5-4 皇女の戦い
「ルリア様!」「ルリア様!」「お気を確かに!」
傷を負ったルリアに近衛騎士が駆け寄る。メリアドールとロクジンは構え、ジリジリとルリアから距離を取ろうとした。
それを逃さんとするかのように、ルリアは焼けた眼で二人を睨む。
「私のことはいい!
それよりもメリアドールだ!
メリアドールを確保しろぉっ!」
前線の騎士たちはなおもオスティアの人々と交戦中だ。いま、メリアドールたちを確保出来るのは近衛しかいない。三人の騎士のうち、一人が残って二人が前に出た。
「こいつらを倒せるアイディアって、ある?」
ロクジンは油断なく構えた。武器は壊れた、もはや残るは拳のみ。メリアドールは幅広の剣を構え、近付いてくる二人の騎士を見た。
「背後を取れればチャンスがありそうです。でも、あの二人を相手に……」
騎士二人には全く油断がなかった。不意を打てた飛行船内での戦いとは違い、今回は相手も万全。今度こそ万事休すか、メリアドールは身を固くした。
風が吹いた。
その場にいた誰もが思わず足をすくませる。
そんな強い風が。
そして、誰もが気付いた。先ほどまではあれほど荒れ狂い、飛行船の離陸を拒んでいた風が、まったく止んでいたことに。
「これは……!」
ルリアは、それがなぜであるかに気付いた。
「気付いてくれたか……!」
ロクジンは、どうしてそうなったかに気付いた。
メリアドールと騎士の距離はおよそ三十メートル。そのちょうど真ん中で、つむじ風が吹いた。砂塵を巻き上げ吹き荒れる風、騎士たちも思わず足を止めた。
すぐに風は止んだ。
砂埃が収まった時、そこには一つの人影があった。
「あれは……!」
メリアドールは驚愕し、目を見張る。そこにあったものは、見覚えがあった。
それは、華奢な体格をした全裸の少年だった。中性的で、人ならばあるはずのものが何もない。銀色の髪が嵐のように、常に渦を巻いている。
メリアドールを墜落させた風の神に相違なかった。
「オスティアに、神だと……!?」
騎士が呻いた。それを聞き咎めたかのように、風の神はそちらを見た。そして騎士目掛けて風を纏った拳を振り下ろした。
「うおおおおおお!?」
騎士は剣の魔力収束機能を作動させた。刀身が淡く光り輝き、それが神の膂力を受け止める。それでも衝撃は完全に殺せず、騎士は轍を作りながら後退した。
もう一人の騎士が神を挟撃すべく剣を振り上げた。しかし。
「お前の相手は、俺だ!」
機を逃さず、ロクジンが騎士に躍りかかった。素手で魔導鎧を傷つけることは出来ない、だから彼は関節を狙った。斜め上から踏み潰すような蹴り、危険を察知し騎士は避けた。
「貴様……舐めているのか!?」
「伊達や酔狂でアンタたちに挑むほど、命を捨てちゃあいないさ!」
大きく跳躍して攻撃を避けた騎士は、体勢を立て直しロクジンを切り捨てようとした。そこに、メリアドールの銃弾が襲った。
銃弾は頭部バイザーに命中した。貫かれることはなくとも、衝撃が兜を揺らし、目の前に飛来した弾丸が一瞬騎士の目を塞ぐ。その隙を見逃さず、ロクジンは再び騎士に駆け寄り、正面から膝目掛けて蹴りつけた。
「ぐぁーっ!?」
不安定な体勢となった騎士の足が、不自然な方向に曲がる。
「メリアドール! おのれ、貴様!」
ルリアが雄たけびを上げながら長銃を構える。しかし、一瞬メリアドールの方が速かった。彼女は正確かつ迅速に狙いをつけ、ルリアの銃を撃った。
「ぬぅぁ!?」
銃が弾かれ、ぐるぐると回りながらルリアの手から離れた。
「ここから去ってください、ルリア姉さま!」
「メリアドール!」
「あなたを殺したくはありませんからっ!」
そう言って、メリアドールは踵を返して走り出した。ロクジンもそれに続いていく。風の神も近衛との打ち合いをやめ、二人を守るように付き従った。
走り出した二人はなだらかな平原を下り、オスティアの街へと向かう。その真ん中では騎士とオスティアの住民が激しく戦っていた。
「りゃりゃりゃりゃりゃぁっ!」
一際すさまじい働きを示すのはヒサメ。一人を打ち、その反動でもう一人に打ちかかる。それを何度も続け、何人もの騎士を相手にしていた。無限の剣戟だ。
「あっ、リアさん! ロクジンさん!」
騎士の剣を受け流しながら、彼女は近付いてくる二人を見た。
「退いて、ください!」
メリアドールは長剣を振りかぶり、トリガーを引いた。刀身が淡く輝き、剣の威力を増幅させる。騎士たちはそれを妨害するため、彼女の前に立ちはだかった。
正面から騎士が剣を突き込んでくる。メリアドールは冷静にそれを払い、相手の剣を半ばから切った。
その死角に隠れるようにして接近してきた次の騎士が、メリアドールの後頭部を狙い剣を振るう。彼女はそれを見ずに後ろ手に剣を振り上げ、襲い来る刀身を切断した。
最後の一人が逆方向から、渾身の力で剣を薙ぐ。しかし、先に剣を振っていたメリアドールの方が速い。剣と剣がぶつかり合い、騎士の剣が敗れた。
一瞬にして、メリアドールは三人の騎士から武器を奪ったのだ。
「退きなさいッ!」
そして、一喝。騎士たちはたじろぎ、その圧力にオスティアの人々までも戦いの手を止めた。メリアドールは開いた戦力の『穴』目掛けて、一直線に駆けていく。
もはや、メリアドールを止めるものは誰もいなかった。




