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136話

「これを見れば大体テストの予想はできるわよね? 引っ張られるバナナボートの上に乗り続ける事よ。も、ち、ろ、ん、普通に引っ張るだけなんて事はないわよ?」


 まあ、クレアの試験がそんな単純なわけがないよなと生徒達はお互いの顔を見合わせた後にうなずき合う。


「では、たっくん! テストの内容を理解してもらうための例を見せるから手伝ってちょうだい」「分かった」


 クレアに指名された拓郎はクレアの指示に従ってバナナボートの上にまたがった。そしてバナナボートを引っ張るのは……なんとジェシカであった。普通はジェットスキーなどで引っ張るのだが……ジェシカは氷でジェットスキーの様な物を作り上げて引っ張る形をとるようだ。準備は整いさっそく拓郎が乗ったバナナボートが引っ張られ始めた……その一分後、クレアとフレーナが拓郎に向かって魔法を放ち始めた。


「回避してもいいし防御しても良いわよー? バナナボートから落ちなければいいわー!」「こっちは落としに行くけどねー!」


 楽しそうなクレアとフレーナに対して密かに苦笑しているジェシカだが、速度を緩めるどころかもっと速度を上げた。これは遊びではなくテストなのだから、難易度を高くするのは当然である。激しく波に乗って揺れるという特殊な環境下で降り注ぐ魔法。回避してもいいとクレアは言っていたが、しっかり魔法はホーミングしてきており、実質防御一択である。


(何が回避してもいい、だ! 回避前提ならここまで厳しいホーミング性能をつけないだろうが!)


 などと拓郎は内心で悪態をつきつつも、飛んでくる魔法を次々と防御して消していく。このテストはバナナボートの様な不安定な足場などの状況下でも正しく魔法を使い、防御して自分の身や周囲を守れるかを見ているのだ。決してクレアとフレーナが楽しむための遊びではない。


 ひたすらバナナボートに乗った状態で魔法の雨にさらされ続けながらも自分とバナナボートを守り抜いた拓郎。時間にして15分位ではあったが、体感的にはそれ以上長く拓郎が感じたのは無理のない話だろう。


「見てもらって分かったかしら? これからみんな同じことをやってもらうわ。もちろんみんなは一人だけってことは無いから安心していいわよ? 7人同時に乗ってもらって、最後は教師の皆さんにも協力してもらいますね」


 ざわめく生徒達だが、すぐに収まりジェシカの指示に従って生徒達がバナナボートへと乗り込み、引っ張られ、悲鳴と共に宙に舞った。もちろんクレアやフレーナは拓郎の時と比べて思いっきり手加減している。しかし、それでもバナナボートに乗っているという普段とは比べ物にならないレベルの不安定な場所が、魔法の使用における安定性を阻害する。


 その為普段ならば落ち着いて防御できる魔法であっても、揺れるバナナボートにえぐいホーミングという要素が重なって魔法を防ぎきれず、バナナボートから弾き飛ばされて海にへと落下する。一人が欠ければまた一人がやられ、あえなく全滅という事を繰り返す事となった。結局最長で持ったのは5分が最高記録となった。


「はい、お疲れ様。うーん、不安定な状況における魔法の練度はまだまだね。今後はこのやり方を訓練に取り入れます。そして1週間後にまた様子を見ます、これは海にいないとできない訓練だから積極的に取り組んでもらいます、いいかな?」


 クレアの言葉に反対意見を述べられるものなどいる筈もなかった。皆海面に派手に落下し(拓郎はもちろん除く)、しっとりと濡れた状況であったからだ。そしてこの日残りの時間は休息をとるための時間となったが──拓郎にとっては、この後の方が大事な用事が待っている。そう、今日の午後についにジェシカから血を受ける事になっているからだ。


(ついにこの日が来た。今までの訓練が、努力が、前に進めるのかここまでで終わるのかを指し示すこの日が。不安はある、だが、それを飲み込んで前に進むと決めたのは俺自身。覚悟は決まっている、やらないという選択肢はない)


 血を受ける場所はクレアたちの家の中。すでに中に入って待機している拓郎の所にクレア達3人が姿を見せた。


「待たせたわね、じゃあ始めましょうか。覚悟は決まっているか、なんてことは聞くまでもないわよね。その表情だけで十分伝わって来るもの。じゃあ始めましょうか、ジェシカ、準備を。フレーナは申し訳ないけど周囲にこのことが伝わらないようにするためのバックアップをお願いね。私ももちろんやるけど、二重にすればより安心だし」「ええ、わかっているわ」


 準備はすぐに進められ、拓郎は上半身裸に。クレアとフレーナは各自結界を展開し、外からは一切見えないように。音は一切外に漏らさないようにする状況を作り上げた。全ての準備が整った事を確認したジェシカは──己の心臓部分に右手をゆっくりと乗せた。そこから、ゆっくりと手を離すと右手の掌の上には半径3センチほどの血で出来た玉が生まれていた。その弾を、ジェシカは直径1ミリまで圧縮した。


「拓郎さん、これが魔女の血です。普通の血ではなく、生命の根源に近い心臓から取り出した高濃度の血であり、魔力の塊です。これは今から拓郎さんの体の中に心臓を通じてゆっくりと流し込みます。心を穏やかに保ち、受け入れてください。それを成功させれば、拓郎さんの科学魔法のレベルは9に到達する事になるでしょう」


 ジェシカの言葉に、拓郎はゆっくりとうなずいた。ジェシカも拓郎の覚悟を再確認して、拓郎に圧縮した血を拓郎の心臓へと送り込んだ。その直後、拓郎が声を上げた。


「が、あっ!? ぐ、ううっ!?」


 レベルを上げる魔女の血、そんなものが容易く力を与えてくれる訳がない。今拓郎は、心臓から体全体にかけて広がっていく猛烈な熱に体を焼かれるような感覚を味わっているのだ。だが、拓郎はそれ以上の苦悶の声を上げない。すでに顔からは脂汗が大量に滴り下りているが、それでも歯を食いしばって耐え続けている。だが、そこにクレアの声が届く。


「たっくん、押さえつけるのではだめ! 我慢もダメ! 受け入れなさい! 受け入れる事が出来なければ意味が無いのよ!」


 受け入れなければいけない? この熱を? この痛みを? と拓郎は一瞬思った。しかし他でもないクレアがそう言うのだ。ここまでの世界を見せてくれたクレアが言うのだ。ならば信じるしかないと、追い詰められている状態にあると思っていた拓郎は我慢するのではなく、その熱と痛みを受け入れるように心の持ち方を変え始めた。


(熱い! そして全身がただれる様だ! だが、クレアは受け入れろと言った……だったら信じなければ。これが先に進む方法なのだと)


 その熱さ、痛みを耐えるのではなく受け入れる事は精神力を多大に削る。もしクレアと出会った頃の拓郎がこれを行えば、廃人で済めばいい方、最悪は当然永遠の眠りにつくことになっていただろう。そうならないようにするためには、ここまで鍛えに鍛えた心身が必要だった。拓郎はこれ以上は、と思い始めたそのタイミングだった。急速に体から熱と痛みは引いたのだ。


(な、んだ? あれほどの熱さが、痛みが急に引いて──全身に活力がみなぎった? まるで体の細胞が全て生き返ったかのような──)


 この拓郎が感じた感覚はあながち間違ってはいない。拓郎の体は今、レベル8から9に変わった事で見た目以外は大きく変化を遂げている。まず、病気に対する耐性が跳ね上がった。次にダメージを受けても回復する速度が上がった。結果として……30%ほど、魔人になったと言い換える事が出来る。魔女の血を受けてそれを体になじませたことでそれだけの変化が起きたのだ。


「成功したようね、色々と感覚が違うってわかるわよね?」「まだうまく言い表すことはできないけど、少なくとも魔法に関しての感覚は変わった。今までさび付いていた剣を無理やり使っていたような錯覚すら、今は覚える」


 拓郎の返答に、クレアは満足げに頷いた。こうしてこの日、拓郎の科学魔法はレベル9に到達した。肉体的な強さと、魔法における運用術の凄まじい向上というおまけ付きで。

無事に恩師との最後の挨拶を済ませる事が出来ました。

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