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告白未遂の後処理が一番めんどくさい

告白未遂の後処理が一番めんどくさい

廊下の向こうで立ち止まったせなは、

 なぎとの顔をじっと見つめた。


 数日前よりもずっと元気そうで、

 声もちゃんと出ていて、

 目の下のクマも消えている。


 せなは胸をなでおろした。


「……ほんとに、治ったんだね」


「……あぁ。

 もう大丈夫だと思う」


 なぎとは軽く咳払いしてみせる。

 痛みはない。

 声もかすれていない。


 せなはほっとしたように笑った。


「よかった……」


 その笑顔があまりにも柔らかくて、

 なぎとは思わず目をそらした。


「……なんだよ」


「ん……なんでもないよ」


 せなは首を振ったけれど、

 その頬はほんのり赤い。


 なぎとは気づかないふりをした。


 でも――

 せなは、気づかないふりをしなかった。


 数秒の沈黙のあと、

 せなは小さく息を吸った。


「……ねぇ、なぎと」


「ん?」


「……あの時のことなんだけど」


 なぎとは一瞬で固まった。


(あの時……?

 どの……?

 いや、まさか……)


 せなは指先をぎゅっと握りしめ、

 視線を落としたまま続けた。


「……“好き”って……言ってたよね……?」


「っ……!」


 なぎとは喉が詰まったように息を呑んだ。


 せなの声は震えていた。


「……あれ……

 ほんとに……冗談……だよね……?」


 その言葉には、

 “しゅいが好きな自分が、

 なぎとに“好き”と言われて胸がざわついた”

 そんな混乱が混じっていた。


 なぎとは慌てて顔をそらした。


「ち、違うに決まってんだろ!!

 あんなの……

 熱で……頭おかしくなってただけだし……!」


 声が裏返る。


 せなはびくっと肩を揺らし、

 でもすぐに小さく笑った。


「……そっか……

 うん……そうだよね……」


 その笑顔は、

 どこか寂しそうでもあった。


(……そっか……

 冗談……なんだ……

 そうだよね……

 わたし……しゅいが好きだし……

 でも……なんで……なぎとの事……かっこいいって思っちゃうかな……)


 せな自身も分からない。


 なぎとは言い訳のように続ける。


「だいたい……

 お前……

 なんでそんなこと聞くんだよ……」


「え……?」


「普通……

 そんなの……

 気にしねぇだろ……」


 せなは一瞬、言葉を失った。


(……気に……するよ……

 だって……なぎとの事ちよっと好きだから……)


 胸がきゅっと締めつけられる。


 でも、

 その理由を言葉にするのは恥ずかしかった。


「……なんとなく……だよ……」


 せなは小さく答えた。


 なぎとは眉をひそめた。


「なんとなくで聞くなよ……

 心臓止まるだろ……」


「え……?」


「……な、なんでもねぇ!!」


 なぎとは顔を真っ赤にしてそらした。


 せなは胸がまたざわついた。


(心臓止まる……? まだ、風邪が治ってないのかな……? それとも……ドキドキの方……なわけないか……!)


 なぎとを意識してしまう。でも、しゅいが好き。

 自分でも何がどうなっているのかよく分からない。


 でも――

 なぎとは、

 せなの揺れる表情に気づかないふりをして、

 さらに言葉を重ねた。


「……でも」


 せなが顔を上げる。


「……お前のこと……

 その……

 可愛いとは……思うけど……」


「っ……!」


 せなの顔が一瞬で真っ赤になった。


「か、かかかか……可愛い……?」


「っ……! 今のなし!!

 忘れろ!!」


「む、無理!!

 忘れられない!!」


「忘れろ!!」


「忘れない!!」


 二人とも真っ赤で、

 声が裏返って、

 目を合わせられない。


 でも――

 せなは、

 ほんの少しだけ勇気を出した。


「……ありがと……」


「はぁ!?

 なんでだよ!!」


「だって……

 褒められたら……

 嬉しいじゃん……」


「嬉しがんな!!

 今のなしだって言ってんだろ!!」


「なしにしない!!」


「しろ!!」


「しない!!」


 なぎとは頭を抱えた。


「……ほんと……

 お前……ずるい……」


「ずるくないよ……」


「ずるい!!」


「ずるくない!!」


 言い合いながら、

 二人の距離は少しずつ近づいていく。


 せながふっと笑った。


「……でも、

 治ってよかった」


 その笑顔は、

 数日前よりもずっと柔らかくて、

 あたたかくて、

 なぎとの胸をまた締めつけた。


「……あぁ。

 ありがとな」


「うん」


 せなは照れながら、

 でも嬉しそうに頷いた。


 なぎとは顔をそらしながら、

 小さく呟いた。


「……ほんと……

 今の全部なしだからな……」


「なしじゃないよ」


「なしだ!!」


「なしじゃない!!」


「……っ……!」


 なぎとはもう限界で、

 せなはもう笑っていて、

 二人の距離は、

 ほんの少しだけ縮まった。


 せなの胸の奥には、

 まだ“しゅい”の名前がある。


 でも――

 その隣に、

 “なぎと”の名前が

 静かに並び始めていた。

 

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