キスした方が倒れてしまったと言うおかしな話
むり
キスした方が倒れるってどう言うこと
公園の街灯がぽつぽつと灯り始め、
夜の気配がゆっくりと地面に降りてくる。
風は昼より冷たく、木々の葉を揺らしながら、
さっきまでの夕焼けの余韻をさらっていった。
「やっぱりあおばじゃ私を照れさせるなんて無理無理」
せなは、わざとらしく肩をすくめて言った。
その声は軽いのに、胸の奥はまださっきの夕暮れの温度を引きずっている。
「いや、絶対できる!」
「いや、無理だったじゃん」
「できるったらできるの!」
あおばは顔を真っ赤にして叫ぶ。
街灯の光がその赤さをさらに強調して、
せなは思わず目をそらした。
「諦めたら?」
「諦めない!」
あおばはそう言うと、バッグをごそごそと漁り、
何か小さなものを取り出した。
「……その……これつけといて……」
差し出されたのは、黒い布――目隠しだった。
「え、なんで?」
「な、なんでもいいだろ!」
あおばは耳まで真っ赤にして叫ぶ。
その必死さが逆に可愛くて、せなは少し笑いそうになる。
「わかった……?」
よく分からないまま、せなは目隠しをつけた。
視界が真っ暗になり、風の音とあおばの呼吸だけが近くなる。
「……これで照れなかったら……もう俺諦める」
「うんうん。いい検討だ」
せなは軽く頷いた。
けれど心の中では――
(何何何!? 何されるの!? 怖いんだけど……!)
胸がざわざわして落ち着かない。
「……」
あおばはしばらく黙り込んだ。
風が二人の間を通り抜け、
夜の匂いがゆっくりと漂う。
(……本当にやるのか……?
でも……やるしかない……)
あおばは小さく息を吸い、
そっと顔を寄せた。
そして――
チュッ。
せなの頬に、あおばの唇が触れた。
「!?」
せなの体がびくっと跳ねる。
頬に残る温度が、夜風よりも熱い。
心臓が一瞬で跳ね上がり、
呼吸が止まった。
せなは慌てて目隠しを外し、あおばを見る。
「何して……!」
「……し、しょうがないだろ……
お前が……今まで照れなかったのが……悪い……!」
あおばは顔を逸らし、
せなが覗き込むと、
その横顔は信じられないほど真っ赤だった。
「ごめ……もう無理……かも……」
そう言った瞬間、
あおばはふらりと前に倒れ――
そのままベンチに気絶した。
「ちょ……!」
せなは慌てて支える。
夜風が二人の間をすり抜け、
街灯の光があおばの顔を淡く照らした。
「これ……どう運べばいいのよ……」
しばらく迷った末、
せなはあおばをおんぶすることにした。
背中に感じる体温。
腕にかかる重さ。
そして、あおばの髪が首に触れるたび、
胸が妙にざわつく。
「にしても……あおば軽いな……。
……って、私何考えて……!」
せなは首を横に振る。
こんなふうに意識するなんて、
本来ありえないはずだった。
あおばはただのからかい相手。
犬みたいに懐いてくるだけの存在。
そう思っていたのに――
今は、背中に感じる体温が
どうしようもなく“男の子”で。
「にしても、最近あいつもこいつもキスばっかり……
私の事、照れ死にさせる気なのかな……」
しゅいも、なぎとも、そしてあおばも。
みんながみんな、なぜか私にキスをしてくる。
意味がわからない。
本当に。
キスって、もっと特別な人にするものじゃないのか。
結婚相手とか、恋人とか。
なのに、最近の男子達は壊れたみたいにキスしてくる。
思い出すだけで、頬が熱くなる。
「もう……男子達のバカ……」
夜風がせなの髪を揺らし、
街灯の光が二人の影を長く伸ばした。
せなはあおばを背負ったまま、
ゆっくりと歩道を歩いていった。
無理




