好きになるじゃん、なんて言うんじゃなかった
好きになるじゃん、なんて言うんじゃなかった
春の光が差し込む部屋で、
せなはまだ顔を隠したまま、
あおばは隣で照れ笑いしていた。
しばらくして、
あおばがふっと立ち上がる。
「……じゃ、俺……行くわ」
「……え?」
せなは顔を隠したまま、
ほんの少しだけ指の隙間からあおばを見る。
あおばは耳まで赤いまま、
でも無理やり平然を装っていた。
「なんか……
これ以上いたら……
俺が死ぬ」
「は?」
「じゃあな、せな。
また後で」
そう言って、
あおばは部屋を出ていった。
ドアが閉まる音がして、
足音が遠ざかる。
――静かになった。
せなはゆっくりと顔を上げる。
「……行った……?」
そっと立ち上がり、
ドアに近づいて耳を当てる。
気配はない。
「……ほんとに行った……」
せなは胸を押さえ、
深呼吸した。
そして――
ベッドに倒れ込む。
「……っ……
なにあれ……
なんなのあいつ……!」
枕に顔を押しつけてバタバタ暴れる。
「“可愛い”とか……
“昨日より今日の方が可愛い”とか……
なんなの!?
バカなの!?
死ぬの! 私が!!」
布団を抱きしめて転がる。
「手とか……
肩とか……
掴んでくるし……
距離近いし……
声低いし……
なんか……
ずるいし……!」
せなは枕に顔を埋めたまま叫ぶ。
「……あんなの……
照れるに決まってるじゃん……
バカ……
ほんとバカ……
あおばのくせに……!」
そして、
ぽつりと小さく呟いた。
「……あんな顔されたら……
……好きになる……じゃん……」
その瞬間。
「……へぇ」
「っ!!?」
せなは飛び起きた。
ドアの方を見る。
――少しだけ開いていた。
その隙間から、
あおばが顔を出していた。
真っ赤な顔で。
「……い、今の……
全部聞こえたんだけど……」
「っっっっっ!!???」
せなは一瞬で固まった。
顔が真っ赤を通り越して、
もう熱湯みたいに熱い。
「な、な、な、なんで……
なんでいるの!?
行ったんじゃ……!」
「行ったよ。
階段降りたよ。
でも……なんか……
気になって戻ってきた」
「戻ってくんな!!」
「いや戻るだろ。
せながあんな顔してたら」
「見てない!!
聞いてない!! 戻ってくんな!
忘れて!!」
「無理」
「無理じゃない!!」
「無理だって」
あおばは部屋に入ってきて、
ドアを閉めた。
せなは後ずさる。
「ちょ、ちょっと……
来ないで……!」
「来るだろ」
「来ないで!!」
「来るって」
あおばはゆっくり近づき、
せなの目の前で立ち止まった。
顔は真っ赤。
でも目はまっすぐ。
「……さっきの……
“好きになるじゃん”って……
どういう意味?」
「っ……!!
言ってない!!
言ってないから!!」
「言ってた」
「言ってない!!」
「言ってたって」
「言ってない!!」
せなは顔を覆って震える。
あおばはその手をそっと掴んだ。
「……せな」
「な、なに……」
「俺のこと……
好きになりそうって……
ほんと?」
「っっっ……!!」
せなは限界照れで固まる。
でも――
逃げない。
あおばはその様子を見て、
ゆっくり笑った。
あおばはその様子を見て、
ほんの少しだけ息を吸った。
「……俺はもう……
とっくに好きだけどな……」
「っ……!!?」
せなの肩が跳ねる。
顔が一瞬で真っ赤になる。
その“反応”を見た瞬間――
あおばの脳が一瞬で理解した。
(……え……? 今……俺なんて……)
そして次の瞬間。
「っ……あっ……え、ちょ……
ま、待って!!
今のなし!!
やめて!!
忘れろ!!
ほんとに!!」
あおばの顔が一気に真っ赤。
耳までじゃない。
首まで真っ赤。
「ちょ、ちょっと待て……
なんで言った俺!?
バカか!?
死ぬ!!」
「し、死なないで!!」
「死ぬ!!」
「死なない!!」
「死ぬって!!」
あおばは頭を抱えてしゃがみ込む。
せなも真っ赤なまま固まる。
「だって……
せなが……
そんな顔するから……
つい……!!
つい言っちまったんだよ……!!」
「ついで言うな!!」
「ついだよ!!
だって……
お前……
あんな反応……
反則……!!」
二人とも真っ赤。
声は強気なのに震えている。
あおばは顔を覆ったまま、
小さく、でもはっきり言った。
「……っ……
取り消したいけど……
嘘じゃねぇから……
無理……」
「っ……!!」
せなは顔を覆ったまま固まる。
あおばはさらに真っ赤になりながら、
せなの横にそっと座った。
その時だった。




