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逃げる背中を追う声と、落ちた本音

逃げる背中と追う声と、落ちた本音

「あの……俺、トイレ行ってくる」


 しゅいが立ち上がった。

 声は低く、どこか沈んでいる。


「ぼ、僕も……行ってきます……」


 ひばりも続く。

 手が震えているのが分かる。


「じゃ、俺も〜」


 あおばが立ち上がり、

 3人は連れ立ってトイレへ向かった。


 テーブルには、

 せなとなぎとだけが残された。


 静かすぎる。

 さっきまでの喧騒が嘘みたいに。


 なぎとは顔を伏せたまま、

 肩を小刻みに震わせていた。


(……なぎと……?)


 せなが声をかけようとした、その瞬間。


 ガタッ。


 なぎとが急に立ち上がった。


「っ……!」


 椅子が大きな音を立て、

 周りの客がちらっとこちらを見る。


 なぎとは顔を上げないまま、

 低く、でも震える声で言った。


「……帰る」


「えっ……?」


「無理。

 今日は……無理」


 短い言葉なのに、

 その声は限界ギリギリだった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!

 なんで帰るのよ!!」


「……知らねぇよ……」


 なぎとは顔をそむけ、

 耳まで真っ赤にして言った。


「お前が……

 あんな……

 ……っ、言うから……!」


 言葉が続かない。

 続けられない。


 なぎとは唇を噛み、

 視線を床に落とした。


「……もう無理。

 帰る」


 それだけ言って、

 なぎとはカフェの出口へ向かって歩き出した。


 背中が、

 いつもよりずっと小さく見えた。


(……行かなきゃ)


 気づけば、

 せなも立ち上がっていた。


「なぎと!!」


 呼びかけても、

 なぎとは振り返らない。


 せなはバッグも持たず、

 そのまま走り出した。


---



 外に出ると、

 夜の空気がひんやりと肌を撫でた。


 街灯の下、

 なぎとの背中が遠ざかっていく。


「なぎと!! 待って!!」


 せなが叫ぶと、

 なぎとは一瞬だけ足を止めた。


 でも振り返らない。


 せなは息を切らしながら追いつき、

 なぎとの腕を掴んだ。


「……なんで逃げるのよ!!」


「逃げてねぇ!!」


 なぎとは振り返り、

 せなを睨んだ。


 でもその目は、

 怒りよりも――

 “恥ずかしさ”でいっぱいだった。


「じゃあなんで帰るのよ!!」


「……知らねぇよ!!

 俺だって……知らねぇよ!!」


 なぎとは顔をそむけ、

 耳まで真っ赤にして叫んだ。


「お前が……

 あんな……

 “混乱する”とか……

 “そんなこと言われたら”とか……

 ……言うから……!」


 声が裏返る。


「だから……

 ……無理なんだよ……!」


 最後の一言は、

 ほとんど聞こえないほど小さかった。


 せなは胸がぎゅっとなる。


(……なぎと……

 照れてるだけじゃん……)


 腕を掴んだまま、

 せなは小さく言った。


「……逃げないでよ」


 なぎとはびくっと肩を揺らした。


「逃げてねぇって言ってんだろ!!」


「じゃあ帰らないでよ!!」


「……っ……!」


 なぎとは言葉を失い、

 視線をそらしたまま固まった。


 夜風が二人の間を通り抜ける。


 なぎとは、

 耳まで真っ赤にしながら小さく呟いた。


「……帰りてぇけど……

 ……帰れねぇだろ……

 ……お前が追いかけてくるから……」


 その声は、

 今にも消えそうだった。


 夜風が二人の間をすり抜ける。

 なぎとは耳まで真っ赤にしたまま、

 せなから視線をそらして固まっていた。


「でも。本当に今日は……帰る……って……決めたから……」


 短く、ぶっきらぼうに言い捨てて歩き出すなぎと。


「ちょ、ちょっと待ってよ!!」


 せなは慌てて追いかけ、

 なぎとの腕を掴んだ。


「なんで帰るのよ!!」


「……だから! 知らねぇよ!!

 お前が変なこと言うからだろ!!」


「変なこと言ってない!!」


「言ってる!!」


「言ってない!!」


「言ってるって言ってんだろ!!」


 言い合いなのに、

 二人の距離はどんどん近づいていく。


 せなは息を整え、

 少しだけ声を落とした。


「……別に照れてるだけなら……

 帰らなくたっていいじゃん……」


 なぎとは一瞬固まった。


 街灯の光が、

 なぎとの横顔を淡く照らす。


「……は?」


 なぎとの声が裏返る。


 せなは、

 自分が何を言ったのか気づいていない。


「だって……

 私……

 なぎとともっと一緒にいたい……!」


 その瞬間。


 なぎとの顔が、

 “真っ赤”を通り越して“真っ白”になった。


「っっっ……!?!?!?」


 口をパクパクさせ、

 言葉が出てこない。


 耳まで真っ赤。

 首まで真っ赤。

 手まで震えている。


「な、な、な……

 なに言ってんだお前……!!」


「え……?」


 せなはようやく自分の言葉に気づいた。


(……え?

 私……今……

 なんて言った……?)


 胸がドクンと跳ねる。


「ち、違うの!!

 その……

 なんか……

 無意識で……!」


「無意識でそんなこと言うな!!

 心臓止まるだろ!!」


「止まらないでよ!!」


「止まるわ!!」


「止まらない!!」


「止まるって言ってんだろ!!」


 二人は真っ赤な顔で叫び合う。

 でも、どちらも一歩も下がらない。


 そして――


 ふと、

 二人とも同時に黙った。


 夜風の音だけが聞こえる。


 なぎとは視線をそらしたまま、

 耳まで真っ赤にしている。


 せなも、

 自分の言葉を思い返して顔が熱くなる。


(……もっと一緒にいたいって……

 私……なに言ってんの……)


(……“もっと一緒にいたい”って……

 ……無理……

 ……無理だろ……)


 二人の間に、

 甘くて、気まずくて、

 でもどこか心地いい沈黙が落ちた。


 街灯の下、

 ただ二人だけが赤い顔で立ち尽くしていた。

 

 

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