風邪よりせなの涙の方が効く
風邪よりせなの涙の方が効く
薄い布団の中で、なぎとはゆっくり目を開けた。
天井がぼんやりと揺れて見える。
頭が重い。
喉が少し痛い。
体がだるい。
「……なんだ……これ……」
寝返りを打とうとして、
隣に気配があることに気づいた。
ベッドの上。
静かに寝息を立てているせなの姿。
(……あ、そうだ……
昨日……せな……)
なぎとはぼんやり思い出す。
せなが部屋に来て、
“かっこよかった”なんて言って、
近づいてきて、
袖をつまんで、
そのまま寝落ちして――
(……ベッド……全部取られたんだっけ……)
思い出した瞬間、
なぎとは小さく笑った。
「……ほんと……バカ……」
でも、その声は優しかった。
しばらくそのまま横になっていたが、
体が重くて起き上がれない。
額に手を当てると、
熱い。
「……やべ……」
喉の奥がひりつき、
咳がこみ上げる。
「……っ、けほっ……!」
その咳で、
ベッドの上のせなが目を覚ました。
「……ん……?」
せなは寝ぼけた顔で周りを見渡し、
次の瞬間、目を見開いた。
「……えっ……わ、私……なぎとの部屋で……寝た……!?」
顔が一気に真っ赤になる。
「ち、ちが……! 違うの!!
寝るつもりじゃなくて……その……!」
せなは慌ててベッドの上で正座した。
「ご、ごめん!!
ベッド……全部取っちゃって……!
なぎと、床で寝たの……!?
ほんとにごめん……!」
なぎとは手を振ろうとしたが、
体が重くてうまく動かない。
「だ、大丈夫……だって……
お前……寝てたし……」
声がかすれている。
せなはその声に気づき、
眉を寄せた。
「……なぎと……?」
「ん……?」
「なんか……声……変じゃない……?」
「変じゃねぇよ……
ちょっと……だるいだけ……」
そう言った瞬間、
また咳が出た。
「……っ、けほっ……!」
せなは慌ててベッドから降り、
なぎとのそばにしゃがみ込んだ。
「ちょ、ちょっと待って……!
熱……測ろ……!」
せなは急いで体温計を取りに行き、
戻ってくると、
なぎとの手をそっと握った。
「……脇に……入れて……」
「わかってる……」
なぎとは体温計を挟み、
しばらくしてピピッと音が鳴る。
せなが画面を見た瞬間――
「……っ……!」
目が大きく揺れた。
「なぎと……
38℃ある……!」
「……あー……やっぱ……?」
「やっぱじゃない!!
なんで言わないの……!」
「言ったって……
お前……泣くだろ……」
「泣かないよ!!」
そう言った瞬間――
せなの目に涙がにじんだ。
「……泣いてんじゃねぇか……」
「だって……!
だって……!
私が……ベッド取ったから……!
布団も……全部……!
なぎと……床で……!
だから……風邪ひいたんだよ……!」
涙がぽろぽろ落ちる。
なぎとは驚き、
ゆっくり手を伸ばした。
震える手で、
せなの頭をそっと撫でる。
「……泣くなよ……
お前のせいじゃねぇよ……」
「せいだよ……!」
「ちがうって……
俺が勝手に……床で寝ただけだし……
お前が寝たの……
なんか……可愛かったし……」
「っ……!」
せなの涙が止まらない。
なぎとは苦しそうに息をしながらも、
せなの頭をぽんぽんと撫で続けた。
「……大丈夫だから……
泣くなって……」
「大丈夫じゃないよ……!」
「大丈夫だって……
お前が……そばにいりゃ……
なんとかなる……」
その言葉に、
せなの胸がぎゅっと締めつけられた。
「……なぎと……」
「ん……?」
「……そばにいる……
ずっと……いるから……」
なぎとは目を閉じ、
小さく笑った。
「……そっか……
じゃあ……安心だな……」
せなは涙を拭き、
なぎとの手をぎゅっと握った。
「……なぎと……寝てていいよ……
私……ここにいるから……」
「……ん……」
なぎとはそのまま目を閉じ、
せなの手を握り返した。
その手は熱くて、
弱々しくて、
でも確かにせなを求めていた。
せなはそっと布団をかけ直し、
なぎとの髪を優しく撫でた。
「……早くよくなってね……」
その声は、
涙の跡が残るほど優しかった。
なぎとは眠りに落ちる直前、
かすかに呟いた。
「……お前……
ほんと……可愛い……」
「っ……!」
せなは顔を真っ赤にし、
口を押さえた。
でも――
その言葉は、
なぎとの寝息に溶けていった。




