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黄昏の銃姫  作者: クロイモリ
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5-2 貧者の武術

 ローンから教えてもらった『抜け穴』を使い、ロクジンは飛行船の内部に侵入した。機体底部、ボルトに弱いところがあり、それを外すと一人が通れるくらいに隙間が空く。構造的な欠陥だ。


 ロクジンは苦心して自分の体と、持ってきた武器をその間にねじ込んだ。暗く、冷たく、狭い飛行船の整備点検通路。ローンの話から構造を把握していたロクジンは、迷うことなく歩みを進めてメリアドールの下へ向かう。


(彼女を救い出すためには、騎士と戦わなければならない……)


 ローンは偵察のためにここに来たから、上に上がる必要はなかった。だがメリアドールを助けるためには分厚い鉄扉を破壊するか、さもなくば鍵を開けて彼女を救助する必要がある。それは下からでは不可能だ。


 金網を破るには相応の力がいる。だがロクジンにはその力がない。だからもっとも彼にとって手軽で、そして困難な道を進まなければならない。


(出来るか、俺に)


 騎士の連発銃から逃れて、オスティアに逃げ帰ることが出来たのは幸運以外の何物でもなかった。放たれた銃弾は一発として急所には当たらず、ロクジンは無様にゴロゴロと転がり、可能な限り騎士と距離を取った。


 追いかけられていれば一巻の終わりだった、しかしそうはならなかった。メリアドールの確保を優先したルリアが、兵を引き上げたのだ。だからロクジンは生きている。


(二度と無様を晒すわけにはいかない)


 整備口の切れ目から顔を出し、辺りを確認。誰もいないことを確かめ、ロクジンは金網の枠に立った。出来る限り音をたてないように、気付かれずに進むために。


 メリアドールを捕えているのは二層ある飛行船の下部ブロック、すなわちロクジンが侵入したところからすぐにある。そしてそれを守っているのは、完全武装の騎士。


 猫のようにしなやかな足取りで、ロクジンはそこに近付いていく。壁に背をつけ、慎重に先の様子を確認すると、三人くらいが楽に通れる幅広の通路に二人の騎士が立っていた。その背後には重い鉄扉。


(鍵を持っているのは、あいつらだ)


 どこかに保管しておくより、信頼出来る人間が持っていた方がいい、という判断だろう。そこから離れる様子も、弛緩した雰囲気もない。それどころか、ピリピリした緊張感が漂ってくる。


 相手は外で戦闘が起こっているのを承知している。それでいて、命じられた任務を忠実に守っている。ロクジンはそう判断した。


(なら……時間をかけたって、いいことは一つもないな)


 スゥ、と一つ深呼吸。

 そしてロクジンは曲がり角から飛び出し、騎士を強襲した。


「お前は……!?」


 突然の来訪に、しかし騎士は冷静に対処した。


 右側の騎士が前に出て、手に持った長銃を向ける。ロクジンはその銃身を蹴り上げた。一気に跳ね上がった銃口、そこから咆哮とともに弾丸が放たれ、飛行船を抉った。


 蹴り上げた足を引き戻し、力強く踏み込む。そして渾身の力で武器を振り下ろした。


「いっけえええ!」


 ブン、と空を切る音。

 すさまじい速度で鉄棒が騎士の頭部に振り下ろされた。


「ガッ……!?」


 あまりの衝撃に、さしもの魔導騎士もうめく。


 炎凰流は貧者の武術。

 ゆえに、無手。


 しかし例外がある。旅人が使う鉄杖だ。


「ふっ……!」


 振り下ろした杖を引き戻し、小刻みな刺突を繰り出す。喉、胸、腹を突かれ、右の騎士が悲鳴を上げた。左の騎士が加勢しようとするが、しかしロクジンは巧みな位置取りで死角に入る。これではどれだけ力が強かろうと意味がない。


 打たれながらも右の騎士は杖を掴もうとした。突き出された杖の先端目掛けて手を開く。しかしそれはフェイントであり、ロクジンは杖の軌道を半ばで強引に変え、したたかに斜め上から頭部を打った。


「ぐむぅ……!?」


 杖の打撃は鎧を破壊するほどのものではない。しかし、内部には確実に衝撃が蓄積している。何度も揺さぶられ、騎士は意識を保つので精いっぱいだ。


「くっ……退け!」


 そんな右の騎士を、左の騎士は強引に押しのけた。騎士は壁に打ち付けられ、それがとどめとなって崩れるように倒れた。代わりに、ロクジンの前に無傷の騎士が現れた。


 武器は抜かない。代わりに、バカでかい拳を叩きつけた。ロクジンは防戦一方となり、鉄杖で連撃をしのぐ。しかし一打、また一打と繰り出されるごとに杖が軋み、破断していく。


「調子に、乗るなよ小僧!」


 渾身の一撃が繰り出され、鉄杖が半ばで折れた。続けざまに、騎士は逆手でロクジンの顔を殴りつける。骨の折れる音がした。


 それでも、ロクジンは倒れない。

 キッと騎士を睨みつけ、倒れそうになる体を支える。

 そして折れた杖で騎士に殴り掛かった。


「くっ、この……!」


 左右の鉄棒から繰り出される連撃。それをしのぐ騎士。どちらも必死だ。否、ロクジンの方が分が悪い。鎧による身体機能の増強もないのだから。




(司教さんに頭下げてさ、精霊付けてもらおうよ。こんなの意味ないじゃんか)




 子供の頃、父親にそう言った記憶が蘇る。

 父はただ、困ったように笑うだけだった。


(今なら分かるよ、親父。アンタも俺と同じだったんだろう)


 ロクジンは精霊に愛されていない。

 肉体に宿る魔力はなく、精霊は魔力のない人間を拒絶する。

 だからロクジンには魔法が使えない、父もそうだったのだろう。



 だからと言って、諦める気は全くなかったが。



「ぜぁ!」


 両手の鉄棒を振りかぶり、思い切りロクジンは振り下ろした。騎士はそれを受け止め、カウンターを決めようと身構えた。力と力がぶつかり合い――鉄棒が吹っ飛んだ。


 ロクジンはあえて力を込めずに殴りかかった。相手が無駄な力をそこに使うよう計算して。慌てて身を沈めたロクジンを追撃しようとするが、しかし体勢が崩れていては早々できるものではない。拳は背中を掠めるようにして外れた。


 彼は倒れた騎士が手にしていた、連発銃を取り、それを新たな武器にした。


「せやっ!」


 沈んだ状態を跳ね上げるように起こしながら、銃床を騎士の顎先に叩きつける。カウンターを食らったのは騎士の方だった、自分の体重と運動エネルギーを乗せた一撃を受け、エビぞりになってのけ反った。


 ロクジンはくるりと銃を回転させ、トリガーに指をかける。そしてほとんどゼロ距離で全弾を発射した。


「うおおおおお!?」


 放った五発の弾丸は空気を切った。しかし爆音が騎士の耳を塞ぎ、闘争心を萎えさせた。恐れる騎士は後退する、ロクジンはそれを追い、銃を振り上げる。そして振り下ろし、銃身を騎士の膝裏を通して金網に突っ込み固定した。


 逃げて下がる騎士。

 銃身に足を引っかける。


 ぐらついたところに追撃の蹴り。

 更に崩れる体勢、均衡を失い騎士は背中から倒れる。


 全体重と鎧の重量、それが一気に襲い掛かる。


 ダメ押しとばかりにロクジンは飛び上がり、両足を合わせて騎士の胸を踏みつける。


「『落鳳槌・二重』!」


 それきり、騎士は動かなくなった。ロクジンは荒い息を吐き、倒れ込みそうになる体を強いて、騎士たちの装備から鍵を探った。

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