ベッド泥棒が可愛すぎて怒れない
ベッド泥棒が可愛すぎて怒れない
なぎとは壁際でしゃがみ込んだまま、
顔を覆って震えていた。
せなは袖をつまんだまま、
その様子をじっと見つめていた。
(……なぎと、ほんとに……かわいい……)
胸がじんわり熱くなる。
でも――
その熱さのまま、ふっと力が抜けた。
「……ん……」
せなの指がゆるみ、
袖から離れた。
なぎとは気づいて顔を上げる。
「……おい?」
せなは、こてん、とその場に座り込んでいた。
まぶたが半分落ちて、
頬がほんのり赤くて、
呼吸がゆっくりで――
「……寝てる……?」
なぎとは固まった。
さっきまであんなに顔を近づけてきて、
“もっと一緒にいたい”なんて言って、
心臓を何回も殺してきたくせに――
今は、無防備に眠っている。
「……はぁ……」
なぎとは頭を抱えた。
「なんで……
なんで俺の部屋で寝落ちしてんだよ……」
文句を言いながらも、
声はどこか優しい。
せなの頭がぐらりと傾き、
床に倒れそうになる。
「おわっ……!」
慌てて支える。
その瞬間、
せなの髪がふわっと揺れて、
なぎとの指先に触れた。
柔らかくて、
あたたかくて、
いい匂いがした。
「……っ……」
なぎとは一瞬で真っ赤になる。
「……もう……
ほんと……無理……」
でも、倒れそうなせなを放っておけるわけがない。
なぎとはそっと腕を回し、
抱き上げた。
さっきの“お姫様抱っこ”よりも、
ずっと静かで、
ずっと優しい抱き方。
せなの体温が胸に伝わってくる。
「……軽いな……」
ぽつりと呟く。
せなは眠ったまま、
なぎとの胸元に頬を寄せた。
「……っ……!」
なぎとは息を止めた。
「お、おい……
そんな……くっつくなよ……
心臓……死ぬだろ……」
でも、せなは眠っているから返事はない。
なぎとはゆっくり立ち上がり、
ベッドへ向かった。
布団をめくり、
せなをそっと寝かせる。
寝顔は穏やかで、
まつげが長くて、
唇が少しだけ開いていて――
「……なんだよ……
こんな顔で寝るなよ……」
なぎとはベッドの端に腰を下ろし、
せなの髪をそっと避けた。
指先が触れた瞬間、
胸がぎゅっとなる。
「……ほんと……
ずるいよな……お前……」
しばらく見つめていたが、
ふと我に返る。
「……って、俺どこで寝んだよ……」
ベッドは完全にせなに占領されている。
なぎとはため息をつき、
部屋の隅に敷物を探した。
薄いマットを床に敷き、
せなの布団を一枚だけ引っ張ってくる。
せなは少し動いたが、
起きる気配はない。
「……ったく……
俺の布団……全部取るなよ……」
文句を言いながらも、
声はどこか嬉しそうだった。
なぎとは床に横になり、
せなから借りた布団を肩までかける。
天井を見つめながら、
小さく息を吐いた。
「……本当にさ……なんで……
お前がここで寝てんだよ……」
でも、
せながすぐそばにいるという事実が、
胸の奥をじんわり温める。
静かな呼吸が聞こえる。
せなの寝息だ。
その音が、
なぎとの心を落ち着かせていく。
「……はぁ……
ほんと……バカ……」
そう呟きながら、
なぎとは目を閉じた。
床は固いし、
布団は薄いし、
心臓はまだ落ち着かない。
でも――
せながすぐそこにいる。
それだけで、
なぎとはゆっくり眠りに落ちていった。




