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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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5-3 脱兎

 ガチリ、と重い錠が開く音をメリアドールは聞いた。まだ船は飛んでいない、何らかのアクシデントがあったのか。メリアドールは身構えた。


 ギイッ、と音を立てて扉が開く。

 その奥から、傷だらけになったロクジンが現れた。


「……ロクジンさん?」


 色々な言葉が浮かんできた。


 どうしてここに、怪我をしているのか、どうやってカギを、あなただけなのか、近衛の騎士をいったいどうしたのか。


 浮かんでは消える言葉。

 たった一つだけ言葉が残った。



「無事でよかった……!」



 メリアドールは駆け出し、ロクジンの胸に飛び込んだ。ロクジンは「ぐむっ」と呻き声を上げたが、何とか倒れずに堪える。


「あっ、えっ、と……ご、ごめんなさい! たくさん怪我をしているのに、こんな」

「はっはっは、気にしなくていい。掠り傷だよ」


 どう考えても鼻からダラダラと血を流しているのは掠り傷ではない。頬も青黒く変色している、骨が折れているかもしれない。けれどもメリアドールはやせ我慢を受け入れた。


「助けに来てくれて、ありがとう」

「いつだって助ける。約束だ」


 しばらく、二人は抱き合った。いつまでもこうしていたいと、そうメリアドールは思った。この胸の高鳴りを、ロクジンと共有出来たらと思った。


 しかし、それは望み過ぎなのだと彼女は思った。だからすぐに彼から離れた。


「危うく、ルリア姉さまに殺されるところでした」

「彼女はいったい何を……」

「私を殺し、戦争を再開しようとしているのです」


 メリアドールはかいつまんで事情をロクジンに説明した。


「おそらく、お姉さまの支持者も本国にいることでしょう」

「それで、これからキミはどうするつもりなんだ?」


 聞かれながら、メリアドールは倒れた騎士の装備を漁った。幅広の魔導剣とまだ無事な長銃、それから弾薬を掴むと、自分が持って来ていたポーチにそれを突っ込む。


「私がマドラサ帝国に帰ることで、きっと混乱が広がってしまうでしょう。第三皇女メリアドールは死んだ……お姉さまにはこのまま帝国に帰っていただきましょう」


 銃の調子を確認し、初弾を装填。ロクジンが使った方はもうだめになっていたが、もう片方はまだ十分に使える。


「どうやって帰す? 諦めるかは分からないんだぞ」

「……調査隊を再起不能にまで追い込めば、可能でしょう」


 多分に希望的観測が含まれていたが、それしか方法がないこともまた、事実だった。


「脱出しましょう、ロクジンさん。オスティアまで私を守ってくれますか?」

「言われるまでもない。俺はそのためにここに来た」


 二人はローンの通路を逆向きに辿って飛行船から脱出した。


 船の外ではまだ戦いが続いていた。姫将軍ルリアの旗印のもと、すべての騎士が一心不乱に戦っている。数と射程の差を活かした銃士隊の攻撃に、オスティア側は容易に手を出せずにいるのだ。


「一手あれば、逆転出来そうな感じではありますね」

「その一手がね。魔導鎧がやはり厄介だ……」


 メリアドールはハッチから頭だけをさかさまに出して状況と敵の配置を確認した。そして魔導鎧に存在する、共通の弱点部位も探した。


 果たしてそれを見つける。


「行きますよ、ついてきてください」

「ああ、行くよ」


 ロクジンは手元で何かをごちゃごちゃとしていた。苦心しているようだが返答はしたので、メリアドールはとりあえず先に進むことにした。


 ハッチから飛び出し、一気に駆け出す。前方での戦闘に集中している騎士たちは、その動きに気付かない。走りながら、メリアドールは冷静に狙いをつけ、薙ぎ払うようにして長銃を発砲した。


 トリガーを引くたびに銃身が跳ねる。その反動を利用して銃口を移動させ、別の対象を撃つ。乱雑に撃っているように見えて、彼女の攻撃は狙った場所を貫いていた。


 すなわち、騎士鎧の背中につけられた魔力伝導菅を。


「ぐわあああああ!?」


 撃たれた騎士たちが苦悶の叫びをあげ、しゃがみ込む。というより、鎧の重みに耐え切れずに倒れ込んだ。魔導鎧は魔力によって身体能力を底上げし、膨大な質量を持ち上げる膂力を与える。ゆえに、伝達が絶えればこうなる。


 突然の銃声を聞き、ルリアは反射的にその方向を見た。そして、瞬間固まる。メリアドールと目が合う。ルリアが全身をわなわなと震わせ、憤怒の形相を作って叫ぶ。


「メリアドォォォォォォール!」


 絶叫し、手に持った長銃をメリアドールに向ける。と、その瞬間横合いから何かが飛んで来て、ルリアの顔面に当たった。それは着弾と同時に眩い光と轟音を伴い爆発した。


「アアアアアアア!」


 ルリアとメリアドール、どちらにとっても予想外の一撃だった。騎士たちにとっても。


「……ちょっと間違えた!」


 後ろで間の抜けた声が聞こえた。見ると、ロクジンが筒状の物体を水平に構えたまま棒立ちになっている。彼にとっても予想外だったのだろう。


「上に打ち上げるはずだったのに……!」

「ロクジンさん、あなたって……!」


 メリアドールは冷や汗を流し、思った。


(手先がとても不器用……!)


 おそらく照明弾か閃光弾で何かを伝える予定だったのだろう。だがそれを敵に直接当ててしまった。あれでは本来意図していた効果を持たせられるか分からない。


 騎士たちがメリアドールたちに向き直り、構える。正面からでは伝導菅を狙うのは難しい。万事休すか。


 ロクジンが構える。

 メリアドールが剣を取る。


 まだだ、まだ何も終わってはいない。

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