停電より騒がしい、恋の大渋滞
停電より騒がしい、恋の大渋滞
「……すみません。
危なかったので……」
ひばりは視線をそらし、
落ち着こうとしているのが分かる。
声は小さく、ほんの少し震えていた。
「ひばりこそ大丈夫? びっくりしたでしょ」
「……僕は……その……大丈夫です。
せなさんが無事なら……」
そこまで言ったところで――
カフェのドアが勢いよく開いた。
「せなーーっ!」
「せな!」
「せな!」
三つの声が重なり、
店内の客が一斉に振り向く。
「え……?」
せなとひばりが振り返ると、
しゅい、なぎと、あおばが息を切らして立っていた。
「なんで来たの……?」
せなが驚き混じりに言うと、
しゅいが真っ先に駆け寄ってきた。
「いや、ひばりと二人で行ったからさ!
なんか気になって! 走ってきた!」
なぎとも続く。
「お、俺も……
なんか……気になって……」
あおばも息を整えながら言う。
「……せな……大丈夫か……?」
ひばりは三人の視線を受け、
肩がわずかに揺れた。
でも姿勢は崩さない。
ただ、呼吸が浅くなる。
(ひばり……焦ってる……)
せなはそっとひばりの袖をつまんだ。
「ひばり、大丈夫?」
「……はい……
ただ……少し驚いて……」
ひばりは静かに答えた。
---
そして、店員さんに軽く注意され、
四人はせなとひばりの席に合流した。
しゅいがテーブルに肘をつきながら言う。
「で、せな。
ひばりと何してたの?」
「な、何もしてないよ!?
停電して……転びそうになって……
ひばりが支えてくれただけ」
「……そうか」
しゅいは納得したように頷く。
なぎとも言う。
「ひばり……ナイス」
ひばりは一瞬だけ目を伏せ、
静かに言った。
「……暗かったので……
せなさんが危なくて……
僕は……その……」
言葉が詰まる。
でも取り乱さない。
ひばりらしい“静かな焦り”。
あおばも口を開く。
「……せな、怪我してない?」
「してないよ。ひばりが支えてくれたから」
ひばりの肩がわずかに震えた。
---
すると、しゅいがストローを噛みながら言った。
「……なぁ、せな。
前から思ってたんだけどさ」
「え?」
「せなって……好きな人いるの?」
「っ……!」
せなは思わず息を呑んだ。
なぎとも続く。
「なんか……今日のせな……
いつもより……その……
落ち着かないっていうか……」
「お、俺も思った……
なんか……雰囲気違う……」
あおばは、
せなをじっと見つめたまま黙っていた。
“知っている側”の静けさだった。
「えっ……!? ち、違っ……!」
せなは慌てて頬を押さえた。
ひばりは――
完全に固まっていた。
視線はテーブル、呼吸は浅い。
でも姿勢は崩さない。
(ひばり……状況が飲み込めてない……
でも、崩れないのがひばり……)
しゅいがさらに追い込む。
「で? いるの? いないの?」
「な、なんでそんな聞き方……!」
「いや、気になるだろ普通」
なぎとも言う。
「せな……
好きな人……いるのか……?」
せなは完全に追い込まれた。
「……っ……
そ、そんな急に言えるわけ……!」
その時だった。
---
「俺せなの好きな人知ってるよ! せなの好きな人はし――」
「やめてぇぇぇぇぇぇ!!」
せなは反射的に立ち上がり、
あおばに抱きついて口を塞いだ。
「むぐっ!? せな!?!?」
店内が一瞬静まり返る。
「……え?」
「……は?」
「……っ……」
ひばりの肩が大きく揺れた。
視線が泳ぎ、呼吸が浅くなる。
でも姿勢は崩さない。
ただ、状況が完全に把握できていない。
あおばは、
せなに抱きつかれたまま固まり、
顔を真っ赤にして放心していた。
「な、なんで言おうとするの!?
あおばは黙ってて!!」
「むぐぐ……!」
あおばは必死に手を振る。
---
そして、せなはあおばから離れ、
席に戻った。
ひばりはまだ視線をそらしたまま、
胸元を押さえていた。
「……せなさん……
その……大丈夫ですか……?」
声が震えている。
ひばりはまだ混乱の中にいた。
「だ、大丈夫……!
ひばりこそ……」
「……僕は……その……
本当に……だ、大丈夫なの……で……」
ひばりは静かに息を整えようとしていた。
しゅいが再び口を開く。
「で、せな。
好きな人いるの?」
「まだ聞くの!?!?」
「聞くよ。気になるし」
なぎとも言う。
「……俺も……気になる……」
せなは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「い、いるとかいないとか……
そんなの言えるわけ……!」
ひばりは――
その会話を聞きながら、
静かに視線を落とし、
胸元を押さえた。
「……好きな人……」
ひばりは小さく呟いた。
その声は震えていた。
「……僕は……
こういう話……
慣れてなくて……」
ひばりはゆっくりと顔を上げた。
その瞳は揺れていた。
「……でも……
誰が誰を好きでも……
僕は……その……
ちゃんと……聞きます……」
ひばりの声は静かで、
でも確かに“ドキドキ”が滲んでいた。
せなの胸が跳ねる。
店内の空気が、
ゆっくりと甘く、熱く変わっていく。




