膝から動けなくなった看病人
膝から動けなくなった看病人
せなは、なぎとをベッドに寝かせ直したあとも、
しばらくその場から動けなかった。
胸の奥がまだドクドクしていて、
さっき抱きしめられた感触が、
腕にも、頬にも、残っている。
(……なぎと……)
眠っている横顔は、
さっきよりもずっと穏やかだった。
熱で赤い頬。
少し開いた唇。
弱々しい呼吸。
その全部が、
せなの胸をぎゅっと締めつける。
「……大丈夫かな……」
せなはそっとベッドの横に座り、
なぎとの髪に手を伸ばした。
指先で、
ゆっくり、ゆっくり撫でる。
熱で汗ばんだ髪が、
指に柔らかく絡む。
「……早くよくなってね……」
小さく呟きながら、
もう一度、髪を撫でた。
その瞬間――
「……ん……」
「っ……!」
なぎとのまつげが、
ゆっくり震えた。
そして――
薄く目が開く。
「……せな……?」
「ひっ……!?」
せなは反射的に手を引っ込めた。
「ち、ちが……! これは……!
その……冷えピタがずれてないか見てただけで……!」
「……髪……撫でてたろ……」
「っっっ……!!」
せなは真っ赤になり、
両手をぶんぶん振った。
「ち、違うの!!
撫でてない!! 絶対!!」
「……嘘つけ……」
なぎとはぼんやりした目で、
せなをじっと見つめる。
熱で視界が揺れているのに、
その目だけはせなを離さない。
「……なんで……撫でてたんだよ……」
「な、なんでって……!」
せなは言葉に詰まる。
(なんでって……
心配で……
苦しそうで……
触れたくて……)
でも言えない。
言えるわけがない。
「……なぎとが……寝てたから……」
「寝てたら……撫でんのかよ……」
「う、うるさい!!」
せなは顔を覆った。
なぎとは、
その反応が可愛くて仕方ないように、
小さく笑った。
「……ありがとな……」
「っ……!」
その一言で、
せなの胸がまた跳ねる。
なぎとはゆっくり目を閉じ、
深く息を吐いた。
「……なんか……眠い……」
「寝ていいよ……」
「……ん……」
せなはそっと立ち上がろうとした。
その瞬間――
「……っ」
なぎとが寝返りを打った。
そして――
ぽすっ。
「……えっ……」
なぎとの頭が、
せなの膝の上に落ちてきた。
「な、な、なぎと!?!?」
せなは固まった。
膝に感じる重さ。
なぎとの髪の柔らかさ。
呼吸の温かさ。
全部が、
せなの心臓を一気に跳ね上げる。
「……ん……」
なぎとは気持ちよさそうに目を閉じたまま、
せなの膝に頬を寄せた。
「ちょ、ちょっと……!
なんで膝に……!」
「……あったかい……」
「っ……!」
せなは顔を覆った。
(む、無理……
こんなの……無理……)
でも――
なぎとは完全に眠っている。
せなは逃げられない。
膝の上で、
なぎとの呼吸がゆっくり上下する。
そのたびに、
せなの胸も上下する。
「……なぎと……」
そっと髪を撫でる。
さっきよりも、
もっと優しく。
なぎとは微かに笑った。
「……せな……」
「っ……!」
寝言。
せなは息を止めた。
「そば……に……いろよ……」
その言葉に、
せなの胸がぎゅっと締めつけられた。
(……そんなの……
言われたら……)
涙がにじむ。
「……いるよ……
どこにも行かないよ……」
せなは小さく呟き、
なぎとの髪をもう一度撫でた。
膝の上で眠るなぎとは、
穏やかな寝息を立てていた。
その寝息は、
せなの手の温度に合わせるように、
ゆっくり落ち着いていった。




