恋の重力が全部違う方に引っ張ってくる
恋の重力が全部違う方に引っ張ってくる
せなの膝の上で眠っていたなぎとは、
せなの小さな歌声に反応するように、
ゆっくりとまつげを震わせた。
せなは気づかず、
ただ不安を紛らわせるように、
静かに声を重ねていた。
歌というより、
息に近い、柔らかい音。
ステージで響かせる声とは違う。
誰か一人のためだけに落ちるような、
そんな声。
その声が、
なぎとの胸の奥にじんわり染み込んでいく。
「……せな……」
かすれた声が、膝の上から漏れた。
「っ……!?」
せなは歌を止め、
慌てて口を押さえた。
「お、起きてたの……!?」
なぎとは薄く目を開け、
ぼんやりとせなを見上げた。
焦点はまだ合っていない。
でも、耳は確かにせなの声を捉えていた。
「……今の……」
「な、なに……?」
「……歌……?」
「っ……! ち、違……!」
せなは両手をぶんぶん振る。
「歌ってたわけじゃなくて……!
なんか……勝手に……声が出ただけで……!」
なぎとはゆっくり瞬きをした。
そして、
熱で赤くなった頬のまま、
ぽつりと呟いた。
「……いい声……」
「っっっ……!!?」
せなは一瞬で固まった。
「な、なに言って……!」
「……いつも……歌ってる時と……違う……」
せなは息を呑んだ。
(……“いつもの声と違う”は言わないでって思ってたけど……
これ……なんか……違う……
悪い意味じゃない……)
なぎとは続けた。
「……もっと……近い……感じ……」
「ち、近いって……」
「……優しい……」
せなは胸がぎゅっとなる。
なぎとは目を閉じ、
せなの膝に頬を寄せた。
「……こっちの方が……好き……」
「っ……!!」
せなは顔を覆った。
(む、無理……
こんなの……無理……!)
でも、なぎとは続ける。
「……ステージの声も……好きだけど……
今の……なんか……落ち着く……」
その声は、
熱で弱っているのに、
どこか素直で、
甘えていて、
せなの胸を一瞬で溶かした。
「……せな……」
「な、なに……」
「……もう一回……」
「む、無理!!」
せなは真っ赤になって叫んだ。
「なんでだよ……」
「なんでって……!
恥ずかしいに決まってるでしょ……!」
「……聞きたい……」
なぎとは膝に頬を押しつけ、
せなの服の端を指先でつまんだ。
その仕草が、
せなの心臓を一気に跳ね上げる。
「……お願い……」
「っ……!」
(な、なんでそんな……
弱ってる時だけ……素直なの……)
せなは震える声で言った。
「……少しだけ、だよ……?」
なぎとは目を閉じ、
静かに息を吐いた。
「……うん……」
せなはそっと息を吸い、
さっきよりも小さく、
柔らかく声を重ねた。
歌というより、
ただの優しい音。
なぎとはその声に反応するように、
眉を緩めた。
「……やっぱ……好き……」
「っ……!!」
せなは胸を押さえた。
(……こんなの……
反則……)
なぎとは完全に起きているのに、
膝から離れようとしない。
せなはそっと髪を撫でた。
「……もう……寝た方が……」
「寝ない……」
「えっ……」
「……せなの声……聞いてたい……」
その言葉に、
せなは息を止めた。
(……どうしよう……
ほんとに……こういうの無理……。私、しゅいとなぎと……後……あおばとひばり(?)、本当は誰が好きなの……?)
膝の上で、
なぎとはせなの声に耳を澄ませていた。
その横顔は、
熱で赤いのに、
どこか幸せそうだった。




