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非常灯よりも確かだったのは、君の手

すみません。みのがかけません。

非常灯よりも確かだった、ひばりの手

「3人とも、ごめん……!」


 せなは震える息を吐き、

 迷いを断ち切るように――


 ひばりの手を取った。


 ひばりの瞳が一瞬だけ大きく揺れる。

 驚きと、嬉しさと、戸惑いが全部混ざったような色。


「……せなさん……?」


 ひばりが小さく呟く。


 せなはその手をぎゅっと握り直し、

 顔を上げて言った。


「ひばり、行くよ!」


 その声は強くて、でもどこか震えていた。

 ひばりは一瞬だけ目を丸くしたあと、

 ふわりと微笑んで頷いた。


「……はい!」


 二人はそのまま部屋を出た。

 背後で、しゅい・なぎと・あおばの声が

 「えっ」「なんで!?」「はぁぁ!?」

 と重なっていたが、もう振り返らなかった。

 


 そして、カフェの柔らかい灯りの下で、

 せなとひばりは向かい合って座っていた。


 ひばりはメニューを開きながら、

 せなの表情をそっと伺っている。


「……せなさん。

 さっきの……話してもらえませんか?」


 その声は押しつけがましくなく、

 ただ“聞く準備ができている”という優しさだけがあった。


 せなは、

 胸の奥に溜まっていたものが

 少しずつほどけていくのを感じた。


「……あのね。

 さっき、あおばが……」


 気づけば、

 せなは全部話していた。


 ひばりは一度も遮らず、

 驚いたり笑ったりしながら、

 でもずっと真剣に聞いてくれた。


 話し終わる頃には、

 胸の重さがすっかり軽くなっていた。


「……全部聞いてくれて、ありがとう」


 せながそう言うと、

 ひばりはふわりと微笑んだ。


「いえ。

 僕は……せなさんが話してくれたのが嬉しいです」


 その笑顔は、

 カフェの灯りよりも温かかった。


---


 その瞬間だった。


 バチッ――。


 店内の照明が一斉に落ち、

 カフェが暗闇に包まれた。


「えっ……!?」


 せなは思わず身を縮める。

 周囲から小さな悲鳴やざわめきが上がる。


 暗闇の中、

 ひばりの姿が見えない。


「ひばり……?

 ひばり、どこ……?」


 せなは手探りでテーブルの縁をなぞり、

 椅子の位置を確認しながら立ち上がる。


 その時――


 ガタンッ!


「きゃっ……!」


 足元に何かが転がっていて、

 せなはつまづき、前のめりに倒れそうになった。


 暗闇の中で、

 ひばりの焦った声が響く。


「せなさんっ……!?」


 次の瞬間――


 ぎゅっ。


 ひばりの腕が、

 せなの体をしっかりと抱きとめた。


 暗闇の中で、

 ひばりの体温がすぐ近くにある。


「だ、大丈夫ですか……!?

 せなさん、怪我……!」


 ひばりの声は震えていた。

 せなよりも、ずっと焦っている。


「ひ、ひばり……?

 どこ……?」


「ここです……!

 僕、ここにいます……!」


 ひばりはせなの肩を抱いたまま、

 必死に支えてくれていた。


 暗闇の中で、

 ひばりの息が近い。

 胸の鼓動が伝わるほど近い。


(な、なんでこんなに近いの……!?

 てか、ひばり……めっちゃ焦ってる……)


 せなの顔が熱くなる。


 そして――


 パッ。


 非常灯が点き、

 店内が薄明るくなった。


 ひばりとせなの距離は、

 ほとんどゼロだった。


「……っ!」


 ひばりは一瞬で顔を真っ赤にし、

 慌てて手を離した。


「す、すみませんっ……!

 あの……本当に違うくて……!」


 ひばりは耳まで真っ赤で、

 手をぶんぶん振って否定する。


 せなも同じくらい顔が熱い。


「い、いいよ……!

 助けてくれたんだし……!」


「で、でも……! ごめんなさい……」


「ひばりが助けてくれたんだから……

 それでいいの……!」


 せながそう言うと、

 ひばりは一瞬固まり――


 ゆっくりと、

 胸に手を当てて息を整えた。


「……よかった……

 本当に……怪我がなくて……」


 その声は震えていた。

 ひばりがどれだけ焦っていたか、

 その一言で全部わかった。


 せなは胸がじんわり熱くなる。


「……ひばり。

 ありがとう」


 ひばりは顔を赤くしたまま、

 小さく頷いた。


「……僕の方こそ……

 せなさんが無事で……

 ほんとに……よかったです……」


 その声は、

 暗闇よりも、

 停電よりも、

 抱きしめられた瞬間よりも――


 ずっと心臓に悪かった。

 

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