帰る、帰らないの口喧嘩がまさかの抱っこで決着
帰る、帰らないの口喧嘩が、まさかの抱っこで決着
トイレから戻ってきた三人は、
席に着くなり、同時に首を傾げた。
「あれ、せなは?」
「なぎともいないけど……」
「どこに行ったんでしょうか……?」
あおば達は店内を見渡す。
カフェの柔らかい照明が、
テーブルや壁に温かい影を落としている。
でも、そのどこにも二人の姿はなかった。
「もしかして……逃げたんじゃね?」
しゅいがストローを噛みながら言う。
その声は軽いのに、妙に核心を突いていた。
「え……?」
ひばりの肩がビクッと跳ねた。
胸元を押さえる指がわずかに震える。
「気まずくなって逃げ出したが一番ありそう(勘がよすぎ!)」
「確かに……なぎとのこと、ずっと冷やかしてたし……」
「……探しに行く?」
「行く」
「……い、行きます」
三人は顔を見合わせ、
同時に立ち上がった。
椅子が床を擦る音が、
妙に大きく響いた。
そして三手に分かれ、
街へ飛び出していった。
――その頃、せなとなぎとはと言うと。
「カフェに戻るの!」
せなが風に髪を揺らしながら叫ぶ。
街灯の光が、せなの瞳に反射して揺れた。
「いや! 帰る!」
なぎとはそっぽを向き、
腕を組んで歩き出す。
耳まで真っ赤なのが、
街灯の下でもはっきり分かる。
「だから! みんな心配するでしょ!?
カフェに戻るの!!」
「帰る!」
「帰らない!」
「帰る!」
道に二人の声が響く。
通り過ぎる風が、
喧嘩の熱を冷ますどころか煽っていた。
(あーもう! しつこい!)
せなは勢いよく、
なぎとの袖を掴んだ。
その瞬間――
なぎとの肩がビクッと跳ねた。
まるで電気が走ったみたいに。
「ちょ……! いきなり掴むなよ!」
声は強いのに、
耳はさらに赤くなる。
「……」
「? は? なんか喋れよ」
「……」
「なんで喋らないんだよ……」
なぎとは一度歩き出そうとして、
でもすぐに戻ってくる。
落ち着かない足取り。
揺れる視線。
(意外と効くな……
このまま喋らなかったらどうなるんだろ……)
せなは無言作戦を続ける。
「おい……」
「……」
「……。ほら……行くぞ……!」
なぎとは手を差し出す。
でも、せなは目を逸らし、動かない。
なぎとは眉を寄せ、
困ったように唇を噛んだ。
(こいつ……なんで……動かねぇんだよ……)
その時だった。
「なぎと〜?」
「せな〜どこ〜」
「せなさん〜」
遠くから三人の声が響いた。
夜の静けさを破るように。
「!?!?」
なぎとは肩を跳ねさせ、
慌てて周囲を見渡す。
街灯の向こうに、
しゅい達の影が見えた。
「せな……! 隠れるぞ……!」
「……え、え……!?」
せなは驚きで声が出て、裏返る。
「な、なんで隠れるの!?
せっかく来てくれたんだから、行った方が――」
「バカか……!
どうせ、あいつらの所行ったら
“なにしてた?”とか聞かれんだろ!
あれ、超絶めんどくさいんだよ!!」
なぎとは焦りながら手を差し出す。
でも、せなは首を横に振る。
「やだ! 私はみんなの所いく!」
「は!?」
なぎとは目を見開き、
あたふたと手をばたつかせる。
そして――
一瞬だけ迷ったあと、
せなの前でしゃがみ込んだ。
「……? 何して……」
せなが覗き込んだ瞬間。
なぎとはせなの足を掴み、
そのまま体ごと持ち上げた。
「ち、ちょ……!? は……!?
これ、お姫様抱っこじゃ……!?」
夜風が二人の距離をさらに近づける。
せなの体温が、
なぎとの腕に伝わる。
「う、うるせぇ!!
お前が動かねぇんだからしょうがねえだろ!!」
なぎとは顔を真っ赤にし、
視線を逸らしながら叫ぶ。
「ほら! こっちの道から帰れるから!」
「ちょ! 下ろしてよ!
みんなの所に……!」
「おま……! 降りようとすんな……!」
せなはバタバタと暴れる。
そのたびに、
なぎとの腕が震える。
「おま……! ちょ……
本当にやめろ……!
……当たってるから……
本当に……やめろ……」
なぎとの声は震え、
息が乱れていた。
せなは一瞬だけ目を逸らす。
でも、すぐにまたなぎとを見る。
必死で、でもどこか照れている顔。
「意外と……かっこいい……?」
ぽつりと漏れたその言葉は、
夜風よりも静かで、
でもなぎとの胸に直撃した。
「……は?」
なぎとは動きを止めた。
目を見開き、
顔がさらに真っ赤になる。
「お、おま……!?
今、なんて……!」
「な、なにも言ってない!」
「いや、言っただろ!」
「言ってない! 絶対!」
「はぁ!? 言ってたし!」
「言ってない!」
せなは必死に首を横に振る。
「嘘つけ!
だって……さっき……
かっこいいって……」
「っ……!
あ、あれは!
なぎとの事じゃないっていうか……!
いや、なぎとの事だけど!」
「どっちなんだよ!」
「あぁ、もう! うるさい!
なんていうか、なぎとが一瞬かっこよく見えただけ!」
「っ……!
本当バカ……!」
なぎとは顔を真っ赤にしながら、
せなを抱えたまま走り出す。
その横顔は――
怒っているようで、
照れているようで、
でもどこか嬉しそうだった。
「あ、今はかっこいいじゃなくて可愛いだけどね」
「うるさい! 黙れ!」
そう叫びながらも、
なぎとの口元は
ほんの少しだけ、
にやけていた。




