135話
さて、そんな訓練を始めて数日が経過した。現状訓練の風景は……全体的にレベルアップしたこともあり、まるで戦争のような光景が繰り広げられていた。無数のレーザーが飛び交い、そのレーザーを曲げたり消し去ったりして防御すると言ったSFもかくやと言わんばかりの状態だ。全ては魔法なのだが。
魔法に関する生徒達の全体的なレベルアップに加え、教師陣は魔法制御関連の習熟度合いが高まってきたことにより拓郎も防御に関して以前以上に集中して適切な対処をすることを求められるようになってきていた。それはすなわち拓郎のレベルアップに繋がる状況であり、拓郎にとっては願ったりかなったりの状況となっていた。
そうしてこの日の訓練も終わったのだが──ここから普段とは違う言葉がクレアの口から飛び出してくることとなる。
「はーい、今日の訓練はここまで! さて、みんなここに来てから毎日必死で訓練を積んでいるわよね? そうなると、そろそろ自分のレベルが気になってきた頃合いじゃないかなーと思ってね? 今日はこの後みんなの科学魔法レベルを調べる事にしまーす! 一人ずづ並んでねー!」
と。突然のクレアの言葉に生徒達は一瞬戸惑ったが、すぐに自分の今のレベルを確認できるのは良い事じゃないかと考えて一列に並ぶ。そして、クレア、ジェシカ、フレーナの三人が分担して生徒達のレベルを確認する。その為レベル確認作業はスムーズに進んだ。なお、その確認方法だが。
「水晶玉式ですか」「そ、魔人や魔女が直接見る時は、これが一番いいのよねー」
と、まるで占いで使われるような特殊な仕掛けを内蔵した水晶玉を用いた方式を取る。魔人や魔女が相手をこの水晶玉越しに見る事で、レベルや得意属性などを確認できるようになっている。なお、これを一般人が使っても何も見えない。たとえレベル10の人間であっても、魔人や魔女でなければ水晶玉は反応しない。
「へえ、君はレベル5にあと少しで届きそうね。魔法的には水と土に特に秀でているようだけれど……火もまだまだ伸びそうよ? そっちの方も訓練した方がよいわ」「炎ですか……上手く使えないから訓練にはいれてなかったんですよね」
と、このように魔法のレベルや鍛える事で開花する属性なども判明するのだ。故に優秀な検査方法なのだが──そもそもめったに魔人や魔女がこうして一般の人を水晶玉を用いてじっくりと見る機会は少ない。なので大半の人は自分の中にまだ掘り起こせる才能があるとしても、気が付かないままで終わる。
「この様子なら、夏の終わりごろにはレベル5になっているでしょうね。でも、そのためには火の魔法の訓練は必須よ。明日からは火の魔法を中心に訓練を行う事を強く勧めるわ」「クレア先生がそう言うなら、苦手だったけど火の魔法も頑張ってみます!」
と、このように明日からの訓練の方針を固めるきっかけ作りも行われる。こんな診断とこれからの訓練ですべきアドバイスをジェシカとフレーナも行っている。そして教師陣も見てもらう事になったのだが。
「んー、やっぱりレベルばかりはどうしようもないわね……残念ながら2のままで上がる様子はないわ。でも、一方で氷と雷の制御能力は特に大きく上がっているわ。後、魔法の運用も上手になってきている。レベル2であっても、これならば……やり方次第で並のレベル4の魔法を超える一撃を放てるわね」「レベル2がレベル4をですか! やはりこういった厳しい訓練は、レベル以外をしっかりと引き上げてくれるのですね」
フレーナからの言葉に、教師のひとりは喜びを抑えられなかった。学生時代に必死で訓練し、それでもレベルが2以上に上がらなかった自分でも──並のレベル4を超える魔法を放てるというのだから。レベルが3に届かなかった劣等感を心の内に抱えていたこの教師であったが、フレーナの言葉にその劣等感がゆっくりと溶け始めていた。
「後は……そうね、土の魔法の訓練に励むといいわ。土を伸ばせば、まだ他の属性も比例して伸びると出ているわ。貴方の限界はまだ先、だから明日からも訓練に励みなさい」「土属性ですか。確かにあまり土属性は使った事が無かったですね……分かりました、アドバイスに従って土属性を鍛えてみます」
フレーナのアドバイスを受けて、頭を下げて場を後にする教師。こうして拓郎を除く全員の鑑定が終わった。そしてついに拓郎をクレアが見るが──
「──たっくんはこのまま訓練を重ねればいいわ。そうすれば必ず時が来る。その時はあと少し……いい? とにかくすべての属性の魔法をしっかりと鍛え続けなさい。偏ってはダメ、今のまま全ての属性を全て高水準で鍛え続けなければいけないわ。それがレベル10への唯一の道よ」
拓郎はクレアの言葉にうなずいた。方向性は間違っていない、ならばあとはひたすらにこのまま突き進むだけ。ジェシカの血を受ける日はそう遠くない……だからこそ、受けられるだけの肉体と精神を持たなければいけないというクレアからの忠告なのだと受け取った。そして拓郎がクレアに頭を下げて離れると……クラスメイト達が待っていた。
「拓郎はどうだった? レベル10を目指すって方向性に変わりはないのか?」「ないね、俺はレベル10目指すって目標を変えるつもりはないよ。さっき見てもらったけれど、このまま訓練を続ければ切っ掛けを掴むときは必ず来るって事だったしな」
そのやり取りを見て、拓郎のクラスメイト達はそっかー、みたいに感じていたのだが──穏やかじゃないのはそれ以外の生徒達だ。レベル10を目指し、その目標は揺らがないという拓郎の発言にショックを受けている。
「以前から聞いてはいたが……本人の口から、全く動じずにレベル10を目指すと言われると、表現しがたい衝撃みたいなものを感じるな」「文字通り、見据えている先のレベルが違いすぎる……俺達はレベル4になれれば最高だって考えているのに」「でも、その発言をするだけの実力と訓練をあいつはやっているからな。説得力はすごい」「レベル10が産まれる瞬間、見てみたいわね」
などのやり取りがされるのも無理らしからぬことだ。もちろん以前に拓郎がレベル10を目指しているという事は知っている。だが、それでも本人の口から厳しい訓練を乗り越えて目指すと堂々と宣言をされれば、また衝撃を受けるのも当然のことだろう。
訓練は登頂に近いところがある。最初の内は楽だが高度が上がってくれば厳しくなっていき、そして頂上を目指すとなれば必死に上ってなお届かない事などざらである。それが世界一高い山などになればなおさら……拓郎の訓練は世界一高い山に魔法なしで登るような物なのだ。辛く、険しく、そして時間的に引き返せば次のチャンスはないというおまけもつく。
まあ、拓郎に後退の文字などあるわけもない。それぐらいの覚悟がない状態なら、ここまでの訓練に耐える理由がない。だからこそ、時々向けられる奇異の目等にも屈せず訓練の日々を送っているのだ。全てはレベル10になるために。が、そのレベル10だって、あくまで通過点に過ぎない。回復魔法使いとして十全に働くために必要だからこそ、今こうして訓練を積み重ねているのだから。
「ま、今日はしっかり休もうぜ? また明日もあるんだからよ」「そうだな、今日も疲れたし……しっかり飯を食ってたっぷり寝ないとな。でもよ、ここ来てから短時間で俺もレベルアップできているって実感がすごいんだよな。これ、帰ったら嫉妬の目に俺達晒される日々を送る覚悟を決めなきゃダメかもな」
拓郎の返答に、クラスメイトのひとりがそう返す。実際、しっかり食べてしっかり寝ておかないと翌日の訓練が実に辛いものになる。疲労を残せば、それだけ訓練の効率が落ちるのだ。限られた合宿の時間をそんな形で無駄にするのはもったいないの一言で済む話ではない。ただの合宿ではなく、魔女の指導付きなのだからなおさらだ。
こうしてこの地にやってきてからの2週間もあっという間に過ぎる。当然そうなれば2回目のテストが行われる日がやって来ることを意味する。生徒達が緊張する中、クレアによって伝えられたテスト内容は──バナナボートであった、
来週はお休みいたします。




