夕暮れの膝の上で、心臓がバグった
無理
夕暮れの膝の上で、心臓がバグった
プラネタリウムを出ると、外はすっかり夕暮れだった。
建物のガラスに映る空は、オレンジから群青へとゆっくり溶けていく途中で、
街灯がひとつ、またひとつと灯り始めていた。
風は昼より少し冷たく、頬を撫でるたびに、
さっきまでの星空の余韻を現実へ引き戻す。
あおばは手を繋いだまま歩いていた。
その手は、ほんのわずかに震えている。
けれど離す気配はない。
(……やば……
手、まだ繋いでる……
これ……どうしたらいいの……
離したいけど……離したくない……
いや、てか……近い……!)
せなの心は大混乱していた。
けれど表情はいつもの落ち着いた顔で、
風に揺れる髪だけが、ほんの少しだけ動揺を代弁していた。
一方のあおばは――
(……くそ……
なんで俺ばっかり……
こんな……
心臓うるせぇ……)
耳まで真っ赤にしながら、
せなの手をぎゅっと握り直した。
その仕草は、照れ隠しなのか、覚悟なのか、本人にも分からない。
「……なぁ、せな」
「ん?」
「つ、次……どこ行く……?」
「どこでもいいよ?」
「……じゃ、じゃあ……」
あおばは視線をそらし、
夕暮れの光に照らされた横顔がさらに赤くなる。
それでも勇気を振り絞って、せなの方を見た。
「……公園……行こ」
「いいよ」
せながふっと笑う。
その柔らかい笑みは、夕日の色と混ざって、
あおばの胸を一瞬で撃ち抜いた。
(……その笑い方……
ほんと……心臓に悪い……
俺……今日死ぬんじゃねぇか……?)
――
公園につくと、街灯がぽつぽつと灯り、
ベンチの影が長く伸びていた。
風は少し冷たくなり、木々の葉がさらさらと揺れる。
二人は並んでベンチに座った。
「……あ、あのさ」
「ん?」
「……さっきの……プラネタリウム……本当に照れてなかった……?」
「当たり前じゃん」
「普通照れるのに……なんでお前は照れないんだよ……」
あおばは悔しそうに言う。
その声は小さく、どこか拗ねていた。
(いやいや、照れてたよ!?
めっちゃ照れてたよ!?!?
むしろ倒れそうだったよ!
でも言えない……! 言ったら、こいつは絶対調子乗るから!)
せなは心の中で叫びながらも、
表情はあくまで平然を保つ。
そのギャップが、あおばをさらに混乱させる。
しばらくして、あおばは深呼吸をし、
夕暮れの風を胸いっぱいに吸い込んでから、せなの方へ向き直った。
「……なぁ、せな」
「何?」
「ちょっと……こっち来て……」
「?」
せなは不思議そうに立ち上がり、あおばの前に立つ。
街灯の光が二人の影を重ねた。
(なになに……? 近いよ……)
「で、俺にその……背中向けて……」
「わ、わかった……?」
せなは戸惑いながら背中を向ける。
風が髪を揺らし、あおばの視界にふわりと入り込む。
「じゃあ……ここ……座って」
「は……?」
せなは言われるままに腰を下ろした――
と思った瞬間、違和感に気づく。
座ったのは、ベンチではなく――
あおばの膝の上だった。
「っ……!?」
(何何何!? どゆこと!?
これ、膝枕じゃなくて、膝……体って事!?
こいつ……!)
あおばは顔を逸らし、
街灯の光から逃げるように横を向いていた。
(やばいやばい、近い!
ちょ……! さすがにやりすぎだったかも……!
せなからなんか香水か知らんけどいい匂いするし……!
本当に俺が壊れる……!)
あおばは心の中で叫びながら、
せなの肩をそっと押した。
「もう……離れて……」
「……え、なんで?」
「は、は!? そりゃ、その……恥ずかしいからに決まって……!」
「攻めるんじゃなかったの?」
「そうだけど……! マジで近い……無理……」
あおばの声は震えていた。
夕暮れの風よりも弱く、
でも必死で。
せなは仕方なさそうに膝から離れる。
「……あったかかったよ」
「っ……! お前、不意打ちやめろ!」
あおばは顔を真っ赤にし、
耳まで熱くなっていた。
(……こうなったら、最終手段だ……)
無理




