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133話

 一週間が過ぎ、朝食を取っている生徒達&教師陣にクレアが突如こう言い放った。今日はテストを行い、その後は休暇とします、と。


「テストってなんだ?」「魔法関連だろうけど……」「まあテストをしろって言うなら全力でやるだけだろ。その後休暇としてくれるなら、俺は寝る」「そうだね、とにかくテストをさっさと受けて休もうか。体が重い気がするし」


 クレアからの発表に対する生徒達の反応は大体こんなものだった。正直この一週間、魔法の訓練を濃密にしてきたため生徒達にはかなりの疲労がたまってきていた。事実、寝ると言い出す生徒もいるぐらいだから相当なものだという事は分かっていただけるのではないだろうか。


「じゃ、テストを早速始めましょう。内容は人差し指一本だけ使う簡単なものです。海に向けて人差し指を向けて、自分の得意な属性魔法をできるぎりぎりまで圧縮してから前方に放つ、というだけ。順番に5人づつ呼ぶから、呼ばれたら出てきてねー」


 ──クレアはテストと銘打ったが、それは半分しか正しくない。もう半分は、生徒達がどれだけ上達したかの物差しとして分かりやすい方法を採用しただけに過ぎない。2週間、3週間、そして最後の週が終わった後に各自同じことをすれば成果が分かりやすくなるからやる気を引き出せるという狙いがあるのだ。


 呼ばれた面々がクレアに言われた通り、人差し指を海に向けて集中して魔法を放つ。しかし、すでに1週間の訓練の成果は明確に出ていた。生徒達はこれが最初なので気が付いていないが、もしここにやってきた初日に同じことをやったのならば──今の3分の1ぐらいしか魔法を飛ばせなかっただろう。


 距離だけでなく、圧縮も当然甘い。それが1週間魔女にみっちりと鍛えられれば、最低でも50メートル。最高で82メートルまで飛ばした生徒がいる。なお、これは立派な攻撃魔法の一つであり、溜めを極限まで短縮できれば一瞬で相手を撃ち抜けるビームとなる。モーションも短く、とっさに出せる反撃手段として重宝するだろう。


「うーん、思ったより飛ばせなかった?」「圧縮に時間がかかったなぁ、もうちょっとこう……」「もっといける気がしたけど、こんなものかな? まだまだ訓練が足りないのかも」


 と、生徒達は話し合っているが、教師陣は青い顔をしていた。放つまでに時間がかかる分まだまだ驚異的ではないが──それでも、当たれば容易く人を貫けるだけの力を生徒達が身に着けている事を理解したからだ。そしてクレアに視線を向ける教師陣に、クレアは頷いていた。


「はい、お疲れ様。全体的にまだまだな所もあるけど、それはこれからの訓練で改善できるから気にすることは無いわ。それともう一つ、この魔法は絶対人に向けてはだめよ? もしやったら、私がやった人の頭を物理的にカチ割っちゃうぞ? これは脅しじゃなくて本当にやるからね?」


 クレアの圧に、生徒達はただ頷くことしかできなかった。その圧だけで、生徒達がはったりでも何でもなく本当にやるという事を理解するには十分すぎた。生徒たち全員が頷いた事を見て、クレアは圧を解いて微笑んだ。


「じゃ、解散してねー。後は寝るなり遊ぶなり好きにしていいわよ。質問があるなら今発言してね」「では先生、質問が。さっきのテスト、拓郎だけ受けてないのは何でですか?」


 クレアの言葉に、すかさず拓郎のクラスメイトのひとりが手を上げて質問を行う。その質問は至極真っ当な物ではあったが、クレアはうーんと考える。


「たっくんにやらせてもいいんだけどね……正直に言うけど本当に見る? 現実を直視できる?」


 クレアの言葉には、拓郎の物を見て自信を喪失してしまい──この先の訓練に身が入らなくなって無為に夏を過ごすことになりはしないかという心配があった。圧倒的なものを見てしまい、これはダメだ、俺は才能がないんだと心を折られる可能性が十分にあるためだ。


「まあ、クレア先生の言葉もわかる」「怖い物見たさなところもあるし」「でも、やっぱり見てみたいよな。拓郎がやるとどうなるのかってのは」


 生徒達の間でいくつもの会話が飛び交っている。それを確認したクレアは多数決を取る事にした。拓郎にやらせるか否か、である。その結果、やらせる事に決まる。


「じゃあたっくん、こっちに来てね」「了解です」


 クレアに呼ばれた拓郎が海に向けて人差し指をだし、クレアからの開始の言葉を待つ。クレアは生徒達と教師達が魔法を見る準備を整えたことを確認してから拓郎へ初めの言葉を告げた。直後、拓郎の指から青い炎の魔法が一直線に海に向かって放たれた。時間にして2秒以内に終わっている。


 クレアの開始の言葉を聞いてから一瞬で魔法を放つのに十分な圧縮を行い、放っているためテストの条件を満たしている。拓郎はクレアに「これでいい?」と確認のまなざしを向け、クレアは微笑んで「十分よ」という返答を込めた視線を拓郎に送った。拓郎は頷いてからゆっくりとその場を離れた。


「と、こうなるわね。訓練次第で、君達もこれぐらいの速さで撃てるようになると思うけど──まあ、それは今は考えなくていいわ。明日からの訓練に備えて、しっかりと休む事! それじゃ解散ー」


 そう告げてクレアは引っ込み、拓郎クレアに続いてこの場を後にした。残された生徒達はしばしその場で硬直していたが、やがて意識が返ってくるとどよめきが起きる。


「あんなに撃つの早いの!?」「威力も段違いだったな……海から蒸気が上がっていたぞ」「威力は無理そうだな……でも、圧縮にかける時間はまだまだ短縮できそうだってのは思った。さっきの拓郎の圧縮はすごくきれいで無駄がなかったからな。良い手本になった」「それは言えてる、威力がとんでもなかったが手本という点でも凄かったな」


 徐々に拓郎が放った魔法についての話し合いへと移行し、自信を喪失するよりもいい手本となったと考えて自分達の改善に向けて話し合う生徒達。そんな生徒達を見ながら、教師陣もまた話し合いを行っていた。


「あの圧縮は覚えると様々な事に応用が利きますよね?」「ですね、たとえレベルが低くてもそれをカバーできる威力が出せるだけではなく、防御にも使えそうです」「我々にとっても、この1週間だけでたくさんの事を学べています。残り3週間、しっかりと気を入れていかなければならないでしょう」


 教える側であるがゆえに、学ぶことに関してはある意味生徒よりも貪欲である。何せ知らないことは教えようがない。出来ないことは伝えようがない。教科書などすでに魔法の訓練においては役に立たず、ジャックやメリーが作った教本を基に対応している現実。学べる機会を一つ逃すことは、生徒達への成長に関する機会を損失する結果につながるのだ。


 結局休暇だと言われたにもかかわらず、テストで使った魔法に関して、そして拓郎の見せた魔法に関する話し合いでこの日はつぶれる事になる。魔法の訓練は無かったため体はある程度休まったが、頭の方はむしろつかれる一日となってしまった。さて、一方拓郎と魔女3人側だが──



「成長度合いは予測よりもやや上ね。良い兆候だわ」「みんな真剣に取り組んでいるからな……一皮どころかそれ以上向けて2学期を迎える人は圧倒的に多いだろうな」「やる気があるのはとてもいい事よ。明日からも今日までのやる気を維持するのであれば出し惜しみせずに鍛えるわ」「拓郎さんの魔法を見せた結果、どうなったか次第ですね」


 と、こちらはこちらでこの1週間の訓練による成果の確認をする話し合いを行っていた。が、問題なく進んでいるどころか想定よりも上というありがたい展開になっているため表情は明るい。


「これなら予定を変えなくてよさそうね」「この一週間で基礎を磨きなおし、そしてテストであれぐらいの成果を出せたなら問題ないわね」「このままいきましょう」「問題はないと思うな」


 と言った感じで早々に話し合いは終わる。その後は──クレアが拓郎にくっつき、ほおずりするという生徒達の前では見せられない行動に出ていた。そしてそれをほほえましく見るジェシカと、目を疑うフレーナ。クレアが一人の日本人男性にご執心であると話は聞いていた。だがまさかこんな姿をさらすとは──


(あの時無表情で、ただ死臭を漂わせるかのような恐怖の対象となっていたクレアがねぇ……これは確かに、私の国でも下手な事をするなと釘を刺すわけだわ。こんなクレアからこの子を取り上げたらどうなるか、想像するだけでげんなりするもの)


 と、フレーナは心の内で思う。そして、この状態を維持するためにも──よからぬ連中は早めに潰そうと心を新たにしていた。

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