看病しに来たのに自分が倒れそう
なぎとはせなの手を握ったまま、
ゆっくりと眠りに落ちていった。
せなはしばらくその寝顔を見つめていた。
熱で赤くなった頬。
少し荒い呼吸。
眉間に寄った小さな皺。
(……苦しそう……)
胸がぎゅっと痛む。
せなはそっと手を離し、
立ち上がった。
「……冷えピタ……」
小さく呟き、
急いで部屋を出る。
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戻ってくると、
なぎとは浅い呼吸で眠っていた。
「……なぎと……」
せなはそっと近づき、
冷えピタの袋を開ける。
ひんやりしたシートを取り出し、
なぎとの額にそっと貼った。
「……っ……」
なぎとは小さく眉を寄せたが、
起きる気配はない。
せなはその額に手を添え、
優しく撫でた。
「……早くよくなってね……」
その声は、
涙が混ざるほど優しかった。
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しばらくして、
なぎとはうっすら目を開けた。
「……ん……」
「なぎと……起きた……?」
「……あぁ……」
声がかすれている。
「ちょっと……食べられる……?」
「……無理……」
「無理じゃないよ。食べないと治らないよ」
「……お前……ほんと……うる……せぇ……」
文句を言いながらも、
なぎとは起き上がろうとする。
せなは慌てて背中を支えた。
「ゆっくりでいいから……!」
「……ん……」
せなは用意していたおかゆを持ってきて、
スプーンにすくった。
「……はい、あーん」
「はぁ……!? なんでだよ……!」
「だって……なぎと、しんどそうだし……」
「……っ……」
なぎとは顔をそむけた。
「自分で食える……」
「じゃあ食べてみて」
なぎとはスプーンを持とうとしたが、
手が震えてうまく掴めない。
「……っ……」
「ほら……」
せなはスプーンを差し出した。
「……あーん」
「……っ……!」
なぎとは観念したように、
小さく口を開けた。
「……あーん……」
せなはそっとスプーンを口に運ぶ。
なぎとはゆっくり飲み込み、
小さく息を吐いた。
「……うまい……」
「ほんと……?」
「……あぁ……」
その声は弱々しいのに、
どこか安心していた。
せなは胸がじんわり温かくなる。
「……じゃあ、もう一口」
「……あーん……」
なぎとは照れながらも、
素直に口を開けた。
その姿が可愛くて、
せなは思わず笑ってしまう。
「……なに笑ってんだよ……」
「だって……かわいい……」
「かわいくねぇ……」
そう言いながらも、
なぎとは耳まで赤くなっていた。
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おかゆを少し食べた後、
なぎとはまた眠りに落ちた。
せなは椅子に座り、
その寝顔をじっと見つめる。
(……なぎと……)
熱で赤くなった頬。
少し開いた唇。
弱々しい呼吸。
その姿を見ているうちに――
(……あ……)
ふと、
前に自分が熱を出した時のことを思い出した。
なぎとが、
自分の頬にそっとキスしてくれたこと。
(……あれ……夢じゃなかったんだよね……)
胸がドクンと跳ねる。
顔が一気に熱くなる。
「……なぎと……」
せなはそっとベッドのそばに膝をつき、
なぎとの寝顔を覗き込んだ。
眠っているから、
抵抗も、照れも、怒りもない。
ただ、弱くて、
守りたくなる顔。
(……こんな時に……思い出すなんて……)
でも――
思い出してしまったら、
もう止められなかった。
せなは震える指で、
なぎとの髪をそっと撫でた。
「……元気になる魔法……だよ……」
小さく呟き、
ゆっくり顔を近づける。
心臓がうるさくて、
息が苦しくて、
手が震えて――
それでも。
そっと、
なぎとの頬に唇を触れさせた。
ほんの一瞬。
でも、確かに触れた。
「……早く……元気になってね……」
唇が離れた瞬間、
せなの顔は真っ赤になった。
「っ……!!」
自分が何をしたのか理解した途端、
胸が爆発しそうになる。
「む、無理……!!」
せなは立ち上がり、
慌ててドアへ向かった。
ドアノブに手をかける前に、
もう一度だけ振り返る。
なぎとは眠ったまま、
穏やかな顔をしていた。
(……よかった……)
せなは小さく微笑み、
そっと呟いた。
「……おやすみ、なぎと……」
そして――
逃げるように部屋を出ていった。
ドアが静かに閉まる。
部屋には、
なぎとの寝息だけが残った。
その寝息は、
さっきより少しだけ穏やかだった。




