平然な君と、崩壊する俺のテーブル席
無理
平然な君と、崩壊する俺のテーブル席
家を出てから、二人は並んで歩いていた。
春の風が少し冷たくて、でも心臓は妙に熱い。
(……あおば、今日なんか……気合い入ってる……?
距離近いし……歩幅合わせてくるし……
やば……)
せなは心の中で何度も深呼吸していたが、表情はあくまで平然。
一方のあおばは――
(……やべ……
なんでこんな緊張してんだ俺……
昨日より距離近い……
てか……手、触れそう……)
攻めるつもりで誘ったのに、
自分の心臓が一番暴れている。
「……あのさ」
あおばがぽつりと口を開く。
「ん?」
「……腹、減ってない?」
「減ってるよ?」
「じゃ、じゃあ……その……
レストラン……行く?」
「うん、行こ」
せなが笑うと、あおばは一瞬固まった。
(……っ……
その笑い方……反則……)
でも絶対に言わない。
言ったら負けだ。
---
レストランに入ると、店員が席に案内してくれた。
店内は落ち着いた雰囲気で、
窓際の席に案内された。
テーブルの上には小さなランプが置かれ、
柔らかい光が二人の顔を照らす。
(……なんか……デートみたい……
いや、デートなんだけど……
やば……)
せなは心臓を押さえたくなるのを我慢する。
一方あおばは――
(……近い……
向かい合うの……近い……
目合わせられねぇ……)
メニューを開く手が微妙に震えている。
「何にする?」
「え、あ、ああ……
なんでも……いい……」
「なんでもいいって言う人が一番困るんだよ?」
「う……」
あおばは言い返せず、視線をそらす。
(……くそ……
なんで俺が押されてんだよ……
攻めるって決めたのに……)
結局、二人はパスタを頼んだ。
---
そして、料理が運ばれてきた瞬間、
あおばの表情が一瞬だけ引き締まった。
(……よし……
ここだ……
ここで攻める……!)
フォークを手に取り、
パスタをくるくる巻きながら、
ちらっとせなの方を見る。
「……なに?」
「べ、別に……」
あおばは視線をそらし、
でもまたすぐにせなを見る。
(……言え……
言え俺……
昨日の仕返し……
照れさせるって決めただろ……!)
そして――
「……あ、あのさ……」
「ん?」
「……ア、アーン……してやろうか……?」
言った瞬間、
あおばの顔が一気に真っ赤になった。
「……え?」
「い、いや……その……
昨日の……仕返し……で……
お前が照れないから……
照れさせようと思って……
アーン……して……やる……」
声がどんどん小さくなる。
(え、無理無理無理無理! 理性が保てなくなっちゃうよ……)
でも、せなは平然とした顔で言う。
「別にいいよ?」
「……っ!!?」
あおばの手が止まった。
フォークの先でパスタがぷるぷる震えている。
「い、いいの……?
ほんとに……?」
「うん。してくれるんでしょ?」
「……っ……
あ、あたりまえ……だろ……!」
あおばは震える手でフォークを持ち直し、
パスタをせなの口元へ運ぶ。
距離が近い。
近すぎる。
(やば……
近い……
息……かかる……
無理……)
あおばの心臓は爆発寸前。
「はい、あーん……」
声が震えている。
せなはゆっくり口を開け、
パスタを食べる。
「……おいしい」
「っ……!!」
あおばは顔を覆いたくなるほど真っ赤になった。
「な、なんで……
なんで普通に食べられんだよ……
照れろよ……!」
「別に? 普通だよ?」
「普通じゃねぇよ!!
アーンだぞ!?
アーンって……
もっと……こう……
照れるやつだろ……!」
「いや、私は照れない」
「もう、なんでなんだよ……」
あおばはテーブルに突っ伏しそうになった。
(アーン、やばすぎ! 待って、普通に心臓止まるって!)
「……じゃあ、次あおばの番ね」
「は……?」
「アーンしてあげる」
「っっっ!?!?」
あおばの顔が一瞬で真っ赤になった。
「い、いや……
俺は……その……
いい……!」
「なんで?」
「なんでって……
お前に……アーンされるとか……
無理……!」
「無理って言われても」
せなはフォークを持ち、
パスタをくるくる巻いて――
「あおば、口開けて?」
「む、無理無理無理無理!!」
あおばは椅子ごと後ろに下がった。
「逃げるの?」
「逃げるわ!!
こんなん……
照れ死ぬ……!」
「じゃあ、ほら」
せなは身を乗り出し、
あおばの口元にフォークを近づける。
距離が一気に縮まる。
「っ……!!
ち、近……っ……!」
「食べないの?」
「……っ……
た、食べる……!」
あおばは覚悟を決め、
ぎゅっと目をつぶって口を開けた。
せなはそっとパスタを口に運ぶ。
「……どう?」
「……っ……
し、死ぬ……」
「え?」
「恥ずかしすぎて死ぬ……!!」
あおばは顔を覆い、
テーブルに突っ伏した。
(可愛すぎる……! やばい……!)
せなは心臓を押さえながら、
でも表情はあくまで平然。
「ねぇ、あおば」
「……なに……」
「まだ照れさせるつもりだったんでしょ?」
「……っ……
う、うるさい……
今日は……絶対……
お前を照れさせる……!」
「無理だよ?」
「無理じゃねぇ!!」
あおばは顔を真っ赤にしながら叫んだ。
(……ほんとは……
私の方が……
ずっと照れてるんだけどね……)
でも絶対に言わない。
レストランの柔らかい光の中で、
二人の距離はまた少し縮まった。




