頬キスの犯人が挙動不審すぎる
頬キスの犯人が挙動不審すぎる
なぎとは深い眠りの中で、
ふと、頬に残る“何か”の感触に気づいた。
ひんやりしていて、
でもどこか柔らかくて、
あたたかいような――
(……なんだ……これ……)
夢の中のような、
現実のような、
曖昧な感覚。
額に貼られた冷えピタの冷たさとは違う。
もっと……優しい。
(……なんか……触れた……?)
ぼんやりした頭で考えていると、
部屋のドアがそっと開いた。
「……なぎと……?」
せなの声。
なぎとはゆっくり目を開けた。
視界がぼやけて、
せなの姿がゆっくりと形を結ぶ。
「……せな……?」
「っ……! お、起きてたの……!?」
せなは顔を真っ赤にして、
慌ててドアを閉めた。
なぎとはぼんやりした頭で、
さっきの感触を思い出す。
(……なんか……頬……触れたよな……
これ……なんだ……?)
指で頬を触ると、
ほんのり温かい。
「……なぁ……」
「な、なに……?」
せなは視線をそらし、
耳まで真っ赤になっている。
「……なんか……
俺の……頬……触った……?」
「っっっ……!!?」
せなは一瞬で固まった。
「な、な、な、なに言って……!」
「いや……なんか……
触れた気がして……」
「き、気のせい!! 絶対気のせい!!」
「……そうか……?」
「そう!!」
せなの声は裏返り、
顔は真っ赤で、
手はそわそわ動いている。
(……なんだよ……
こいつ……なんでそんな……)
なぎとは混乱した。
頭がぼーっとして、
熱で思考がまとまらない。
でも――
せなの反応が、
どう見ても“何かした”人のそれだった。
「……お前……なんかしただろ……」
「し、してない!!」
「してるだろ……」
「してないってば!!」
「じゃあなんでそんな真っ赤なんだよ……」
「そ、それは……!」
せなは口をぱくぱくさせ、
言葉が出てこない。
なぎとはぼんやりした頭で、
その姿を見つめた。
(……なんで……
こんなに……可愛いんだよ……)
胸がじんわり熱くなる。
熱のせいか、
せなのせいか、
もう分からない。
なぎとはゆっくり体を起こした。
「な、なぎと!? 起き上がらなくていいよ!!」
「……大丈夫……」
大丈夫じゃない。
頭はぐらぐらするし、
体は重い。
でも――
(……なんか……
せなの顔……近くで見たい……)
そんな理由で、
なぎとは無理やり体を起こした。
せなは心配そうに近づく。
「ほんとに大丈夫……?
顔……赤いよ……?」
「……お前が……近いから……」
「えっ……」
せなは一瞬で固まった。
その瞬間――
なぎとの腕が、
ふらりとせなの肩に回った。
「っ……!?」
せなは驚いて目を見開く。
「な、なぎと!?!?」
なぎとはそのまま、
せなを胸に引き寄せた。
ぎゅっ、と。
「な、な、なにして……!」
「……なんか……
こうしてると……安心する……」
せなは息を呑んだ。
なぎとの腕は熱くて、
弱くて、
でも確かに自分を抱きしめていた。
「……なぎと……離して……」
「……離したく……ねぇ……」
その声は、
熱でかすれて、
弱々しくて、
でも本音しかなかった。
せなは胸がぎゅっと締めつけられた。
(……なぎと……
こんな……弱い声……出すんだ……)
腕の中で、
なぎとの呼吸がゆっくり落ち着いていく。
せなは動けなかった。
心臓がうるさくて、
顔が熱くて、
頭が真っ白で――
「なぎと……あの……」
「……ん……」
「苦しくない……?」
「……苦しくねぇ……
お前……あったかい……」
せなは顔を覆いたくなるほど真っ赤になった。
(む、無理……
こんなの……無理……)
でも――
なぎとは離してくれない。
腕の力は弱いのに、
その“離したくない”気持ちだけは
しっかり伝わってくる。
「……なぎと……?」
「……ん……」
「寝るの……?」
「……寝る……」
「えっ……」
「……お前……抱いてると……
安心するから……寝れる……」
その言葉を最後に、
なぎとはせなの肩に顔を埋めたまま、
すう……っと眠りに落ちた。
「っ……!」
せなは固まった。
腕の中で眠るなぎと。
自分にしがみついたまま、
離す気配がない。
(……なぎと……
寝た……?)
そっと腕を動かそうとしたが――
「……ん……」
なぎとが小さく声を漏らし、
腕に力が入る。
せなは動けなくなった。
(む、無理……
顔……熱い……
心臓……死ぬ……)
しばらくそのまま固まっていたが、
なぎとの腕の力がゆっくり緩んだ。
せなはそっと抜け出し、
なぎとをベッドに寝かせ直した。
離れた瞬間――
せなの顔は真っ赤で、
耳まで熱くて、
胸がドクドク鳴っていた。
「……なぎと……
ずるいよ……」
小さく呟き、
せなはその場にしゃがみ込んだ。
頬に残る、
なぎとの体温。
胸に残る、
抱きしめられた感触。
耳に残る、
“安心する”の声。
(……どうしよう……
本当にやばい……好きになっちゃう……。……私の……バカ……)
せなは顔を覆い、
しばらく動けなかった。
ベッドの上では、
なぎとが穏やかな寝息を立てていた。




