132話
翌日から本格的に訓練が始まった。メニューとしては30分基礎の練り直しをして15分休憩。これを4セットやるのが午前のメニューである。なお、初日の生徒達の反応はと言うと。
「授業でやってきたことの復習だと思っていたのに、これほどきついとは」「基礎の練り直しじゃなくて、ガチで一からやり直しっていう方が正しくね? 今までの授業時間でやってきた基礎訓練って、まだまだ甘かったんだな」「これを後3セットやるのか……気が遠くなりそう」
と言った会話が休憩時間で交わされた。彼らの言う通り、基礎の練り直しと銘打ってあるが──やっている事は魔人や魔女がやる訓練にかなり近いものとなっている。その為きついのは当然であり、30分ごとに休憩を入れなければならない理由でもある。その代わりこれが普通にできるようになれば魔法のレベルは上がらなくても魔法の威力、持続時間などは大きく跳ね上がる。授業では時間の関係上難しい、合宿向きの訓練なのだ。
当然拓郎も同じ訓練をしているのだが、こちらはもう基礎的なスペックが高くなっているため他の生徒達の様に休憩時間ごとにヘロヘロになる事はない。もちろん多少の疲労感は覚えるが、数分で完全に消えるほどでしかない。なので周囲から、やっぱり拓郎は違うなと言う視線が向けられる。
「こんなきつい訓練でもそれだけケロッとしてられるのは、今までの積み重ねって奴か?」「ああ、色々な訓練、経験を積むように指導を受けてきたからだな。何の努力もなくここまでこれたわけじゃない──なんてことは、雄一なら知っている事だったな」
代表して雄一が拓郎から言葉を引き出す。拓郎の何の努力もなくここまでこれたわけじゃないという一言は、拓郎のクラスメイトには納得感を。他の面々にはさまざまな想像を働かせる切っ掛けとなった。
「はい、15分経ったからまた再開してねー。焦らずコツコツ積み上げる、これが一番面倒で一番早く強くなる方法だからねー?」
クレアの言葉に、誰もが休憩を終えて再び訓練に集中する。これを繰り返せばあっという間にお昼だ。お昼は魔女の3人が毎日日替わりで作る事になっている。本日はジェシカが作ったパスタである──ミートソースにペペロンチーノなど、いくつかの選択制になっている。各自生徒は自分の好みの物を手に取って食事をする。
当然午前の訓練もあって疲労困憊ではあるが、それでもしっかりと腹に入れる。午後にも訓練はあるのだから、ここで食べなければ体が持たない。そうして昼食が終わると、クレアが2時間の休憩を言い渡した。
「君達の疲労具合を考えると、これぐらい休んでからじゃないと午後は辛そうだしね。突かれている所に訓練をする必要性があるときはあるけど、それは今じゃないし。人数分のイスと日蔭はあるからしっかり休みなさい。寝ても良いわよー? あ、たっくんだけは別ね」
クレアの言葉にありがたいとばかりに生徒達と教師陣は用意されていた日陰にある椅子に腰かけると、すぐに寝息が聞こえて来た。なお、この生徒や教師が据わった一見ただのビーチチェアに見える椅子は普通のイスではない。座っているだけで疲労を抜き、体力を回復する椅子である。むろん一つ一つがそれなりのお値段がする……なんてことを生徒達は知らない。知らない方が良い。
さて、休憩に入った彼らを横目に、拓郎は再び海に出て再び走り始める。基礎を磨きなおし、海を走る事でその制度をさらに上げる。これが最初の1週間で拓郎がやるべき訓練である。この夏の終わりにジェシカの血を受け入れるためにも、しっかりと心身を磨きなおす必要がある。
だからただ走るのではなく、常に全力で走る。少しでもペースが落ちれば、クレアから軽めの電撃によるお仕置きが入る──が、あくまでクレアにとっての軽めであり、一般人が受ければ感電によるショックで死亡しかねない物騒な代物だが。流石の拓郎もそんなものを喰らうのは勘弁願いたいので、必死に海の上を走る。
そうして2時間が過ぎた後は午後のメニューが始まる。午後は午前と違って体を動かすメニューだ。それも球技と言う形で。ビーチバレーやサッカー、ドッチボールなどを行うのだが……もちろんただのスポーツで終わる筈もない。ボール関連を撃つときに、蹴るときに、投げるときに魔法を使ってボールに属性効果を乗せて放たなければならないのである。
属性を乗せずに放った場合、視界のコートに掛けられた防御魔法によってビーチバレーでは相手のコートに跳ね返されて浮き球となり、サッカーはゴールに入らずガードされる。ドッチボールももちろん相手に当たらない。それらを突破するために魔法属性を乗せての攻撃は必須となる。
当然属性を乗せて放たれたボールを守るために防御魔法を使って受け止めたりする必要性が出る。体を動かしつつ魔法による攻防を嫌でも身に着ける事になるこれらの訓練は、想像するよりもはるかに難易度が高い。攻撃側の魔法をしっかりと防御できなければ、〇〇くんふっとばされたー! 状態になるし、かといって過剰に魔力を使って防御をすると、一試合もたなくなる。試合終了まで魔力を持たせつついかに効率的にスコアを取るのかが求められるのだ。
初日は吹き飛ばされる生徒が多数出た。怪我こそないが、相手の魔法の見極めを誤る生徒が多数。と言ってもこれは経験の少なさが問題なので、見極めを身に着けるためには数をこなすしかないのだが。後は試合途中でガス欠状態になる生徒もまた多かった。これもまた経験が足りてないがゆえに発生する事であった。
それでも、真面目に誰もが足り組んだ。なぜなら、勝った側にはさまざまな特典が付与されるからである。晩御飯の量にはじまり、デザートやらポーションなどが手に入るからである。ポーションはケガの治療だけでなく疲労を抜く効果もあるがなかなかの貴重品であり、一般人が手にすることは早々ない。だが、今回の生成期優秀者には配布されると発表されたがゆえに、誰もが目の色を変えている。
「狙い通りだわ。こうやって必死になってやれば嫌でも体に魔力の運用が浸み込むものね」「ええ、夏が終われば皆が気が付くでしょう。一番の収穫は景品などではなく、己を鍛え上げたことによって得られる様々な新しい力であるという事を」「ま、言葉で言ってもわかりにくい物ね。多少物で釣るのもまた手っ取り早いし」
などと言う魔女同士の会話は生徒達に届くことは無い。結果が出ればそれでいいのである……むろん、怪我や後遺症などが出ないようにはしているが。そして晩御飯の時間となるが……死屍累々という言葉が一番適切だろうか。ほぼ全員がガス欠状態となっており、晩御飯を食べる速度も非常に遅い。それでも生徒達は必死で食べている。
「──酷い状況だ。去年の俺もこんな感じだったんだろうか」
去年の前半は特にきつかったよなーと拓郎は思い返す。そもそも家を建てるのに時間がかかったもんなぁとしみじみとしている。だが、他の生徒にとっては晩御飯を普段通りに食べている拓郎の姿を見て化け物だ、怪物だなどと心の中で思ってしまっていたのは無理のない話だろう。
その後、風呂に入ったはいいが寝落ちする生徒が多数。拓郎や魔女がサポートして何とか湯船に沈む生徒は出さずに済んだがなかなかにひどい絵面であった事だけを申し上げておく。そんな日が数日続くことになったが──最初の1週間が終わった時、生徒達は見違えるほどに強くなっていた。
自分もそうでしたが、周囲の人たちも最近体調を崩すことが頻発しました。
今年の2月は本当に大変な1か月になってしまいました。
それでも確定申告も無事終わり、これから先は良い事もあると信じたいこの頃……




