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八ノ理、九ノ断  作者: 常夜千怜
一栄一辱 ─破壊、それ即ち再生なり─
3/4

第弍話 痕 - 削り取られし真実

 翌日、八尾辰署のロビーは、再開発に伴うトラブルの相談などなどで、朝から妙な熱気に包まれていた。

 昨夜は一睡もできなかった。目の奥がジンジンと痛み、視界の端がチカチカする。

「……ですから、妹はそんな勝手な真似をするような子じゃないんです!」

 窓口の向こう側、白髪混じりの警察官は、僕の言葉を書き留めるでもなくただ面倒そうに頷いている。その手元、色褪せた机の上には、昨日ニュースで見た「八尾辰地区連続失踪事件」のファイル……ではなく、ただの「家出人捜索願」の束があった。

「九条さん、お気持ちは分かりますが、大学生ならね、急に友達の家に泊まるなんてこともよくある話でしょう?」

「スマホのGPSが神社で途切れていたんですよ?!」

「それも、落としただけじゃないんですか?友達の家に泊まることになったけど、スマホを落として連絡ができなかった。それだけじゃないですか?ここら辺は最近工事車両も多いし、見通しの悪い場所も増えています。」

 彼の言葉は、まるで何かのマニュアルを読み上げているように無機質だった。十五人もの被害者が出ているというのに。その十六人目に、僕の妹がなってしまったかもしれないというのに。

「とにかく、しばらくしても帰ってこなかったらまた来てください。今の段階では、なんとも言えない。」

 警察の対応があまりに慣れすぎていることに、僕は言いようのない寒気を覚えた。

「あ、それから。」

立ち去り際、彼はふと思い出したように顔をあげた。

「GPSの神社、八板神社でしたよね?あそこにはあまり近づかない方がいいですよ。」

「……どういう意味ですか?」

「あ、いや、別に深い意味はないんですけどね。あそこは再開発の計画からも外れている『触れてはいけない場所』ですから。」

 彼の目が、一瞬だけ鋭くなった気がした。

 警察署の自動ドアを出た瞬間、熱を帯びた風が頬を刺すように撫でた。結局収穫はゼロ。警察は動かない。

 重い足取りで自転車の鍵を開けようとしたとき、ポケットの中でスマホが気だるそうに震えた。反射でよく見えない画面を覗き込むと、昨日の巫女さんからメッセージが届いている。

『九条さん、昨日はちゃんと寝られたでしょうか。今朝、拝殿の裏を掃除していたところ、こちらを見つけました。』

 添付されていた写真を見て、息が止まった。

 泥に汚れ、アクリル部分にヒビの入ったアニメのキーホルダー。それは、真弥が「お兄ちゃんとお揃い!」と大切にしていたものであった。

「ぁぁ……」

 声にならない掠れた声が喉を微かに震わす。思わず地面に膝をつく。古いアスファルトの地面が弱々しく震える足にめり込む。

 周囲の人たちがボソボソと呟いているのが遠くから聞こえる。全身から溢れる汗はやたら粘っているように感じた。

 どれくらいの時間が経っただろう。顔をあげると、周りに人はいなかった。とりあえず巫女さんに、

『ありがとうございます。今から向かいます。』

 と半分無心で返信をし、駅前の喧騒とは逆の方向、あの静まり返った社へとハンドルを切った。

長い間音沙汰もなく更新しなかったことを深くお詫び申し上げます。誰もこんな小説待ってないとは思いますが。もう少しのんびり執筆しようと思います。とはいえ、長くとも二週間に一回は更新するようにしますね。次回更新日は決まり次第お知らせしますのでしばらくお待ちくださいな。

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