も当然知っていた訳だ。


 ダリ明日から杖を渡された殿下が、更に学院長へと手渡す。

 彼女もこの杖自体がどれだけ有用な物であるかは理解出来ているので、今の状況で渡される事自体は「ありがたい」と感じていた。だが……


「そーですね〜……

 ……シルヴィアさん?」

「はい?……うえっ!?」

「ちょッ!?学院長ッ!?」


 殿下が裏返った叫び声を上げる。

 理由は受け取った『国宝』を学院長がシルヴィアへと投げ渡したからだ。


「おっとと……えっと、これは……?」


 それをややバランスを崩しながらも、両腕で抱き抱えるようにキャッチするシルヴィア。

 重そうな外見だが、その実、殆ど感じない。

 頑丈なのに軽量。これも神々から授けられたとされる所以だ。

 そしてもう一つ。


「平気……なのか?」

「へ?何がです?」

「その杖は『宝杖-セレスティアル-』。簡単に言うと、国宝の杖です」

「いやっ!?そんな大事な物、投げ渡さないで下さいよっ!?」

「……ウィルコット?お前が怒るのはそこでは無いぞ?」


 御冠気味の殿下の声にシルヴィアは学院長の方へと視線を向ける。

 「この杖に他に何が?」とエルビーも興味津々に杖に触れようとする。


「その杖、使い手を選ぶんですよ」

「それって……選ばれないとどうなるんです?」

 

 バチバチッ!バヂンッ!!

「キャッ!?」


 好奇心から杖に僅かに指を触れてしまったエルビー。その瞬間、杖から白い稲妻が走る。

 稲妻はシルヴィアは害する事なく、エルビーだけを襲い、激しくその体を吹き飛ばす。

 短い悲鳴を上げつつ飛ばされるエルビー。

 それを学院長が氷魔法で追従。着地すると同時に氷を水へと変換し、その身体を受け止めてみせる。


「こんな感じで弾かれます。大丈夫ですか?」

「え、ええ。痛みは無かったので……

 ……あの、それ?もっと早く言ってもらえません?」


 水塊で受け止められたエルビーはびしょ濡れになりながら、学院長をジトリと睨む。


 シルヴィアは、その光景を目の当たりにし、目を丸く見開いていた。

 

「危なかったですよねっ!?

 これ選ばれなかったら、どうするつもりだったんですかっ!?」

「貴女なら大丈夫だと思ってましたよ。……多分ですけど」

「多分て……」

「その杖、魔力圧縮に特化した大変便利な物なんですよ。

 私()より、貴女()の方が相性が良いはずです。使い方は道中、レクチャー致します」


 シルヴィアにそう告げると、「話は終わった」とでも言うように視線を逸らす。

 まだまだ文句を言いたそうではあるが、一人の人物が学院長の方へと向かって来ている事に気がついていた。


「それにしても、まさか貴方(・・)が来るとは思ってもみませんでしたね?」

「……私とて、同じ気持ちだ。

 しかし、エイマン様を一人で戦場に送り出したとあっては、亡き父君に合わせる顔が無い」


 その人物は騎士甲冑を身に纏う、大柄で左の額から右の頬にかけて切り傷の目立つ男。

 十賢九席『シスベルト・シューベル』。現状の騎士団二個小隊の長だ。


 学院長はシスベルトの発言に明らかに怪訝な態度を浮かべる。


「何を今更忠犬ぶって。

 『王国の為に即刻死刑』とか言ってませんでしたか〜?

 引率は任せて、お帰り頂いて結構ですよ?」

「……それこそ結構だ」


 シスベルトは短くそう一言だけ返すと、イルミナへと視線を向ける。

 彼女は既に先ほどまでの情けない姿から、直立不動で学院長の斜め後ろについており、特に挨拶を交わすつもりは無いようだった。

 両者はそこまで親しい関係ではない。十賢評議会の度に顔を合わせる程度。

 イルミナは元々、口を開くとボロが出る為、公の席では事前に決められた内容しか話をしない。それ以外は黙秘で通す。それが彼女が知的で凛々しい所以だった。


 その態度にシスベルトは怪訝な態度を表す。

 序列的にも「自分が上である」と自負しているのだろうが、イルミナは学院長の一歩後ろで忠犬として付き従っていた。

 学院長は雰囲気を察してはいたが、彼女には関係のない事。そしてどちらかというと、シスベルトの方が『招かざる客』である為、気分を害して帰ってくれるなら「好都合だ」とも思っていた。

 とはいえ、シスベルトも退くつもりは無く、何も言わずに本題に移る。


「それで?諸々伺いたいのだが?」

「では、クロノアさん?説明をお願いします」

「……へ?私が説明するんですか?」

「当然でしょう?貴女が考えた作戦なのですから」 


 クロノアは部隊移動計画と本作戦の概要を説明を始めるのだった。

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