表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
対人恐怖症な俺の異世界リハビリ生活  作者: 春眠桜
異世界エレーファ漫遊編
73/123

辺境領への行幸

「で、陛下は何て言ってました? 」


朝食を済ませた俺達は辺境伯領への対応についてヘルダー元帥に確認をしていた。


「それなんだがな……今の所全く決まってはおらぬ。というか陛下が倒れてしまってな……」


皇帝が倒れた? 持病かなにかか? 


「倒れるとは病気か何かですか? 」


「いやそうではない。ナイト殿から受けた報告の内容をそのまま伝えたら卒倒してしまってな。陛下には少々刺激が強すぎたという事だ」


刺激ですか。そんなに刺激的な内容でしたっけ?


「とにかく陛下は今安静にしておってな。話が進まんのだ」


それは困る。一日も早く解決しないとジャント達の心労も溜まるばかりだ。


「ヘルダー元帥それは困ります。森の中には千人の残兵達が帰りを待っているんですよ」


「しかしだな……」


形式とは言えまどろっこしいな。いっそ皇帝を無理やり回復させて直接話をつけさせればいいか?


その為にはソフィアを一旦王国へ帰さないとややこしくなる。


そう考えた俺はソフィアに提案した。


「ソフィア。悪いけど一旦王国へ戻ってくれないか? 話の通りこのままだと埒があかない。直接俺が皇帝をつれて辺境領の話をつけるから──」


「ん? 私は構わんぞ。ナイトが動けばそう時間もかかるまい」


さすが嫁さん。話がはやい。


「ありがとうソフィア。フェル、悪いけどソフィアの護衛を頼んで良いか? 俺の大事な嫁さんなんだ」


「ヴォーン! ヴォン! (わかったわ! まかせて! )」


俺はさっそくシェルと同化し門を出すと、ソフィアとフェルを王国の自室へと送った。


俺達のやり取りを見いていたヘルダー元帥があわてて止めに入る。


「ちょっとまてナイト殿。陛下を帝都からお出しするには色々と手続きが──」


『そんな事は俺達には関係ないし。とにかく時間がないので今から皇宮にいきましょう』


俺は半ば強引にヘルダー元帥を引き連れて皇帝のいる皇宮へと向かった。




                  ◇



先程聞かされたヘルダー元帥の上奏による心労で皇帝ディオールドが寝室に横たわる。


「陛下お加減はいかがですか? 」


医療班の一人が皇帝へ体調の良し悪しを確認していた。


「うむ……今は大事無い。突然の事だったのでな」


臣下の上奏で卒倒してしまった自分が情けない。自身の不甲斐なさを省み窓辺から皇宮内の庭園を眺めていた。


そして驚愕する。見覚えのある騎士が二人、こちらへ向かってくるのが見えたからだ。一人は臣下たるヘルダー。そしてもう一人は──


──


───


────


『お久しぶりです皇帝陛下』


問答無用で寝室へ押しかけて来た光白の騎士。この者が来たことで皇帝はまたもや卒倒しかける。


──シェル!


良所の判断で皇帝の意識を覚醒させつつ、身体強化を施した。


「き、貴殿は……久しぶりですじゃ御使い殿」



                   ◇



以前シェルから聞いていたけど皇帝とは面識があるようだ。それにしてもこのおじいちゃん、俺達に会ったとたん卒倒しかけたよな? シェルお前相当キツく対応したのか?


──そんな事は……ありません。たぶん……


なるほどね。


『さっそくですが皇帝陛下。私がここへ来た理由はお分かりかと思いますが──』


俺達は単刀直入に迫る。時間がもったいないからだ。


「う、うむ。ベルメット辺境領の一件であろう。この度は余の臣下が迷惑を掛けてしまった──」


俺達は謝罪を言いかけた皇帝を慌てて止める。後ろの鎌おじさんも相当焦っているみたいだ。


『陛下。皇帝が易々と謝罪されるのは統治の面からしてよろしくないかと。それよりもお願いがあります』


「そうであるな……して願いとは。無論余にも出来る事とそうでない事があるのだが」


『たいした事ではありません。願いとは我々と一緒に辺境伯領へ行幸して頂く事です』


皇帝の行幸がたいした事ではない。本来ならばお付きの重臣達が喚き散らす所だが今彼らは居ない。


ここへ来る道すがら俺達が片っ端から意識を飛ばしてきたからだ。


「御使い殿の願いを無碍には出来ますまい……この老体でよければご一緒させて頂こう」


『有難うございます。ではさっそく行きましょう』


よもや今直ぐとは思っていなかった皇帝ディオールドは面を喰らいヘルダーに問いただす。


「へ、ヘルダー元帥。御使い殿の言っている事は誠か」


「はっ。我々人間が及びもしないお方なので……」


「そ、そうであったな……しかしこのままの恰好では不味いのだが」


すっかり失念していた。今の皇帝は寝巻だ。着替えさせるのも面倒だな……よし。


俺はコヤから金地のジャージと黒地に金文字で【こうてい】と書かれたTシャツを用意する。


『陛下心配には及びません。こちらの服をお召しください』


「こ、これは……なんと素晴らしい着物だ! そう思うであろうヘルダーよ! 」


俺の創ったジャージTシャツセットをいたく気に入った皇帝はヘルダー元帥に同意を求めた。


「は、はぁ」


凄く返答に困るヘルダー元帥。実に面白い、ちょっと意地悪をしてみよう。


『ヘルダー元帥。よろしければ元帥にもお出ししますが? 』


「ナイト……御使い殿、お気持ちはありがたいのだが──」


断りを入れようとしたヘルダー元帥。だが皇帝の言葉が彼の逃げ道を塞ぐ。


「おぉ! それは素晴らしいではないか。御使い殿、余からも元帥の着物をお願いしますぞ」


皇帝の後押しを受けた俺は嫌がるヘルダー元帥を後目にジャージセットを創り出す。


色は紺色。そして白地に【鎌おじさん】の文字が入った変Tシャツだ。


俺達はこの場に門を出現させると、着替えさせたヘルダーに門へ触れる様伝える。


理由は元帥以外直近で辺境領へ赴いていないからだ。


『それでは行きましょうか』


こうして俺達はベルメット辺境領へと向かった。




                  ◇





「き、貴様達は一体何者だ! どこから侵入した──」


いきなり執務室に現れた門に驚き、尚且つ門からやってきた良所一行を見て大声を上げる男。


ムシューラ・ベルメット辺境伯の実子にて、現在辺境伯代理を務めるマイコラス・ベルメット男爵だ。


「相変わらず元気だな男爵」


ヘルダー元帥が彼の前に歩を進め挨拶する。屈強で巨躯な身体に似つかわしくないジャージ姿で。


「き、貴殿は……もしやヘルダー元帥でありますか!? 」


「うむ。それよりも周りをよく見ろ。我らにとって最も大切なお方がおられるのだぞ」


そう促されマイコラスは周囲を見回す。一人は見たことも無い白い騎士、そして──


「へ、陛下!? 皇帝陛下であられますか! 」


ヘルダーと同じくジャージ姿のラドルア帝国皇帝ディオールドの姿がそこにあった。


「うむ。余はラドルア帝国皇帝ディオールドである。其方はムシューラ辺境伯の息子マイコラスか? 」


皇帝の言葉を聞きひれ伏したマイコラスは、粗相の無い様細心の注意を払って返事をする。


「ははっ。皇帝陛下に任されし辺境領を治めておりますムシューラ伯が実子マイコラスでございます陛下」


「うむ。役目大義」


「ははーっ」


それから一連の騒動についてヘルダー元帥からマイコラスへ伝わる。


実父を含む辺境領駐留軍のほとんどが戦死したとの報告。


その衝撃的な内容はマイコラスを動揺させ、言葉を詰まらせた。


「マイコラス男爵。話はまだ終わってはいないのだ」


ヘルダー元帥がさらに話を進める。


「実はな男爵。森へ進軍していた兵の内、一千が無事であるのだ。本日陛下と共にここへ来たのは、この兵士達への処遇について貴殿の意思を確認する為なのだ」


「それはどういう事でしょうか。残兵達への処遇を気にしているのであれば心配は無用に御座います。彼らは我が父と共に立派に戦ったのでございましょう。そんな彼らを処断するなど以ての外で御座います」


帝室を支えるべく立派な騎士を目指し、真っ直ぐ育ったマイコラスは当然の様にヘルダーへ返答する。


「立派に成長したな男爵。では彼らが帰還した後貴殿はどう行動する? 」


最も重要な部分だ。彼らが帰還した後辺境伯代理はどの様に行動するのか。


一瞬の沈黙を経て、マイコラス男爵は口を開いた。その目には決意を漲らせて。



「当然父上の……そして散っていった兵士達への復讐戦をいたします元帥」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ