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5人の言い合い、沸騰寸前のテーブル

5人の言い合い、沸騰寸前のテーブル

(あの後、なぎととせなはうるさいと店員さんに叱られました。そして、そこからかえってきた所からスタート)

 

 席に戻った瞬間、

 テーブルの空気は“ざわざわ”なんて生易しいものではなく、

 まるで鍋の底から泡が弾けるように、

 “ぐつぐつ煮立っている”ようだった。


 照明の柔らかいオレンジ色が、

 全員の頬をほんのり赤く染めている。

 その赤みが、怒りなのか照れなのか、誰にも判別できない。


「……おかえり、二人とも」


 あおばが椅子にもたれ、

 ニヤニヤと口角を上げた。

 その目は完全に“何か言う気”で光っている。


「な、なんだよその顔……」


 なぎとが眉をひそめ、

 ストローを噛みながら睨む。


 あおばは肘をつき、

 わざとらしく肩をすくめた。


「いや〜……

 さっきの“お前に決まってんだろ”事件がさぁ〜」


「言うなぁぁぁぁぁ!!!!!」


 バンッ!!


 なぎとが机を叩いた音が、

 店内の空気を震わせた。

 近くの席の客がびくっと肩を跳ねさせる。


「な、なぎと……声……! さっき、注意されたばっかだろ……!」


「うるせぇ!!

 忘れろって言ってんだろ!!」


 なぎとは両手で顔を覆い、

 耳まで真っ赤にして震えていた。

 指の隙間から覗く目は、

 羞恥と怒りと焦りがぐちゃぐちゃに混ざっている。


---


「いや、忘れろって言われてもさぁ……」


 しゅいはストローを噛んだまま、

 わざとらしく深いため息をつく。

 その視線はなぎとに向けられ、

 どこか嫉妬の色が混ざっていた。


「“お前に決まってんだろ”は……

 さすがに……ねぇ?」


「しゅいぃぃぃぃぃ!!!!! お前も言うな!!!!!」


 なぎとは顔を覆ったまま叫ぶ。

 声が震えているのは、怒りか照れか。


「いや言うだろ普通!!

 あんなの聞いたら!!」


「聞くなって言ってんだろ!!」


「無理だって!!

 耳ついてんだから!!」


「じゃあ耳塞げよ!!」


「塞いでたら聞こえねぇだろ!!」


「それでいいんだよ!!」


「意味わかんねぇ!!」


 二人の声が重なり、

 テーブルの上のグラスがかすかに揺れた。


---



「……でも……」


 ひばりが小さく呟いた。

 その声は震えているのに、

 言葉は妙に鋭かった。


「“お前に決まってんだろ”って……

 言い間違いには……聞こえませんでした……」


「ひばりぃぃぃぃぃ!!!!!」


 なぎとはテーブルに突っ伏し、

 肩をガクガク震わせる。


「なんでお前ら全員!!

 俺の敵なんだよ!!」


「敵じゃないよ〜」


 あおばがニヤニヤしながら言う。

 その目は完全に楽しんでいる。


「ただの事実確認だよ〜」


「黙れあおば!!!!!」


 なぎとの声が裏返った。


---



「ちょ、ちょっと!!

 なんでみんなでなぎと責めてんのよ!!」


 せなが勢いよく立ち上がる。

 椅子がキィッと音を立てた。


「責めてねぇよ!!

 ただ事実を――」


 あおばが言いかけた瞬間、


「事実じゃない!!

 言い間違いだって言ってんだろ!!」


 なぎとが叫ぶ。

 その声は必死で、どこか苦しげだった。


「じゃあなんでそんな真っ赤なの……?」


 せなが問い詰めると、

 なぎとは一瞬言葉を失った。


「お前が変なこと言うからだろ!!」


「へ、変なことなんて言ってない!!」


「言ってる!!」


「言ってない!!」


「言ってるって言ってんだろ!!」


「なにその理論!!」


 二人の距離はいつの間にか近く、

 息が触れそうなほどだった。


---


「いや〜……

 でもさぁ……

 “お前に決まってんだろ”って……

 普通に告白じゃね?」


「告白じゃねぇぇぇぇぇ!!!!」


 なぎとが叫ぶ。

 声が裏返り、耳まで真っ赤。


「じゃあ何?」


「言い間違いだって言ってんだろ!!」


「どこをどう言い間違えたら

 “お前に決まってんだろ”になるの?」


「…………」


 なぎとは固まった。

 目が泳ぎ、喉が上下する。


「ほら言えよ〜?」


「…………」


「言えないの〜?」


「…………」


「ねぇねぇ〜?」


「うるせぇぇぇぇぇ!!!!」


 なぎとは頭を抱え、

 髪をぐしゃぐしゃにかき乱した。


---



「……てかさ」


 しゅいがぼそっと言った。

 その声は低く、どこか寂しげだった。


「“お前に決まってんだろ”なんて……

 俺だって言ったことねぇのに……

 なぎとだけずるい……」


 その言葉に、

 せなの胸が一瞬きゅっと締めつけられた。


(……しゅい……

 どういう意味……?)


---



「……僕も……

 そんな……

 はっきり言えません……」


 ひばりは俯き、

 胸の前で手をぎゅっと握った。


「……羨ましいです……」


 その声は小さく、

 でも確かに震えていた。


(羨ましい……?

 みんな……

 “お前に決まってんだろ”って言いたいの……?)


 せなの頭がぐらぐら揺れる。


---



(なんで……

 なんでみんなそんな顔するの……

 なんで……

 私までこんな……)


 胸がざわざわして、

 心臓がうるさくて、

頭が熱くなる。


「……もう!!

 全員うるさい!!!!!」


 せなが叫んだ。

 声が震えていた。


「私だって!!

 混乱してんの!!

 “お前に決まってんだろ”なんて言われたら!!

 混乱するに決まってるでしょ!!!!!」


 その瞬間――


 空気が止まった。


 なぎとは真っ赤になり、

 しゅいは目をそらし、

 ひばりは息を呑み、

 あおばはニヤァ……と笑った。


「……へぇ」


「うるさいあおば!

 きもい、気持ちわるい!」


「ちょ、ひど!!」


 あおばが情けない声を上げ、

 テーブルの上の空気は、

 さらにぐつぐつと煮立っていった。

 

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